大陸合理論(デカルト、スピノザ、ライプニッツ):イギリス経験論との違いと哲学者の思想をわかりやすく解説|高校倫理
大陸合理論とは、経験よりも生まれつきの理性を重んじる思想のこと。フランスなどの大陸側で発展したので「大陸」合理論といいます。
合理論と経験論は生得観念の考え方が異なります。生得観念は生まれながらにある観念で、合理論はこれを認めますが、経験論はこれを否定します。
合理論 | 経験論 |
---|---|
生得観念の肯定 | 生得観念の否定 |
演繹法 | 帰納法 |
合理論と経験論の違い
合理論は経験よりも生まれつきの理性を重視します。例えば、1 + 1 = 2 という計算はどうやって理解したでしょうか。その理解は、経験というよりも理性のおかげではないでしょうか。
何回も見て覚えたという人もいるでしょう。しかし 274 + 958 を計算できるのは、足し算というルールを理解しているからです。私たちは未知の状況に対応する力、つまり経験に頼らなくても問題を解決する力をもっていますね。
こうして合理論は「経験よりも前に理性がある」と考えます。
一方の経験論は「最初に経験がある」と考えます。足し算ができる赤ちゃんはいません。1 + 1 という式をまずは経験し、くりかえし似たような式を見て、初めて足し算という概念を知ります。私たちは未知に対応しますが、今までの経験をいかしているにすぎません。
合理論と経験論の違いをざっくりわかりやすく説明しましたが、どちらも少し極端ですね。実際、この二つは後に「合体」してドイツ観念論になります。高校倫理の重要なポイントはここで、合理論と経験論がドイツ観念論になっていく歴史は哲学史の中心です。
大陸合理論の哲学者
合理論の哲学者は主にデカルト、スピノザ、ライプニッツの三人。特にデカルトは最重要人物です。
- デカルト
- スピノザ
- ライプニッツ
デカルト
デカルトはフランスの哲学者・数学者で、演繹法や物心二元論といった思想を説きました。
- 演繹法
- 考える私(方法的懐疑)
- 物心二元論(座標)
- 高邁の精神
演繹法
演繹法とは、普遍的に正しい命題から、正しい論理によって次の命題を見つけていく方法のこと。例えば人はほ乳類です。そしてほ乳類は恒温動物なので、人は恒温動物です。こうした三段論法は典型的な演繹法といえます。
デカルトはベーコンやロックと違い、人は生まれついて理性をもつと考え、学問と科学の発展のためには演繹法が必要だと唱えました。
演繹法から正しい知識を見つけるためには、次の四つの規則を守る必要があります。
規則 | 意味 |
---|---|
明証性の規則 | 明らかなものだけを真実とする |
分析の規則 | 問題を小さく分けて考える |
統合の規則 | 単純なものを合成して複雑なものを考える |
枚挙の規則 | くまなく見落とさない |
この四つはとても重要で、今も科学やビジネスに応用されています。私たちが「賢く生きる」ために必要な規則といえるでしょう。プログラミング哲学も似たような思想を唱えていますが、デカルトの演繹法と四つの規則は実に普遍的です。
考える私
演繹法にとって根本的な原理はとても大切です。論理を組みたてる出発点にミスがあったら、演繹法による過程も結論もすべて誤りです。
なにが出発点か? 絶対に正しい真実とはなにか? そう考えるとすべてにミスがあるような気もします。
デカルトはこの思考する主体を「考える私」として、すべてについて正しいか正しくないか疑いました。これを方法的懐疑といいます。そして「今こうして疑っている私」がまぎれもない真実だと気づきました。これは「我思うゆえに我あり(コギト・エルゴ・スム)」と表されます。
物心二元論
デカルトは物質と精神を分けて考えました。
自分の外に広がっている世界や物質は、自分の気持ちと関係なく運動します。例えば、りんごは自分の意志に関係なく落ちる。落下という現象は、人間の心と関係ない原理によって起きています。世界と精神が分かれているからです。
このように自分の外側と内側を分けることを物心二元論(mind–body dualism)といいます。二元論そのものはプラトンの思想にもあります。
延長と座標
物心二元論をもとに、デカルトは物質の体積に注目しました。
