オイラーの公式とオイラーの等式|証明と計算例
次の等式をオイラーの公式という。
左辺は指数関数、右辺は三角関数である。生い立ちの違う 2 つの関数が、虚数を経由すると同じものになる。
を代入すると 、 だから、次の等式が出る。これをオイラーの等式という。
ただし、これを証明するには が何を指すのかを先に決めなければならない。指数の は「 を 回かける」と読めないからである。
指数関数を複素数へ広げる
実数の指数関数は、次のべき級数に等しい。
右辺は に複素数を入れても意味を持つ。 も も複素数の範囲で定義できる。
そこで複素数の指数関数を、この級数そのものとして定める。
これは定理ではなく定義である。 が実数なら従来の と一致するので、拡張としての辻褄は合っている。以下では を とも書く。
級数はどの複素数でも絶対収束する
定義した以上、まず級数が収束することを確かめる必要がある。
定理。任意の に対して は絶対収束する。
証明。 と置く。整数 を に取ると、 のとき次が成り立つ。
したがって であり、 となる。 より前は有限個なので、 全体が収束する。
収束半径は無限大である。実軸に限らず、複素平面のどこでも級数が使える。
実部と虚部に分けてよい理由
オイラーの公式の証明では、級数を実数部分と虚数部分に切り分ける。この操作には根拠がいる。
定理。複素数列 について が に収束するなら、 と もそれぞれ収束し、和は と に等しい。
証明。部分和を と置く。実部を取る操作は有限和と交換するので、 である。
よって は に収束する。虚部も同じである。
必要なのは収束だけで、絶対収束は要らない。並べ替えの定理を持ち出す説明をよく見かけるが、実部と虚部に分けるだけならそこまでの道具はいらない。
絶対収束が本当に効くのは、次の指数法則のほうである。
指数法則の証明
定理。任意の複素数 に対して が成り立つ。
証明。2 つの級数はどちらも絶対収束するので、コーシー積が収束して積に等しい。
内側の和を でくくると、二項係数が現れる。
したがって である。
実数のときと同じ指数法則が、複素数でもそのまま通る。この一本が、あとで加法定理とド・モアブルの定理を生む。
オイラーの公式の証明
定理。実数 に対して が成り立つ。
証明。 の累乗は 4 つごとに循環する。
一般に 、 である。定義の級数に を代入する。
各項は、 が偶数なら実数、奇数なら純虚数である。つまり実部は偶数番号の項だけ、虚部は奇数番号の項だけが残る。
前節の定理から、実部と虚部を別々に足してよい。
最後の等号は、 と のマクローリン展開である。
微分方程式による証明
同じ主張が、級数を展開せずにも示せる。 を実数の変数とし、次の複素数値関数を考える。
べき級数は収束円の内部で項別微分できるので、複素定数 について が成り立つ。これを使って積の微分を計算する。
複素数値関数の導関数が区間で 0 なら、実部と虚部それぞれに平均値の定理を使って、その関数は定数だと分かる。 なので は恒等的に 1 である。
より は 0 にならない。両辺に を掛ければ公式を得る。
2 つの証明が前提にしていること
どちらの証明も、 と が何であるかに依存している。ここを曖昧にしたまま「代入したら出た」と書くと、証明の形をした循環になる。
単位円周上の点の座標として と を定めた場合、マクローリン展開が本当にもとの関数に収束することを、剰余項の評価で示さなければならない。微分方程式による証明を選ぶなら、加法定理と導関数の公式を幾何の側から用意することになる。
と を最初からべき級数で定義する流儀もある。公式は定義の書き換えになり、代わりに「その が円周と結びつく」ことを示す仕事が残る。 は の最小の正の零点の 2 倍として定義する。ペンシルベニア大学の解析の講義ノートがこの順序で組み立てている。
証明が短く見えるときは、たいてい前提のほうに仕事が移っている。
単位円の上を回る点
定理。実数 に対して である。
証明。級数の各項の共役を取ると になる。したがって次が成り立つ。
これを成分で書けば である。三角関数の基本の等式が、指数法則の系として出てくる。
が動くと は単位円の上を反時計回りに進む。 の絶対値が 1 なので、進む速さは一定である。
<svg viewBox="0 0 460 240" width="100%" style="max-width:460px;display:block;margin:0 auto">
<line x1="110" y1="125" x2="360" y2="125" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></line>
<line x1="230" y1="30" x2="230" y2="225" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></line>
<circle cx="230" cy="125" r="80" fill="none" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></circle>
