銀河の回転曲線とダークマター(渦巻銀河の外側が遅くならないのはなぜか)

太陽系の惑星は外ほど遅い

地球は秒速 29.8 km、およそ 30 倍遠い海王星は秒速 5.4 km で太陽のまわりを回っています[1]。太陽系の質量はほとんどが太陽に集まっているため、惑星を引く力は太陽の引力だけとみなせます。

半径 の円を速さ で回りつづける質量 の惑星には、中心へ向かう大きさ の力がいる。この力は、質量 の太陽が引く万有引力 です。

2 つの力を等しいとおいた の両辺から を約分して をかけると 、平方根をとると になる。

はどの惑星でも同じだから、 は に反比例します。半径が 30 倍なら速さは 倍になり、秒速 29.8 km を 5.5 で割った秒速 5.4 km は海王星の値と合う。

図の左は 3 つの惑星の円軌道、右は を半径ごとに描いたグラフで、点がそれぞれの惑星にあたります。

回転の速さはドップラー効果で測る

渦巻銀河の円盤では、星とガスが中心のまわりを同じ向きに回っています。斜めから見ると、円盤の片側はこちらへ近づき、反対側は遠ざかる。

近づく側の光は波長が短いほうへ、遠ざかる側の光は長いほうへずれます。ドップラー効果によるこのずれを 、もとの波長を とすると で、 は視線にそった速さ、 は光の速さです。

図の下の 2 本は円盤の左端と右端から届く光のスペクトルで、破線はもとの波長 の位置。

円盤は視線に対して傾いているため、測った速さを傾きの角度で直して回転の速さにします[2]。

可視光では若い星のまわりで光る水素ガスの 線を、電波では水素原子の出す波長 21 cm の電波を測ります。21 cm の電波で見える水素ガスは星の円盤の 2〜4 倍の半径まで広がっているため、星がほとんどない外側の速さもわかる[3]。

測った回転曲線は外まで平ら

回転曲線は、中心からの距離ごとに回転の速さを描いたグラフです。渦巻銀河の多くでは、速さは中心の近くで上がったあと、星の円盤の外までほぼ一定のまま続く[2]。明るい渦巻銀河では、中心から 50 kpc(1 kpc は約 3260 光年)でも平らです[2]。

天の川銀河では、中心から 8.1 kpc の太陽の位置で秒速 229 km です。5 kpc から 25 kpc までの範囲で、半径が 1 kpc 増えるごとに下がる速さは秒速 1.7 km ほど[4]。

図の点と濃い線は測った回転曲線、薄い線は中心に質量が集まっているとしたときの です。

光る物質だけなら外で下がるはず

銀河の星の明るさは中心で強く、外側ほど急に弱くなる。星とガスの分布から計算した回転の速さも、外側では下がっていきます[3]。

光っているものが質量のすべてなら、内側の質量 はある半径から先でほとんど増えなくなる。その先では はほぼ一定で、速さは太陽系の惑星と同じく にしたがって下がります。

天の川銀河の質量がすべて太陽の軌道より内側にあるとすると、25 kpc での速さは秒速 km になる。測った回転曲線ではそこで秒速 200 km ほどあり、この見積もりより秒速 70 km 速い[4]。

図で 2 本の線のあいだを塗ったところが、光るものだけでは説明のつかない速さの差です。

平らな回転曲線から求める質量

半径 の内側にある質量を とし、質量は中心のまわりに球の形で分布しているとみなす。すると を について解いて となり、 が一定なら は に比例して増えます。

天の川銀河の太陽の位置では、 は 8.1 kpc で m、 は秒速 229 km で m/s です。これらを万有引力定数 とあわせて に代入すると kg となり、太陽の質量 kg の 倍にあたる。

25 kpc での秒速 200 km を使うと、内側の質量は太陽の 倍になります[4]。天の川銀河の星を全部足した質量は太陽の 倍と見積もられていて、25 kpc の内側にはその約 4 倍の質量がある[5]。

1970 年、ルービンとフォードはアンドロメダ銀河の電離ガス 67 か所で 線のずれを測り、内側の質量が中心から 4〜14 kpc の範囲で半径にほぼ比例して増えることを見つけています[6]。

図の 2 本は内側の質量で、まっすぐ伸びる線が 、途中で増えなくなる線は光るものを足し合わせた質量。

ダークマターのハロー

が に比例するなら、厚さ の球殻 1 つにある質量は、どの半径でも で変わりません。

球殻の体積 は に比例して大きくなるので、密度は となり、中心からの距離の 2 乗に反比例する。

距離が 2 倍になると密度は 4 分の 1 に下がる。それでも質量は星の円盤よりはるかに外まで分布している。円盤を包むこのほぼ球状の質量はダークマターのハローと呼ばれ、光も電波も出さないから、重力を通してしか存在がわからない。

図は横から見た星の円盤と、それを包むハローで、塗りの濃さが密度を表します。

ハローまで含めた天の川銀河全体の質量は太陽の 倍と見積もられていて、星の質量の合計の約 24 倍になります[5]。

参考文献

  1. [1]NASA Goddard Space Flight Center. Planetary Fact Sheet - Metric.
  2. [2]Sofue Y, Rubin V. Rotation Curves of Spiral Galaxies. Annual Review of Astronomy and Astrophysics 39, 137–174, 2001. arXiv:astro-ph/0010594
  3. [3]Combes F. Le problème de la matière noire : galaxies spirales. Collège de France, cours du 11 février 2015. PDF
  4. [4]Eilers A-C, Hogg D W, Rix H-W, Ness M K. The Circular Velocity Curve of the Milky Way from 5 to 25 kpc. The Astrophysical Journal 871, 120, 2019. arXiv:1810.09466
  5. [5]McMillan P J. The mass distribution and gravitational potential of the Milky Way. Monthly Notices of the Royal Astronomical Society 465, 76–94, 2017. arXiv:1608.00971
  6. [6]Rubin V C, Ford W K Jr. Rotation of the Andromeda Nebula from a Spectroscopic Survey of Emission Regions. The Astrophysical Journal 159, 379–403, 1970. doi:10.1086/150317
宇宙論の基本