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実数の切断とデデキントの定理|定義から証明までを例と図でわかりやすく解説

数直線を 1 点で切ると、その点より左と右の 2 つに分かれる。逆に数直線を左右 2 つの塊に分けたとき、切り口にあたる数は必ず存在するのか。デデキントの切断は、この問いを数の言葉だけで扱うための道具である。

まず切断そのものを定義する。

切断の定義

数の集合 の部分集合 について、 に属するすべての数が または に属し、かつ に属するすべての数が に属するすべての数より小さいとする。また はともに空集合でないとする。このとき のデデキントの切断という。

下組と上組

を下組、 を上組と呼ぶ。名前のとおり下組が小さい側、上組が大きい側の塊である。

条件は 3 つある。 の数が余さずどちらかに入ること、下組の数が上組の数より必ず小さいこと、どちらも空でないこと。この 3 つだけで以下の議論はすべて動く。

記号による定義

を使うと同じ内容が数行におさまる。 の切断であるとは、 かつ が成り立ち、さらに

を満たすことをいう。

のように を後ろに置く書き方もある。どちらでも、下組の任意の元が上組の任意の元より小さいという主張は変わらない。

空集合には を使う。ギリシャ文字の と字形が似ているため混同されやすいが、別の記号である。

下組と上組は交わらない

定義に は書かれていない。しかしこれは残りの条件から自動的に従う。

仮に となる数があったとしよう。 かつ だから、下組の元は上組の元より小さいという条件を に当てはめると が出る。

これは矛盾である。よって であり、 に重なりなく分けられる。

数直線で見る切断

切断の姿を数直線に描くと次のようになる。

HTML
CSS
JavaScript
<div class="cut-fig">
<svg viewBox="0 0 460 170" xmlns="http://www.w3.org/2000/svg" role="img" aria-label="数直線上の切断の図">
<rect x="0" y="0" width="460" height="170" rx="10" fill="#fafbfc"/>
<line x1="25" y1="105" x2="435" y2="105" stroke="#aab0b8" stroke-width="1"/>
<line x1="40" y1="105" x2="235" y2="105" stroke="#3468d6" stroke-width="7" stroke-linecap="round"/>
<line x1="235" y1="105" x2="420" y2="105" stroke="#e5484d" stroke-width="7" stroke-linecap="round"/>
<line x1="235" y1="58" x2="235" y2="140" stroke="#6b7280" stroke-width="1.5" stroke-dasharray="5 4"/>
<circle cx="235" cy="105" r="5.5" fill="#1b1d22"/>
<g font-family="ui-sans-serif, system-ui, sans-serif" font-size="13" text-anchor="middle" fill="#1b1d22" stroke="#fafbfc" stroke-width="3.5" paint-order="stroke">
<text x="135" y="88" fill="#3468d6">下組 A</text>
<text x="330" y="88" fill="#c93c41">上組 B</text>
<text x="235" y="44">境界</text>
<text x="135" y="134">小さい数</text>
<text x="330" y="134">大きい数</text>
</g>
</svg>
</div>
.cut-fig { margin: 0; text-align: center; }
.cut-fig svg { width: 100%; max-width: 460px; height: auto; }

