「ご自愛ください」は「お体に気をつけてください」という意味です。男女年齢問わず使うことができる便利な表現です。年下の者が年上の者に使うことも、年上の者が年下の者に使うこともできます。
「自愛」自体が「体に気をつける」という意味を持っているので
お体にご自愛ください
という言い方はやや適切でないと考えられます。
「ご自愛ください」の例文
これを書いている人は日本語に正しいもへったくれもないと考えています。「ご自愛ください」もそうです。例えば、書籍やネットのページなどでサンプルとして使われそうな次の文はどうでしょうか?
寒くなってきましたので、ご自愛ください。
日本語の文法としては正しい。しかし言いまわしはどこかぎこちない。
寒くなってきましたので、お体にご自愛ください。
私はこちらのほうが上手な日本語のように思われます。たとえ文法的に誤りだとしても。
その理由は「ご自愛ください」といった堅苦しい、ややもすれば冷たいと思われる言葉は、短い区切りの中で使われると人情味のない印象を持つからです。そして「頭痛が痛い」と違い、「お体にご自愛ください」は見た目が重複していないため、文法的な誤謬にそこまで違和感がない。
短い区切りは冷たい印象を持つ
短い区切りが冷たい印象を持つのは、次のような例文でより明らかになります。
季節柄、ご自愛ください。
五十代の方が二十代の方からこのような文をもらったとして、どう思うでしょうか? ちなみに私は二十代ですが、このような文は怖くて書けません。手紙などの気をつかう文面においては、丁寧な表現と文の短く区切られた構造は本質的にかみ合わないのです。
もともとの文を点をつけないで書くと
寒くなってきましたのでご自愛ください。
となりますが、今度は冗長になってしまいます。「ので」の後に「ご」がつくからでしょう。では
寒くなってきましたからご自愛ください。
と書けばいいのでしょうか? しかし年配の方に「きましたから」と言える若者はいない。この文はかなり不遜です。
結論:「ご自愛ください」の妥当な使い方
寒くなってきましたので、どうかご自愛ください。
または
寒くなってきましたので、お体にご自愛ください。
「どうか」という微妙に謙虚な言葉を使うと、「ご自愛ください」という言葉の冷たい堅苦しさをやわらげることができます。
補足:なぜ「体に気をつけてください」よりも「ご自愛ください」なのか?
「体に気をつけて」でもまったく問題ないのですが、なんとなく「ご自愛ください」を使う人がいます。それは次の文に違和感があるからかもしれない。
寒くなってきましたので、お体に気をつけてください。
寒くなってきましたので、お体にお気をつけてください。
二つ目の文は「お」が重なっている時点でかなり冗長です。一つ目の文は、年上の者が年下の者に使うぶんには問題ありませんが、その逆は問題あるでしょう。なんとなく尊敬度が足りない。
そこで、二つ目の文の「お」が重なる問題をクリアするために「ご自愛ください」を使うのです。