2 次正方行列と 2 次元ベクトルの積|連立方程式・逆行列・行列式が 0 の場合
行列とベクトルのかけ算を定義すると、連立方程式が という 1 本の式になる。解くことは、 と から を求めることに変わる。
2 次正方行列の和と積では行列どうしの積を定義した。かける相手はベクトルでもよく、規則も同じである。
以下では積の定義から始め、19 個の計算例を 1 つずつ手で追う。後半は連立方程式との対応を扱い、行列式が になる場合まで見る。
行列とベクトルの積の定義
2 次正方行列 と 2 次元ベクトル を次のようにおく。
このとき積 を次のように定める。
結果は 2 次元ベクトルである。行列をかけてもベクトルはベクトルのままで、平面から出ることはない。
定義の読み方
の第 1 成分 は、 の 1 行目 と の成分 の内積である。
第 2 成分 も同じで、 の 2 行目 と の内積になっている。
行ごとに内積を取る。それだけの操作だと思えばよい。
新しい規則を覚える必要もない。行列どうしの積で、後ろの行列の列が 1 本しかない場合にあたる。
計算例: 数値をあてはめる
次の と で積を計算する。
定義どおりに、行ごとの内積を並べる。
第 1 成分は である。第 2 成分はかけ算を 2 回してから足すので、 と区切って書くと数を取り違えにくい。
計算例: 負の数を含む場合
負の成分は括弧でくくって書き下す。
括弧を省いて と書くと、直前の項の符号と混ざる。ここは丁寧に書いたほうが早い。
計算例: 分数を含む場合
分数が成分に並ぶときは、共通の分母を行列の外へ出しておく。
整数のまま計算し、最後に をかければよい。
各成分に分数を分配してから足すより、通分の手間が減る。
計算例: 零行列をかける
成分がすべて の行列を零行列といい、 と書く。
どんな を持ってきても零ベクトルになる。平面全体が原点 1 点につぶれてしまう例である。
計算例: 単位行列をかける
もとのベクトルがそのまま出てきた。任意の について が成り立つ。
この性質は後半で効いてくる。連立方程式を逆行列で解く仕組みは、ここを土台にしている。
単位行列で変わらない理由
の 1 行目は である。これと の内積は になる。
2 行目 との内積は である。成分をそのまま取り出して並べているだけなので、結果は に戻る。
実数のかけ算で が果たす役割を、行列では が引き受けている。
計算例: 対角行列をかける
対角成分だけが でない行列は、成分ごとの拡大縮小になる。
第 1 成分が 倍、第 2 成分が 倍になった。 方向と 方向が互いに影響しない形である。
列ベクトルの一次結合として見る
積にはもう 1 つの読み方がある。 を列で切って、2 本のベクトルに分けてみる。
すると定義の式は次のように書き換えられる。
とは、 の列を の成分で重みづけした一次結合である。行で読めば内積、列で読めば一次結合になる。
この見方は一次独立と一次従属につながる。後半で行列式が になる場合を考えるとき、こちらの読み方が効いてくる。
計算例: 列の一次結合で計算する
さきほどと同じ と を、今度は列で読む。
列は と で、重みはそれぞれ と である。
行で読んだときと同じ になった。2 通りの読み方は、そのまま検算に使える。
積の線形性
積には次の 2 つの性質がある。
足してからかけても、かけてから足しても結果は同じである。定数倍も外へ出せる。
この 2 つをまとめて線形性という。定義の式を成分で書き下せば、どちらもすぐ確かめられる。
計算例: 線形性を数値で確かめる
先にそれぞれへ をかける。
足すと である。次は順序を入れ替えて、先に を作る。
一致した。どちらの順序で進めてもよい。
行列は平面をどう動かすか
行列は平面上の点をまとめて別の場所へ送る。単位正方形の頂点を送ってみると、動き方が目に見える。
の行き先は の 1 列目、 の行き先は 2 列目である。列の一次結合として読めば、これは定義からすぐ出る。
<svg viewBox="0 0 700 306" xmlns="http://www.w3.org/2000/svg" style="max-width:100%;height:auto;display:block;margin:0 auto"><defs><marker id="mv-a" viewBox="0 0 10 10" refX="9" refY="5" markerWidth="7" markerHeight="7" orient="auto"><path d="M 0 0 L 10 5 L 0 10 z" fill="#1b81e0"/></marker></defs><line x1="30" y1="226" x2="330" y2="226" stroke="#8a8a8a" stroke-width="1"/><line x1="110" y1="266" x2="110" y2="46" stroke="#8a8a8a" stroke-width="1"/><polygon points="110,226 150,226 150,186 110,186" fill="#ebf5ff" stroke="#1b81e0" stroke-width="2"/><line x1="110" y1="226" x2="150" y2="226" stroke="#1b81e0" stroke-width="2" marker-end="url(#mv-a)"/><line x1="110" y1="226" x2="110" y2="186" stroke="#1b81e0" stroke-width="2" marker-end="url(#mv-a)"/><text x="140" y="246" font-size="12" fill="#1b81e0">(1, 0)</text><text x="62" y="182" font-size="12" fill="#1b81e0">(0, 1)</text><text x="180" y="34" font-size="13" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">もとの単位正方形</text><text