青が下組、赤が上組である。問題は破線の位置にある黒い点で、この数が下組と上組のどちらに属するのか、そもそも存在するのかが以下の主題になる。

閉区間 の切断

と分ける。

以上 以下の数はすべてどちらかに入る。 の数はすべて 未満、 の数はすべて 以上だから、 の元は の元より小さい。どちらも空でない。

よって の切断である。境界の は上組に入っており、 となっている。

開区間 の切断

端点を含まない区間でも事情は変わらない。 と分ければよい。

の元は 未満、 の元は 以上なので条件を満たす。ここでも は上組に属し、 である。

分け目の数を下組に入れることもできる。 とすれば、今度は が下組の最大値になる。同じ位置の切断でも、境界の数の行き先は 2 通りある。

切断にならない例

と分けると、これは切断でない。

にも にも属していないからである。 の数が余さずどちらかに入る、という条件が破れている。

分け目の数は、下組と上組のどちらか一方に必ず入れなければならない。

両方に入れることはできない。 が定義から従うためである。

境界にあたる数をどちらに入れるかは自由だが、どちらにも入れないのは許されない。この一点が、あとで見る場合分けの骨格になる。

境界がただ一つに定まらない例

を考える。 とすれば、切断の条件はすべて満たされている。

ところが を隔てる数は でも でも でもよい。 を満たす なら、どれもが の元以上かつ の元以下になる。

しかも、そのような は 1 つも に属さない。境界の数は の中に存在せず、 の中で探しても一意に決まらない。

一般の では、切断を与えても境界は定まらないのである。デデキントの定理が という条件のもとで語られるのは、このためである。

デデキントの定理

以下 とする。

デデキントの定理

実数の切断は、下組と上組の境界となるただ一つの数を定める。

主張の内容

、そして の任意の元が の任意の元より小さいとする。このとき、 なら かつ なら を満たす実数 がただ 1 つ存在する。

が下組にも上組にも属しうることに注意したい。 なら となり、 なら となる。どちらであっても という数そのものは同じである。

例として を見る。 は切断の定義を満たしており、定理の定める境界は である。

この場合 は上組に属し、 の最小値になっている。下組に最大値はない。 に限りなく近い数が にいくらでもあるのに、 自身は に入っていないからである。

起こりうる 4 つの場合

切断 について、下組の最大値と上組の最小値の有無で 4 通りが考えられる。

が存在し、 も存在する
が存在し、 は存在しない
は存在せず、 が存在する
も存在しない

デデキントの定理は、実数の切断では 1 と 4 が起こらず、2 か 3 のどちらか一方だけが成り立つ、と言い換えられる。図にすると次のようになる。

HTML
CSS
JavaScript
<div class="case-fig">
<svg viewBox="0 0 480 250" xmlns="http://www.w3.org/2000/svg" role="img" aria-label="切断の 4 つの場合を並べた図">
<rect x="0" y="0" width="480" height="250" rx="10" fill="#fafbfc"/>
<g font-family="ui-sans-serif, system-ui, sans-serif" font-size="12" fill="#5b616b">
<text x="20" y="32">場合</text>
<text x="462" y="32" text-anchor="end">実数で起こるか</text>
</g>
<g stroke-linecap="round">
<line x1="58" y1="76" x2="236" y2="76" stroke="#3468d6" stroke-width="6"/>
<line x1="240" y1="76" x2="300" y2="76" stroke="#c2c7ce" stroke-width="2" stroke-dasharray="4 4"/>
<line x1="304" y1="76" x2="420" y2="76" stroke="#e5484d" stroke-width="6"/>
<circle cx="236" cy="76" r="5.5" fill="#3468d6"/>
<circle cx="304" cy="76" r="5.5" fill="#e5484d"/>
<line x1="58" y1="122" x2="270" y2="122" stroke="#3468d6" stroke-width="6"/>
<line x1="270" y1="122" x2="420" y2="122" stroke="#e5484d" stroke-width="6"/>
<circle cx="270" cy="122" r="6" fill="#3468d6"/>
<line x1="58" y1="168" x2="270" y2="168" stroke="#3468d6" stroke-width="6"/>
<line x1="270" y1="168" x2="420" y2="168" stroke="#e5484d" stroke-width="6"/>
<circle cx="270" cy="168" r="6" fill="#e5484d"/>
<line x1="58" y1="214" x2="270" y2="214" stroke="#3468d6" stroke-width="6"/>
<line x1="270" y1="214" x2="420" y2="214" stroke="#e5484d" stroke-width="6"/>
<circle cx="270" cy="214" r="6" fill="#fafbfc" stroke="#6b7280" stroke-width="1.8"/>
</g>
<g font-family="ui-sans-serif, system-ui, sans-serif" font-size="12.5" fill="#1b1d22">
<text x="24" y="80">1</text>
<text x="24" y="126">2</text>
<text x="24" y="172">3</text>
<text x="24" y="218">4</text>
</g>
<g font-family="ui-sans-serif, system-ui, sans-serif" font-size="16" text-anchor="middle">
<text x="450" y="82" fill="#c93c41">×</text>
<text x="450" y="128" fill="#2f8f4e"></text>
<text x="450" y="174" fill="#2f8f4e"></text>
<text x="450" y="220" fill="#c93c41">×</text>
</g>
</svg>
</div>
.case-fig { margin: 0; text-align: center; }
.case-fig svg { width: 100%; max-width: 480px; height: auto; }

