仕切りのない箱を思い浮かべて、真ん中に線を引くだけ引いておきます。そこへ粒子を 1 個入れると、左半分にいるか右半分にいるかは決まりません。どちらも同じだけ起こります。
2 個にしても同じです。左右の分かれ方は 通りで、2 個とも左に寄るのはそのうちの 1 通りです。 回に 回ですから、めずらしいこととは言えません。3 個なら 通りのうち 1 通り、それでもまだふつうに起こります。
このままでは、箱の中がどうなっているかを言い当てられません。ところが粒子の数を増やしていくと、様子がまるで変わります。変えるのは数だけで、法則は 1 つも足しません。
個のうち左に 個いる分かれ方は 通りあります。粒子 1 個ずつの居場所を決めた並びを 1 つと数えると、どの並びも同じだけ起こるので、通り数の多い がそのまま起こりやすい になります。
図はその通り数を の順に並べたものです。 では横並びに近く、どの もそれなりに起こります。 を増やしていくと真ん中が高くなり、両端は目で見えるほどの高さを失います。
全部が左に寄る は、 がいくつでも 1 通りのままです。いっぽう真ん中の は とともに桁で増えていきます。両端は増えず真ん中だけが増えるので、比べものにならなくなります。
山がどれだけ広がっているかは、中心からのずれの標準偏差で測れます。左にいる個数のばらつきは です。 そのものではなく、その平方根でしか増えません。
を 倍にすると、山の中心 は 倍の位置へ動きます。ところが幅は 倍にしかなりません。中心の伸び方に幅がまるで追いつかないので、山は伸びた横軸の上で細くなっていきます。
図は横軸を に合わせて伸ばしながら山を描いたものです。幅そのものは確かに広がっているのに、伸びていく全体の中では針のように細くなります。
意味があるのは幅そのものではなく、全体に対する割合のほうです。幅 を全体の で割ると になります。これが、半々からどれだけずれて見えるかの目安です。
なら 、 なら 、 なら の桁です。 の片寄りを測れる装置はありません。
図はこの割合の落ち方です。 の落ち方そのものは速くありません。速くないのに行き着く先が測れないほど小さくなるのは、相手にしている が桁違いに大きいからです。
個の粒子では、左右の数が半々から離れることは事実上ありません。起こらないのではなく、起こる割合が測れないほど小さい、というだけです。そしてそれは、確率をそのまま断定として使ってよいということでもあります。
そこまで分かれば、粒子を 1 個ずつ追う必要はありません。いちばん起こりやすい状態を 1 つ選び、そのまわりのごく狭いところだけを見れば足ります。 個ぶんの運動方程式を解かずに済むのは、このためです。
これが統計力学の出発点です。あとは、その「起こりやすさ」をどう数えるかが残ります。次はそこへ進みます。