<line x1="276" y1="59" x2="276" y2="125" stroke="#1b81e0" stroke-width="1" stroke-dasharray="4 3"></line>
<line x1="230" y1="125" x2="276" y2="125" stroke="#d0562a" stroke-width="1.5"></line>
<line x1="230" y1="125" x2="276" y2="59" stroke="#1f1f1f" stroke-width="1.5"></line>
<path d="M 255 125 A 25 25 0 0 0 244.3 104.5" fill="none" stroke="#9a9a9a" stroke-width="1"></path>
<circle cx="276" cy="59" r="3" fill="#1f1f1f"></circle>
<text x="55" y="24" font-size="11" fill="#1f1f1f">角 θ の点が、そのまま cos θ と sin θ を座標に持つ</text>
<text x="240" y="119" font-size="11" fill="#9a9a9a">θ</text>
<text x="258" y="82" font-size="11" fill="#1f1f1f">1</text>
<text x="238" y="142" font-size="11" fill="#d0562a">cos θ</text>
<text x="283" y="96" font-size="11" fill="#1b81e0">sin θ</text>
<text x="336" y="142" font-size="11" fill="#9a9a9a">実軸</text>
<text x="238" y="40" font-size="11" fill="#9a9a9a">虚軸</text>
<text x="55" y="230" font-size="11" fill="#9a9a9a">絶対値は 1 のまま、θ が増えると反時計回りに進む</text>
</svg>オイラーの等式
の場合が である。単位円を半周した点が だという、図で見れば当たり前の事実にあたる。
移項した の形が有名で、、、、、 の 5 つが 1 本に収まると言われる。ただし式の内容そのものは、半周すると反対側に着く、という一文である。
なら になる。一周して元に戻るこの関係が、次の周期性を生む。
指数関数の周期性
定理。実数 について となるのは、 が の整数倍のときに限る。
証明。 が 1 に等しいことは、 かつ と同値である。 が 1 を取るのは の整数倍のときだけで、そのとき は 0 になる。
ここから、任意の複素数 について が従う。
実数では単調に増える指数関数が、虚軸方向には周期 を持つ。この周期性のせいで、複素数の範囲では を満たす が一つに決まらない。対数が一価でなくなる、という言い方をする。
三角関数を指数関数で表す
を に置き換える。 は偶関数、 は奇関数だから次が成り立つ。
もとの式と足し引きすると、三角関数のほうを指数関数で書いた形になる。
公式の裏返しにすぎないが、道具としてはこちらのほうがよく使う。三角関数の計算を、指数の計算に移し替えられるからである。以下の計算例の多くは、この 2 本で片づく。
加法定理を指数法則から出す
指数法則 の両辺を、成分で書き下す。
右辺を展開すると次のようになる。
左辺は である。実部どうし、虚部どうしを比べれば加法定理が出る。
の側だけ符号が反転する理由も、 が作っていると分かる。符号を丸暗記する必要はなくなる。
幾何で見れば、単位円上の点を掛けることは角を足すことである。MIT の講義ノートは、極形式の掛け算を「絶対値をかけ、角を足す」という規則としてまとめている。
<svg viewBox="0 0 460 240" width="100%" style="max-width:460px;display:block;margin:0 auto">
<line x1="110" y1="140" x2="360" y2="140" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></line>
<line x1="230" y1="40" x2="230" y2="225" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></line>
<circle cx="230" cy="140" r="80" fill="none" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></circle>