1 は破線の部分にどちらにも属さない数が残ってしまう場合、4 は境界の位置に数が存在しない場合である。白抜きの点は、そこに入るべき数がないことを表している。

1 が起こらないことは実数の稠密性だけで示せる。有理数体でも同じ理由で 1 は起こらない。4 が起こらないことこそが実数に固有の性質であり、証明の核心はそこにある。

1 の場合が起こらない理由

がともに存在したとする。 だから、切断の条件により である。

このとき をとると が成り立つ。 に入れない。 だからである。 にも入れない。 だからである。

しかし なのだから、 はどちらかに属さなければならない。矛盾である。

この議論で使ったのは、相異なる 2 数の間に別の数がある、という性質だけである。有理数でも成り立つ性質なので、1 の場合は でも起こらない。

4 の場合が実数と有理数を分ける

も存在しない切断は、下組と上組の境目に数がない状態を表す。デデキントの言葉でいえば、直線に隙間が空いている。

有理数では実際にこれが起こる。 より小さい有理数を 、大きい有理数を とすれば、 に最大値はなく に最小値もない。あとで計算して確かめる。

実数でこれが起こらないことが、実数の連続性にほかならない。デデキントの定理の証明は、4 の場合を排除する作業だと思ってよい。

上限と下限

証明の道具として上限を用意する。集合 の上界とは、 のすべての元以上である数のことをいう。上界のうち最小のものを の上限といい、 と書く。

下界と下限も同様に定める。 のすべての元以下である数を下界といい、下界のうち最大のものを下限といって と書く。

なら、上界は 以上の数全体である。その最小は だから となる。 なので、上限は集合に属するとは限らない。

最大値との違いはここにある。 に属していなければならないが、 にその制約はない。 に最大値があるときにかぎり が成り立つ。

上限公理

実数の連続性は、上限の存在という形でも述べられる。

上限公理

空でなく上に有界な の部分集合は、上限をもつ。

下限についての言いかえ

空でなく下に有界な の部分集合は、下限をもつ。 の下限は の上限の符号を変えたものなので、上限公理から導ける。

上に有界とは、上界が少なくとも 1 つ存在することをいう。この公理が実数を有理数から区別する。

有理数体で同じことを主張すると偽になる。 は空でなく上に有界だが、有理数の範囲に上限をもたないからである。

ここからは上限公理を出発点にしてデデキントの定理を証明する。逆にデデキントの定理から上限公理を導けることも、あとで示す。

証明の準備

の切断とする。まず が上限をもつことを確かめる。

は切断の定義に含まれている。残るのは が上に有界であることだが、これは上組から数を 1 つ借りれば済む。

だから をとれる。切断の条件により、任意の に対して が成り立つ。つまり の上界である。

は空でなく上に有界だから、上限公理により が存在する。以下、この が求める境界であることを示す。

証明 — 境界の存在

が満たすべき条件は 2 つある。 のどの元よりも小さくないこと、 のどの元よりも大きくないことである。

前者は簡単で、 の上界だから、任意の に対して が成り立つ。

後者には、上限が最小の上界であることを使う。 を任意にとると、切断の条件から任意の に対して となる。すなわち の上界である。

の上界のうち最小のものだから が従う。 の任意の元だったので、 のすべての元 について が成り立つ。

これで に対して が示された。 は下組と上組を隔てる数である。

証明 — 下組の最大値と上組の最小値

だから、 のどちらかに属する。場合を分ける。

のとき、任意の をすでに示してあるので、 となる。下組が最大値をもつ場合である。

のとき、任意の が成り立つので となる。上組が最小値をもつ場合である。

したがって の少なくとも一方は必ず存在する。4 の場合、すなわち両方とも存在しない状況は起こらない。

1 の場合が起こらないことは先に示した。よって実数の切断では、2 か 3 のどちらか一方だけが成り立つ。

証明 — 一意性

境界が 2 つあり得ないことを示す。 がともに境界の条件を満たし、 だったとしよう。