x="180" y="288" font-size="12" fill="#8a8a8a" text-anchor="middle">面積 1</text><line x1="380" y1="226" x2="680" y2="226" stroke="#8a8a8a" stroke-width="1"/><line x1="460" y1="266" x2="460" y2="46" stroke="#8a8a8a" stroke-width="1"/><polygon points="460,226 540,186 580,106 500,146" fill="#ebf5ff" stroke="#1b81e0" stroke-width="2"/><line x1="460" y1="226" x2="540" y2="186" stroke="#1b81e0" stroke-width="2" marker-end="url(#mv-a)"/><line x1="460" y1="226" x2="500" y2="146" stroke="#1b81e0" stroke-width="2" marker-end="url(#mv-a)"/><text x="548" y="182" font-size="12" fill="#1b81e0">(2, 1)</text><text x="466" y="138" font-size="12" fill="#1b81e0">(1, 2)</text><text x="530" y="34" font-size="13" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">行列で送った先</text><text x="530" y="288" font-size="12" fill="#8a8a8a" text-anchor="middle">面積は行列式の 3</text></svg>図の行列は列が と のもので、正方形が平行四辺形に変わった。この平行四辺形の面積が行列式である。
計算例: 90 度の回転
平面を原点のまわりに 90 度回すのは、次の行列である。
が へ移った。列を見ると が へ、 が へ送られている。
計算例: 軸に関する対称移動
成分の符号だけが変わった。 軸をはさんで折り返す動きになっている。
計算例: せん断
高さ はそのままで、 が の分だけ横へずれた。トランプの束を斜めに押したときの形が近い。
連立方程式を行列とベクトルの積で書く
2 元 1 次の連立方程式は次の形をしている。
左辺は の成分そのものである。係数を並べた行列を 、未知数を並べたベクトルを 、右辺を とおく。
すると 2 本あった式が 1 本にまとまる。
連立方程式を解くとは、 と から を求めることである。大学の線形代数はここを出発点にする。
計算例: 連立方程式を行列で書き直す
係数と右辺を読み取って並べるだけでよい。
書き換えただけで、まだ何も解いていない。ここから先が逆行列の出番になる。
逆行列をかけて解く
実数の方程式 は両辺を で割って解く。行列には割り算がないので、代わりに逆行列をかける。
を の逆行列とすると、 の両辺に左からかけて次のように進む。
3 行目で を使い、4 行目で を使った。単位行列の性質がここで効いている。
答えが という 1 つの式で書けた。あとは を求めればよい。
2 次の逆行列の公式
2 次正方行列の逆行列で見たとおり、公式は次のとおりである。
対角成分を入れ替え、残りの 2 つの符号を変えて、行列式 で割る。
のときは割れない。逆行列が存在しないので、この方法では解けなくなる。あとの節で扱う。
計算例: 逆行列で解く
さきほど書き直した連立方程式を最後まで解く。
行列式は である。公式にあてはめる。
これを にかける。
第 1 成分は 、第 2 成分は である。
, をもとの式へ戻すと 、 となる。両方とも合っている。
計算例: 行列式が 1 の場合
なので、割り算が要らない。
, である。検算すると 、 で正しい。
計算例: 解が分数になる場合
である。分数は行列の外に出したまま進める。
検算は 、 となる。解が整数にならなくても手順は変わらない。
連立方程式は 2 直線の交点
2 元 1 次方程式 は、平面上の 1 本の直線を表す。連立方程式は、2 本の直線を同時に満たす点を探している。
<svg viewBox="0 0 660 320" xmlns="http://www.w3.org/2000/svg" style="max-width:100%;height:auto;display:block;margin:0 auto"><line x1="118" y1="235" x2="503" y2="235" stroke="#8a8a8a" stroke-width="1"/><line x1="200" y1="323" x2="200" y2="37" stroke="#8a8a8a" stroke-width="1"/><text x="186" y="253" font-size="11" fill="#8a8a8a">O</text><line x1="145" y1="70" x2="475" y2="290" stroke="#1b81e0" stroke-width="2"/><line x1="145" y1="48" x2="475" y2="312" stroke="#1b81e0" stroke-width="2" stroke-dasharray="5 3"/><circle cx="310" cy="180" r="4" fill="#1b81e0"/><text x="320" y="172" font-size="12" fill="#1b81e0">(2, 1)</text><line x1="520" y1="86" x2="550" y2="86" stroke="#1b81e0" stroke-width="2"/><text x="558" y="90" font-size="12" fill="#1f1f1f">2x + 3y = 7</text><line x1="520" y1="112" x2="550" y2="112" stroke="#1b81e0" stroke-width="2" stroke-dasharray="5 3"/><text x="558" y="116" font-size="12" fill="#1f1f1f">4x + 5y = 13</text></svg>交点は で、逆行列で求めた解と一致する。解が 1 つに決まるのは、2 直線が平行でないときである。