物質がそこにあるのは、物質が空間を占めているからで、この意味で物質は「延長」だと考えた。しかし精神は空間を占めないので、「延長」はない。
この「延長」をより具体的に分析するために、デカルトは「座標」という概念をつくりました。中学校から数学で習ってきた座標はもともとデカルトが考えたアイデアです。
高邁の精神
デカルトは理性にしたがって感情をコントロールする精神を「高邁の精神」と呼びました。
スピノザ
スピノザはオランダの哲学者で、汎神論を唱えました。代表作は『エチカ』です。
- 汎神論
- 『エチカ』
汎神論
汎神論は「物体や精神は神が形を変えたもの」という考えです。
りんごが落ちる現象はいつも、どこでも成りたつ。スピノザは、こうした自然の必然性は、神が自然になった(神が自然という形をもった)からだと考えました。日本の教科書はこれを「神即自然」と表しています。
汎神論をわかりやすく、そしてざっくり説明しましょう。汎神論は「すべては神のなにか」と考えます。私たちも、石や森も独立して存在することはありません。すべては相互に依存し、一つにつながっています。それがスピノザのいう「神」です。
余談(読まなくていいです)
デカルトがあまりに有名で、合理論といえばデカルトというイメージが強いですね。私は教養学部にいたとき、哲学の授業をよく履修していましたが、担当教授の一人がスピノザの研究者でした。
スピノザの汎神論はとてもわかりにくく、デカルトのほうがスッキリしていると思っていましたが、教授の話を聞くたびに「スピノザもかなり科学的で現代的だな」と思うようになりました。その後、私は数学科に進み、代数学を研究するようになりましたが、たびたびスピノザを思いだしていました。
代数学(例えば加群の圏と Hom)を勉強すると、すべてのものは相互依存の中でなりたつという事実に気づきます。デカルトもライプニッツも数学者ですが、合理論はそもそも数学的な思想です。スピノザに数学のイメージはありませんが、現代数学から考えるとスピノザはかなり数学的な思想をもっていたと思います。
ライプニッツ
ライプニッツはドイツの数学者で、微分積分の発明で偉大な功績を残しました。
ライプニッツは、世界は「モナド」という最小単位から構成されていると考えました。これをモナド論といいますが、これはギリシア哲学者デモクリトスの「アトム」に近い概念といえます。
問題 1
問 次の文章の空欄に当てはまる言葉の組み合わせとして正しい選択肢を選びなさい。
コペルニクスは( A )の天動説を否定し、地動説を唱えた。地動説の賛同者として、慣性の法則を発見した( B )がいる。
① A アリストテレス B ガリレイ
② A アリストテレス B ケプラー
③ A プトレマイオス B ガリレイ
④ A プトレマイオス B ケプラー
解答
正解 ③
コペルニクスはプトレマイオスの天動説を否定した。ガリレイは慣性の法則を発見した。
問題 2
デカルトの説明として正しい選択肢を次の①~④のうちから一つ選びなさい。
① 明晰判明の知は、理性によって獲得できないものがあり、それについては口を閉ざさなければいけない。
② 明晰判明の知は、時代ごとのパラダイムに応じた演繹法を科学的事実に適用することで得られる。
③ 明晰判明の知は、自分という存在にとって真理であるような知であり、普遍的な知は存在しない。
④ 明晰判明の知は、方法的懐疑が必要であり、個別の真実は明晰判明の知と推論によって導かれる。
解答
正解 ④
① 「わからないものについては口を閉ざす」はウィトゲンシュタインの考え。
② パラダイムの概念はアメリカの学者クーン。
③ 自分にとっての真理を重んじたのはキルケゴール。
問題 3
合理論の説明としてふさわしくない選択肢を次の①~④のうちから一つ選びなさい。
① ニュートンは、「知は力なり」という言葉で科学技術の有用性を主張した。
② ライプニッツは、世界はそれ以上分割できないモナドから構成されると主張した。
③ デカルトは、物体と精神は区別されるという物心二元論を主張した。
④ スピノザは、世界と事物はすべて神の一部であるという汎神論を主張した。
解答
正解 ①
「知は力なり」はベーコンの言葉であり、ベーコンは合理論でなく経験論の思想家。