とおくと である。 に属さない。 の元はすべて 以下であるのに だからである。

にも属さない。 の元はすべて 以上であるのに だからである。

これは に反する。よって ではありえず、同じ理由で でもありえない。 である。

存在と一意性が示された。デデキントの定理の証明は以上で完了である。

証明のどこで連続性を使ったか

証明の骨組みは短い。

切断 が与えられる

は空でなく上に有界

上限公理で を得る

がただ一つの境界

決定的な一歩は上限公理を使った箇所である。 の存在だけが公理を必要とした。

残りの議論は順序の性質しか使っていない。境界の条件を確かめる部分も、一意性の議論も、有理数体でそのまま通用する。

だから有理数で成り立たないのは上限の存在だけである。上限公理を落とせば証明は最初の一歩で止まり、実際に定理そのものも成り立たなくなる。

有理数では成り立たない

の切断を次のように定める。

平方が に等しい有理数は存在しないので、すべての有理数がどちらかに属する。 だからどちらも空でない。

なら も成り立つ。 となるか、 かつ から が出るかのいずれかだからである。

実数での切断

境界となる数がただ 1 つ存在する。同じ形の切断を で作れば、境界は である。

有理数での切断

境界となる数が存在しない。 は有理数でないため、下組にも上組にも入れられない。

以下、この切断で に最大値がなく に最小値もないこと、つまり 4 の場合が実際に起きることを計算で確かめる。

下組に最大値がないことの計算

だから、 に最大値があるとすればそれは正の数である。 かつ 、すなわち の場合だけを考えればよい。

次の数を作る。

が有理数なら も有理数である。分母の は正だから、割り算は問題なく実行できる。

まず を確かめる。

より分子は正、分母も正だから である。

次に を確かめる。

より分子は負、分母は正だから となる。 でもあるから である。

より大きい の元 が、どの からでも作れてしまう。よって に最大値はない。

上組に最小値がないことの計算

同じ写像がそのまま使える。 とすると かつ である。

とおく。先ほどと同じ計算により、差は次の形になる。

より分子は負、分母は正だから である。

平方についても同じ式が使える。

より右辺は正だから となる。 から もいえるので である。

より小さい の元 が、どの からでも作れる。よって に最小値はない。

これで の切断に 4 の場合が実現した。有理数体ではデデキントの定理が成り立たない。

デデキント自身が使った写像

は Rudin の『Principles of Mathematical Analysis』にある形で、現代の教科書で広く使われている。デデキント本人の構成は別物である。

『連続性と無理数』の英訳の第 4 節でデデキントは、平方数でない正の整数 に対して次の写像を用いている。

この写像については、2 つの等式が成り立つ。

第 2 式の分子が 3 乗になっているのが特徴である。 に近づく速さが桁違いに大きくなる。

から始めてみよう。デデキントの写像では となる。Rudin の写像なら である。

もう 1 歩進めるとデデキントの側は に達する。これはハレー法にあたる漸化式である。存在を示すだけなら収束の速さは要らないのだが、デデキントは速いほうを選んでいる。

デデキントの定理から上限公理を導く

2 つの主張は同値である。逆向き、つまりデデキントの定理を認めて上限公理を導く道筋を見よう。

を空でなく上に有界な の部分集合とする。 の上界全体の集合、 をその補集合 とおく。

が上に有界だから である。また をとると、 より は上界でないので となり、 もいえる。

は作り方から明らかである。残るのは の元が の元より小さいことだが、これは上界の定義から出る。

は上界でないから、 となる がある。 は上界だから である。合わせて 、すなわち が成り立つ。

よって の切断であり、デデキントの定理により境界 がただ 1 つ定まる。この になる。

まず の上界であることを示す。そうでないとすると を満たす があり、 となる がとれる。 だから は上界でなく となるが、境界の条件から でなければならず矛盾する。

