2 次正方行列の行列式|定義・たすき掛け・外積とのつながり
2 次の正方行列には、 という数がひとつ付いてくる。これが行列式である。
逆行列を持つかどうかも、2 本の行が平行かどうかも、この 1 つの数で決まる。2 次正方行列の和と積では成分ごとの計算を見たが、ここでは行列全体を 1 つの数に押し込める。
行列式の定義
左上と右下を掛けたものから、右上と左下を掛けたものを引く。
足すほうと引くほうを取り違えると、符号が反転する。 はもとの値の 倍であり、別の数になってしまう。
記号の書き方
書き方は 2 通りある。 と書くか、行列を縦棒ではさむかである。
縦棒は絶対値と同じ形をしているが、意味は違う。行列式は負の値を取るので、 のような等式がふつうに現れる。
丸括弧でくくれば行列そのもの、縦棒ではさめばそこから作った 1 つの数を指す。書き分けを意識しておくと、あとの計算で混乱しない。
例:数を入れて計算する
掛け算 2 回と引き算 1 回で終わる。成分がどれも正でも、差を取るので値は小さくなりやすい。
例:負の値になる場合
引くほうが大きければ、行列式は負になる。この符号にも意味があり、あとで見る向きの話につながる。
例:文字を含む場合
因数分解すると である。 または のとき 0 になり、そのとき 2 本の行は同じか、符号だけが違う関係にある。
例:負の数と分数を含む場合
負の数が入っても手順は変わらない。掛けてから引く順序を守れば、符号の取り違えは起きない。
たすき掛けとして覚える
<svg viewBox="0 0 460 210" width="100%" style="max-width:460px;display:block;margin:0 auto">
<text x="230" y="26" font-size="11" fill="#9a9a9a" text-anchor="middle">右下がりの積を足し、右上がりの積を引く</text>
<path d="M 172 56 L 164 56 L 164 162 L 172 162" fill="none" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></path>
<path d="M 288 56 L 296 56 L 296 162 L 288 162" fill="none" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></path>
<line x1="202" y1="98" x2="252" y2="126" stroke="#1b81e0" stroke-width="1"></line>
<polygon points="258,130 248,127 251,121" fill="#1b81e0"></polygon>
<line x1="258" y1="98" x2="208" y2="126" stroke="#d0562a" stroke-width="1"></line>
<polygon points="202,130 209,121 212,127" fill="#d0562a"></polygon>
<text x="195" y="94" font-size="15" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">a</text>
<text x="265" y="94" font-size="15" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">b</text>
<text x="195" y="144" font-size="15" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">c</text>
<text x="265" y="144" font-size="15" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">d</text>
<text x="312" y="122" font-size="12" fill="#1b81e0">ad を足す</text>
<text x="76" y="122" font-size="12" fill="#d0562a">bc を引く</text>
<text x="230" y="194" font-size="11" fill="#9a9a9a" text-anchor="middle">2 つの積の差が行列式になる</text>
</svg>対角線を 2 本引き、右下がりの積から右上がりの積を引く。この形で覚えておけば、成分の位置を取り違えにくい。
3 次の行列式にも似た覚え方がある。ただし掛ける組が 6 通りに増えるので、そちらは別に扱う。
転置しても値は変わらない
行と列を入れ替えた行列を転置行列という。2 次では と が入れ替わるだけである。
と は同じ数なので、値はもとのままになる。したがって、行について成り立つ性質は列についてもそのまま成り立つ。
行を入れ替えると符号が変わる
2 本の行を入れ替えると、足す組と引く組が入れ替わる。
列を入れ替えたときも同じである。前節のとおり、行と列は対等に扱ってよい。
例:入れ替えて符号を確かめる
もとの の行列式は 2 だった。符号だけが変わり、絶対値は動いていない。
1 つの行を定数倍したとき
第 1 行を 倍すると、 も も同じだけふくらむ。
行列式は各行について線形にはたらく。多重線形性と呼ばれる性質で、次数が上がっても行列式を支える柱になる。
行列全体を定数倍すると 2 乗倍になる
行が 2 本あるので、全体を 倍すれば が 2 回くくり出される。
次なら 倍である。行列の定数倍は成分すべてに掛かるので、行列式では次数の分だけ効いてくる。
例:定数倍の効き方を数で見る
の行列式は 2 である。第 1 行だけを 3 倍してみる。
3 倍になった。全体を 3 倍すれば、今度は 倍の 18 になる。
一方の行に他方の何倍かを足しても変わらない
第 2 行に第 1 行の 倍を足す。増えた分は 2 本の行がそろった行列式にあたり、それは 0 になる。
値が動かないので、この操作で成分に 0 を作ってから計算してよい。行基本変形で行列式を求める手順は、ここから始まる。
例:0 を作ってから計算する
の第 2 行から、第 1 行の 2 倍を引く。
左下が 0 になり、値は 2 のままである。三角形の形に整えてから対角の積を取る、という一般の手順が 2 次でも使える。
2 本の行が比例すると 0 になる
