2 次正方行列の和と積にあるように、行列と行列のかけ算が定義できる。実は行列と行列だけでなく、行列とベクトルのかけ算も定義できる。
2 次正方行列 $A$ と 2 次元ベクトル $v$ を次のようにおく。
\[ A= \left( \begin{array}{cc} a & b \\ c & d \end{array} \right) \] \[ v= \left( \begin{array}{c} x \\ y \end{array} \right) \]
このとき $A$ と $v$ の積 $Av$ を次のように定義する。
\[ Av= \left( \begin{array}{c} ax+by \\ cx+dy \end{array} \right) \]
行列とベクトルの積の計算例
\[ A= \left( \begin{array}{cc} 5 & 2 \\ 8 & 4 \end{array} \right) \]
\[ v= \left( \begin{array}{c} 3 \\ 4 \end{array} \right) \]
\[ Av= \left( \begin{array}{c} 5 \times 3+2 \times 4 \\ 8 \times 3+4 \times 4 \end{array} \right) = \left( \begin{array}{c} 23 \\ 38 \end{array} \right) \]
また単位行列と任意のベクトルの積はもとのベクトルに一致する。これは極めて重要なポイントである。
\[ A= \left( \begin{array}{cc} 1 & 0 \\ 0 & 1 \end{array} \right) \]
\[ v= \left( \begin{array}{c} 4 \\ 3 \end{array} \right) \]
\[ Av= \left( \begin{array}{c} 1 \times 4+0 \times 3 \\ 0 \times 4+1 \times 3 \end{array} \right) = \left( \begin{array}{c} 4 \\ 3 \end{array} \right) \]
単位行列 $I$ と任意のベクトル $v$ について
\[ Iv=v \]
が成り立つ。
連立方程式を行列とベクトルの積に置き換える
大学の線形代数の授業で最も重要なポイントは連立方程式を行列とベクトルの積にして解くところ。ここは必ずおさえよう。
次の連立方程式を考える。
\[ \left\{ \begin{array}{l} 2x+3y=7 \\ 4x+5y=13 \end{array} \right. \]
イコールの左側を行列、右側をベクトルと考える。すなわち
\[ A= \left( \begin{array}{cc} 2 & 3 \\ 4 & 5 \end{array} \right) \]
\[ v= \left( \begin{array}{c} x \\ y \end{array} \right) \]
\[ u= \left( \begin{array}{c} 7 \\ 13 \end{array} \right) \]
とすると
\[ Av= \left( \begin{array}{c} 2x+3y \\ 4x+5y \end{array} \right) \]
となるため、もとの連立方程式は
\[ Av= \left( \begin{array}{c} 2x+3y \\ 4x+5y \end{array} \right) = \left( \begin{array}{c} 7 \\ 13 \end{array} \right) = u \]
となる。すなわち
\[ Av=u \]
である。
\[ A= \left( \begin{array}{cc} 2 & 3 \\ 4 & 5 \end{array} \right) \] \[ v= \left( \begin{array}{c} x \\ y \end{array} \right) \] \[ u= \left( \begin{array}{c} 7 \\ 13 \end{array} \right) \]
とすると、連立方程式
\[ \left\{ \begin{array}{l} 2x+3y=7 \\ 4x+5y=13 \end{array} \right. \] は \[ Av=u \] と書き換えられる。
つまり連立方程式を解くことは行列 $A$ とベクトル $u$ からベクトル $v$ を求めることに等しい。
上の連立方程式 $Av=u$ は両辺に逆行列 $A^{-1}$ をかけて解く。
\[ Av=u\\ A^{-1}Av=A^{-1}u\\ Iv=A^{-1}u\\ v=A^{-1}u \]
連立方程式を解くとはベクトル $v$ の成分を求めることに等しいが、それは $A^{-1}u$ である。上の例では
\[ A^{-1}= \left( \begin{array}{cc} \dfrac{5}{-2} & \dfrac{-3}{-2} \\ \dfrac{-4}{-2} & \dfrac{2}{-2} \end{array} \right) = \left( \begin{array}{cc} -\dfrac{5}{2} & \dfrac{3}{2} \\ 2 & -1 \end{array} \right) \]
\[ A^{-1}u= \left( \begin{array}{cc} -\dfrac{5}{2} & \dfrac{3}{2} \\ 2 & -1 \end{array} \right) \left( \begin{array}{c} 7 \\ 13 \end{array} \right) = \left( \begin{array}{c} 2 \\ 1 \end{array} \right) \]
よって
\[ v= \left( \begin{array}{c} x \\ y \end{array} \right) = \left( \begin{array}{c} 2 \\ 1 \end{array} \right) \]
となり
\[ \left\{ \begin{array}{l} x=2 \\ y=1 \end{array} \right. \]
と連立方程式の解が求められた。