次に が最小の上界であることを示す。 の任意の上界とすると であり、境界の条件から が従う。

したがって である。デデキントの定理と上限公理は互いに導き合う。

定義の流儀の違い

切断の定義には流儀がある。ここまでは下組と上組の対 で定めてきたが、下組だけで定義する書き方も広く使われている。

対で定める流儀

の組で定義する。デデキント自身と高木貞治の『解析概論』がこの形をとる。上組は下組の補集合なので、情報としては重複している。

下組だけで定める流儀

の部分集合 が、空でも全体でもなく、下に閉じていて、最大値をもたないとき を切断と呼ぶ。Landau と Rudin がこの形をとる。

下組だけの流儀では「最大値をもたない」条件が加わる。これがないと 1 つの有理数に 2 つの切断が対応してしまい、実数を作るときに重複が出る。

デデキント自身はこの条件を課していない。有理数 を下組に入れる切断と上組に入れる切断の 2 つを生むが、本質的に異なるものとは見ない、と書いている。

Rudin の条件は、この重複をあらかじめ潰す仕掛けである。どちらの流儀を選んでも、できあがる実数体は同じものになる。

デデキント自身の言葉

デデキントは直線の連続性を次のように述べている。

If all points of the straight line fall into two classes such that every point of the first class lies to the left of every point of the second class, then there exists one and only one point which produces this division of all points into two classes, this severing of the straight line into two portions.(Beman による英訳、1901 年)

I am utterly unable to adduce any proof of its correctness, nor has any one the power. The assumption of this property of the line is nothing else than an axiom by which we attribute to the line its continuity.(同じく Beman 訳より)

前半は、直線の点が 2 つのクラスに分かれ、第 1 のクラスのどの点も第 2 のクラスのどの点より左にあるならば、この分割を生み出す点がただ 1 つ存在する、と述べている。デデキントの定理の直線版である。

後半のほうが重要である。この性質を証明することは自分にも誰にもできない、直線に連続性を与える公理にほかならない、とデデキント本人が言い切っている。

直線を相手にするかぎり、連続性は公理である。ところが有理数から実数を構成すれば、同じ主張が証明可能な定理に変わる。デデキントの定理が公理と呼ばれたり定理と呼ばれたりするのは、この立場の違いによる。

切断で実数を作る

デデキントの狙いは、有理数だけを材料にして実数を作ることにあった。切断はその材料になる。

有理数の切断は 3 通りに分かれる。下組に最大値がある場合、上組に最小値がある場合、どちらもない場合である。1 の場合は稠密性から起こらない。

最初の 2 つは、境界が有理数として存在する切断である。3 つ目には対応する有理数がない。そこで、切断そのものを新しい数だと定める。

この定め方なら は「平方が より小さい有理数の集合」として書ける。存在をあらかじめ仮定せず、有理数の部分集合として構成できるところが要点である。

構成した実数の全体で切断を作ると、今度は必ず境界が見つかる。デデキントの定理が定理として証明できるのは、この段階に来てからである。

Rudin の『Principles of Mathematical Analysis』も『解析概論』も、この構成を本文ではなく附録に置いている。実数の性質を使う議論と、実数そのものを作る議論を分けるためである。

『連続性と無理数』が書かれるまで

きっかけは講義だった。

1858
チューリヒでの講義

デデキントはチューリヒ工科大学で初めて微分積分学を担当した。増加して有界な量が極限値に近づくという定理を証明する際、幾何学的な直観に頼らざるをえないことを痛感したと序文に書いている。

1858
11 月 24 日に解決

純粋に算術的で厳密な基礎に到達した日を、デデキントは日付まで記している。数日後に友人の Durège に伝えたという。

1872
『連続性と無理数』刊行

Braunschweig の Vieweg 社から出版された。同じ年にカントールがコーシー列による実数の構成を発表している。

1901
英訳の刊行

Beman による英訳が『Essays on the Theory of Numbers』の第 1 部として Open Court 社から出た。

これらの経緯は英訳の序文に本人の言葉で書かれている。1858 年に彼を悩ませたのは、上に有界な単調増加列が収束するという定理だった。

連続性の同値な言いかえ

実数の連続性は、上限公理やデデキントの定理以外の形でも表現できる。

上限公理(空でなく上に有界な集合は上限をもつ)
デデキントの定理
上に有界な単調増加数列は収束する
ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理
中間値の定理
最大値の定理