第 2 行が第 1 行の 倍だとしてみる。
逆に、行列式が 0 なら 2 本の行は比例する。2 次では、行列式が 0 であることと 2 本の行が平行であることが同じ意味になる。
例:比例する 2 行で確かめる
第 2 行は第 1 行のちょうど 2 倍である。0 の成分が 1 つもないのに、行列式は 0 になった。
例:0 が並んでいても 0 とは限らない
対角が両方とも 0 なのに、値は である。前の例と合わせると、成分の見た目と行列式の値は結びつかないと分かる。
積の行列式は行列式の積
先に掛けてから行列式を取っても、行列式を取ってから掛けても、同じ値になる。
2 次なら成分で確かめられる。 として積の行列式を展開すると、 と 、 と が打ち消し合う。
残った 4 項をくくり直せば、ちょうど 2 つの行列式の積になる。
例:積で確かめる
と を取る。行列式はそれぞれ 2 と 5 である。
この行列式は になる。 と一致した。
対角行列と三角行列
対角成分を掛けるだけで済む形がある。単位行列の行列式は 1 で、対角行列なら対角の積になる。
三角行列も同じである。 か の一方が 0 なら が消えるので、 だけが残る。
例:三角行列の行列式
右上の 5 は値に関わらない。左下が 0 でありさえすれば、対角の積だけで決まる。
例:回転行列の行列式は 1
角 の回転を表す行列を考える。
と の積を引くので、符号が 2 度変わって足し算になる。回転は形も大きさも向きも変えないから、値が 1 になるのは見当どおりである。
外積との関係
2 本の行をベクトルと見る。、 と置けば、 は平面での外積そのものである。
右手系 3 次元座標とベクトルの外積で見たように、外積の大きさは で、2 本のベクトルが張る平行四辺形の面積にあたる。符号は 2 本の並び方、つまり向きを表す。
<svg viewBox="0 0 460 230" width="100%" style="max-width:460px;display:block;margin:0 auto">
<text x="230" y="24" font-size="11" fill="#9a9a9a" text-anchor="middle">2 本の行が張る平行四辺形</text>
<polygon points="110,185 245,140 290,50 155,95" fill="#1b81e0" fill-opacity="0.08"></polygon>
<line x1="70" y1="185" x2="400" y2="185" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></line>
<line x1="110" y1="215" x2="110" y2="40" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></line>
<line x1="110" y1="185" x2="245" y2="140" stroke="#1b81e0" stroke-width="1.5"></line>
<polygon points="250,138 240,136 242,144" fill="#1b81e0"></polygon>
<line x1="110" y1="185" x2="155" y2="95" stroke="#1b81e0" stroke-width="1.5"></line>
<polygon points="157,90 151,99 159,102" fill="#1b81e0"></polygon>
<line x1="245" y1="140" x2="290" y2="50" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1" stroke-dasharray="4 3"></line>
<line x1="155" y1="95" x2="290" y2="50" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1" stroke-dasharray="4 3"></line>
<text x="258" y="158" font-size="12" fill="#1b81e0">u = (3, 1)</text>
<text x="132" y="82" font-size="12" fill="#1b81e0">v = (1, 2)</text>
<text x="196" y="126" font-size="12" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">面積 5</text>
<text x="230" y="214" font-size="11" fill="#9a9a9a" text-anchor="middle">符号は u から v へ回る向きを表す</text>
</svg>図の 2 本を行に並べた行列は で、行列式は である。平行四辺形の面積と一致している。
面積や向きの読み方そのものは、行列式が表すものを扱う記事にゆずる。ここでは、行列式が外積の言い換えであることを押さえておけばよい。
例:3 次元の外積に現れる 2×2 行列式
三次元ベクトルの外積の成分表示で書き下した式を、行列式の形で読み直す。
と の外積を求める。第 1 成分は、 成分を落とした残りで作る行列式である。
第 2 成分は 成分を落として作り、符号を反転させて となる。第 3 成分は である。
外積は になった。3 次元の計算が、2 次の行列式 3 つに分かれている。
行列式が 0 のときに起きること
行列式が 0 なら 2 本の行は平行で、その行列は逆行列を持たない。連立方程式として読めば、解がないか、無数にあるかのどちらかになる。
逆行列の公式では で割ることになる。0 で割れないことが、逆行列を作れないことに直結している。
くわしくは 2 次正方行列の逆行列と 2 次正方行列と 2 次元ベクトルの積で扱う。行列式は、その判定を 1 つの数にまとめたものだと見ればよい。
他の話題とのつながり
3 次以上でも行列式は定義できる。ただし掛ける組が増えるので、たすき掛けの拡張や余因子展開といった手順が要る。
連立方程式を行列式だけで書き下す公式もある。クラメルの公式と呼ばれ、2 次では分母がちょうど になる。
行列式が 0 でないことは、2 本の行がそろっていないことでもある。この見方は、あとでベクトルの一次独立を学ぶときにそのまま生きる。