この「平行でない」を係数だけで判定するのが行列式になる。
計算例: 行列式が 0 で解がない
である。逆行列がないので、公式は使えない。
式そのものを見ると理由がわかる。上の式を で割ると となり、下の式 と食い違う。
同じ が にも にもなることはない。よって解は存在しない。
計算例: 行列式が 0 で解が無数にある
係数行列はさきほどと同じで である。変わったのは右辺だけになる。
上の式を で割ると になり、下の式と完全に一致する。2 本あるように見えて、条件は 1 本しかない。
とおくと である。解は次の形で無数にある。
なら 、 なら となる。どちらももとの 2 式を満たしている。
行列式が 0 のとき列に何が起きているか
列の一次結合という読み方に戻る。 は、 の 2 本の列を組み合わせて を作れという要求である。
のとき、2 本の列は平行になる。さきほどの例では列が と で、後者は前者のちょうど 倍だった。
平行な 2 本をどう組み合わせても、原点を通る 1 本の直線の上しか作れない。届く先が平面全体から直線へ落ちてしまう。
どう係数を選んでも届かない。解なし
届く係数の組が無数にある。解が無数
なら列は平行でなく、2 本で平面全体を張る。だからどんな に対しても解が 1 つに決まる。
行列式が 0 のときの 2 直線
さきほどの 2 つの例を直線として描くと、違いがはっきりする。
<svg viewBox="0 0 700 306" xmlns="http://www.w3.org/2000/svg" style="max-width:100%;height:auto;display:block;margin:0 auto"><line x1="91" y1="200" x2="287" y2="200" stroke="#8a8a8a" stroke-width="1"/><line x1="175" y1="256" x2="175" y2="96" stroke="#8a8a8a" stroke-width="1"/><line x1="91" y1="123" x2="287" y2="221" stroke="#1b81e0" stroke-width="2"/><line x1="91" y1="144" x2="287" y2="242" stroke="#1b81e0" stroke-width="2"/><text x="175" y="34" font-size="13" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">平行 — 解なし</text><text x="175" y="56" font-size="12" fill="#8a8a8a" text-anchor="middle">2x + 4y = 5 と x + 2y = 1</text><text x="175" y="288" font-size="12" fill="#8a8a8a" text-anchor="middle">交わる点がない</text><line x1="441" y1="200" x2="637" y2="200" stroke="#8a8a8a" stroke-width="1"/><line x1="525" y1="256" x2="525" y2="96" stroke="#8a8a8a" stroke-width="1"/><line x1="441" y1="116" x2="637" y2="214" stroke="#a8d2f5" stroke-width="8"/><line x1="441" y1="116" x2="637" y2="214" stroke="#1b81e0" stroke-width="2"/><text x="525" y="34" font-size="13" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">重なる — 解が無数</text><text x="525" y="56" font-size="12" fill="#8a8a8a" text-anchor="middle">2x + 4y = 6 と x + 2y = 3</text><text x="525" y="288" font-size="12" fill="#8a8a8a" text-anchor="middle">直線上のすべてが解</text></svg>左は交わらないので解がなく、右は重なっているので直線上の点すべてが解になる。行列式が になるのは、この 2 つの場合だけである。
逆行列を使う利点
代入法や加減法でも連立方程式は解ける。それでも逆行列を使うのは、右辺だけが違う問題をまとめて処理できるからである。
が同じなら は 1 度求めれば足りる。あとは を差し替えて を計算するだけで済む。
未知数が増えても形は変わらない。 元の連立方程式が の 1 本で書け、解は で表される。
計算例: 右辺だけ変えて 2 回解く
さきほど求めた逆行列をそのまま使い回す。
右辺を とすると、解は の 1 列目そのものになる。
検算すると 、 である。
右辺を に変えると、今度は 2 列目が出てくる。
こちらも 、 で合っている。逆行列を 1 度作れば、右辺がどう変わってもかけ算 1 回で解が出る。
計算例: 代入法と突き合わせる
逆行列で解いた , を、中学以来の代入法でも解いてみる。
上の式から を得る。これを下の式へ入れる。
左辺を整理すると である。 から となる。
を戻すと である。逆行列で求めた と一致した。
答えは同じでも手順が違う。代入法は式を 1 本ずつ崩していき、逆行列は最初から 2 本まとめて扱う。
よくある誤り
最後に、間違えやすい点を並べておく。
どれも定義に戻れば防げる。 の各成分が何と何の内積なのかを、その場で書き出すのが確実である。