これらは順序体の公理のもとで互いに同値である。どれを出発点に選んでも、残りはすべて定理として導ける。

デデキントが 1858 年に困ったのは 3 つ目の単調有界数列の収束だった。彼の悩みそのものが、連続性の言いかえの 1 つだったことになる。

アルキメデスの公理が要る言いかえ

同値だと思われがちだが、単独では連続性を導かない主張もある。

コーシー列は収束する
区間縮小法
交項級数の収束判定
絶対収束する級数は収束する

これらはアルキメデスの公理を別に仮定して初めて連続性と同値になる。James Propp の「Real Analysis in Reverse」(Amer. Math. Monthly 120 巻 5 号、2013 年)がこの分類を詳しく扱っている。

反例になるのは形式ローラン級数体である。この体ではコーシー列が収束するのに連続ではない。アルキメデスの公理が成り立たないからである。

同じ論文は、区間縮小法とボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理が同値だという記述が文献にもウェブにも見られる、と注意している。アルキメデスの公理を無意識に使ってしまう典型例だという。

『解析概論』の図に残る書き落とし

この落とし穴は、日本で最も読まれた解析学の教科書にも残っている。

『解析概論』第 1 章には、実数の連続性の同値な条件を並べた図がある。真島秀行の論文(数理解析研究所講究録 1739 巻、2011 年)によれば、この図はアルキメデスの公理を併記すべきところで書き落としている。

同論文の著者は、この点を杉浦光夫の講義で知ったと述べている。一松信も三村征雄から 1955 年に指摘を受けたと伝えており、関係者には古くから知られていた話である。

それでも訂正はされなかった。1938 年の初版から 1961 年の改訂第三版、1986 年の軽装版を経て、2010 年の定本まで図はそのままである。

名著でも起こることだと考えれば、教訓ははっきりしている。同値性を扱うときは、どの主張がどの公理に支えられているかを自分で確かめるほかない。

理解の確認

より小さい有理数を集めた と、 より大きい有理数を集めた による の切断について、正しいものはどれか。

  • に最大値があり、 に最小値はない
  • に最大値はなく、 に最小値がある
  • に最大値も に最小値も存在しない
__RESULT__

が正なら かつ を満たすので、 に最大値はない。同じ写像を に使うと かつ となるから、 に最小値もない。有理数体では 4 の場合が実際に起こり、デデキントの定理が成り立たないことを示している。

参考文献

デデキントの原論文は Richard Dedekind『Stetigkeit und irrationale Zahlen』(Vieweg、1872 年)である。オンラインで読めるのは 1892 年の第 2 版で、archive.org にハーバード大学の所蔵本が公開されている。

英訳は Wooster Woodruff Beman による『Essays on the Theory of Numbers』(Open Court、1901 年)で、Project Gutenberg が全文を公開している。序文の回想も連続性の原理も、この版で確認できる。

日本語訳は『数について — 連続性と数の本質』(河野伊三郎訳、岩波文庫、1961 年)である。岩波書店の書誌によれば現在は品切れになっている。

切断による実数の構成は Walter Rudin『Principles of Mathematical Analysis』第 3 版(McGraw-Hill、1976 年)の第 1 章附録にある。全文の PDF が Lehman College で公開されている。

連続性の同値な言いかえの分類は James Propp「Real Analysis in Reverse」(Amer. Math. Monthly 120 巻 5 号、2013 年、392–408 頁)が詳しい。どの主張がアルキメデスの公理を必要とするかがまとめられている。

日本語の標準的な扱いは高木貞治『定本 解析概論』(岩波書店、2010 年)と杉浦光夫『解析入門 I』(東京大学出版会、1980 年)にある。前者は切断から入り、後者は上限公理を出発点に選んでいる。

『解析概論』の図の書き落としについては、真島秀行「高木貞治の書籍についてのいくつかの注意」(数理解析研究所講究録 1739 巻、2011 年、21–36 頁)に経緯が記されている。

デデキントの切断の定義とデデキントの定理を、上限公理からの証明つきで解説します。4 つの場合分け、$\sqrt{2}$ による有理数の切断、上限公理との同値性。