<line x1="230" y1="140" x2="299" y2="100" stroke="#9a9a9a" stroke-width="1.5"></line>
<line x1="230" y1="140" x2="287" y2="83" stroke="#1b81e0" stroke-width="1.5"></line>
<line x1="230" y1="140" x2="251" y2="63" stroke="#d0562a" stroke-width="1.5"></line>
<circle cx="299" cy="100" r="3" fill="#9a9a9a"></circle>
<circle cx="287" cy="83" r="3" fill="#1b81e0"></circle>
<circle cx="251" cy="63" r="3" fill="#d0562a"></circle>
<text x="55" y="26" font-size="11" fill="#1f1f1f">絶対値 1 の点どうしの積は、角を足した点になる</text>
<text x="306" y="98" font-size="11" fill="#9a9a9a">角 α</text>
<text x="292" y="72" font-size="11" fill="#1b81e0">角 β</text>
<text x="196" y="56" font-size="11" fill="#d0562a">角 α + β</text>
<text x="336" y="157" font-size="11" fill="#9a9a9a">実軸</text>
<text x="55" y="230" font-size="11" fill="#9a9a9a">加法定理は、この図を成分で書いたものにすぎない</text>
</svg>ド・モアブルの定理
定理。整数 と実数 に対して が成り立つ。
証明。まず が正の整数の場合を帰納法で示す。 は明らかである。 で成り立つとすると、加法定理から次のようになる。
は両辺とも 1 である。負の場合は ()と置く。絶対値が 1 なので逆数は共役に等しく、 となる。あとは正の場合を角 に適用すればよい。
オイラーの公式を認めるなら の一行で済む。ただし は整数に限る。非整数乗では左辺が多価になり、等式として成立しない。
計算例:6 乗を極形式で計算する
を求める。 は絶対値 、偏角 なので と書ける。
だから、答えは である。
二項定理でも計算できるが、7 項を展開して整理する手間がかかる。極形式なら指数法則だけで終わる。
計算例:1 の 5 乗根をすべて求める
を解く。()と置くと である。
絶対値を比べて になる。前に示した周期性から、 は が の整数倍であることと同値である。
以降は周期性で最初に戻るので、新しい解は出ない。5 個の解が単位円を 5 等分する位置に並ぶ。
因数分解でやると の 4 次因子が残り、そこで手が止まる。次数が上がるほど差が開く。
計算例:3 倍角の公式を導く
ド・モアブルの定理で とする。
右辺を二項展開し、、 を使って整理する。
実部を比べ、 を代入する。
虚部からは、同じ手間で も出る。加法定理を 2 回使う方法だと、この 2 本を別々に計算することになる。
計算例:4 乗を 1 次の三角関数に直す
を、次数の低い三角関数の和で表す。指数表示を代入する。
括弧の中を二項展開すると になる。指数の符号が対になっているので、2 つずつまとめられる。
半角公式を 2 回使う方法より手数が少ない。次数がいくつでも、二項展開と対のまとめ方は変わらない。
計算例:指数関数と三角関数の積を積分する
を求める。 は の実部である。
を掛け、 を代入して展開する。
実部を取れば求める積分になる。
虚部からは が同時に出る。複素指数のまま積分すると、2 つの積分が一度に片づく。部分積分を 2 回して連立させる手順が、1 回の積分に置き換わっている。
計算例:三角関数の合成
実数 に対して を 1 つの にまとめる。まず、この式は の実部である。
を極形式で と書く。 であり、 は 、 を満たす角である。
振幅 と位相 が、複素数 の絶対値と偏角として一度に決まる。振動を扱う場面で、この形が繰り返し現れる。
計算例:三角関数の有限和を求める
が の整数倍でないとき、 を求める。指数に直すと、公比 の等比級数になる。
分子と分母から半角の因子をくくり出す。 を両方に使う。
実部と虚部を取れば、2 つの和が同時に得られる。
三角関数のまま和積の公式を繰り返す方法に比べて、等比級数 1 回で済む。
双曲線関数との関係
指数表示を見ると、 と の形がよく似ている。
違いは指数に が付くかどうかだけである。実際、級数に純虚数を代入すると次の関係が出る。
の級数では と が打ち消し合い、符号がすべて正になる。これが の級数である。
に を入れると になる。円と双曲線の関係式が、虚数の代入で移り合う。









