ハッブルの法則 — 赤方偏移から、膨張する宇宙とその年齢まで

線がそろって赤いほうへずれる

星や銀河の光を波長ごとに分けると、ところどころが暗く欠けています。途中の原子が決まった波長だけを吸ったあとで、その波長がどこにあるかは原子の種類で決まっています。だから実験室で同じ原子を測れば、線の並びをそのまま比べられます。

銀河の光でこれをやると、線の並びは同じ形のまま、そろって波長の長いほうへずれています。ずれるのは 1 本だけではありません。並び全体が同じ割合で伸びています。

このずれを と書き、赤方偏移といいます。 が実験室で測った波長、 が銀河から届いた波長です。長いほうへずれるので は正になります。

が小さいうちは、これを遠ざかる速さと読んでよいことになっています。 です。救急車が遠ざかると音が低く聞こえるのと同じで、遠ざかる光源からの波は伸びて届きます。

遠いほど速く遠ざかる

次に必要なのは距離です。速さはスペクトルから 1 本で出ますが、距離のほうは、明るさが分かっている天体を銀河の中に見つけて、届いた明るさと見比べて測ります。

こうして測った距離と速さを、横軸と縦軸に取って並べます。すると点は散らばらず、原点を通る 1 本の直線に乗ります。

式に書けば です。 をハッブル定数といい、この直線の傾きにあたります。距離が 2 倍の銀河は 2 倍の速さで遠ざかっている、というのがこの 1 行の中身です。

原点を通ることが効いています。近くの銀河ほど速さが小さく、 が 0 に近づけば も 0 に近づきます。遠ざかる速さが距離だけで決まっていて、銀河の重さにも種類にもよりません。

中心はどこにもない

どの銀河も遠ざかっているのなら、私たちが中心にいるように見えます。ところがそうではありません。

銀河を等しい間隔で並べ、そのあいだの物差しごと一様に伸ばしてみます。どれか 1 つを選んで、そこから見ると、隣は少し、その次は倍、その次は 3 倍の速さで離れていきます。距離に比例した速さです。

選び直しても同じです。別の銀河から見ても、やはり遠いものほど速く離れていきます。図の 2 段は選んだ銀河が違うだけで、矢印の並びはまったく同じ形になります。

銀河が空間の中を飛んでいるのではなく、あいだの空間そのものが伸びている。だから特別な場所がなく、どこから見ても同じ法則になります。膨らむパン生地の中のレーズンが、どのレーズンから見ても互いに遠ざかっていくのと同じです。

傾きを逆さにすると時間になる

と書き直します。距離を速さで割ったものですから、これは時間です。

その銀河がいまの速さのまま逆回しで戻ってきたとして、私たちのところへ着くまでにかかる時間、という意味になります。大事なのは、この値がどの銀河でも同じになることです。遠い銀河は距離も大きいぶん速さも大きいので、割ると同じ値が残ります。

つまり、すべての銀河が 1 つの時刻に 1 か所から出発したことになります。この をハッブル時間といい、宇宙の年齢のおよその目安になります。

およそ、と付くのは、膨張の速さが変わらないと置いたからです。実際には重力が引き戻し、暗黒エネルギーが押し広げるので、速さは時代によって違います。それでも、傾き 1 つから時間が出てくること自体は変わりません。