ヒラー山の洞窟で「読め」という神の言葉を受け、預言者としての使命が始まる。
イスラム教の成立は7世紀初頭のアラビア半島で始まり、預言者ムハンマドの宣教活動から急速に拡大していった宗教です。
イスラム教が生まれる前のアラビア半島は、多神教的な部族社会でした。メッカには重要な商業都市として、また宗教的聖地として多くの部族が集まる場所がありました。
メッカにある立方体の建物で、当時は360体もの偶像が祀られていた多神教の聖地でした。商業的にも宗教的にも重要な拠点として機能していました。
血縁関係を基盤とした部族単位の社会で、各部族には独自の守護神がいました。商業活動が盛んで、キャラバン貿易によって富を蓄積する商人階級が存在していました。
ムハンマドの生涯と啓示
570年頃、メッカの商人の家系に生まれたムハンマドは、40歳の時に洞窟で瞑想中に大天使ガブリエル(ジブリール)から最初の啓示を受けたとされています。
家族や親しい友人への秘密の宣教から、メッカでの公開的な布教活動に転換。
メッカでの迫害を逃れ、信者と共にメディナ(当時のヤスリブ)に移住。イスラム暦の起点となる。
約1万人の信者とともにメッカを無血開城し、カアバ神殿から偶像を排除。
「別れの巡礼」を行った後、メディナで逝去。この時点でアラビア半島の大部分がイスラム化。
啓示とクルアーン(コーラン)の成立
ムハンマドが受けた啓示は、23年間にわたって断続的に降ろされ、これらが集められてクルアーンとなりました。
アラビア語で「読誦されるもの」を意味する、イスラム教の根本聖典。
クルアーンは114の章(スーラ)から構成され、各章にはそれぞれ節(アーヤ)が含まれています。初期のメッカ時代の啓示は主に神の唯一性や来世についての内容が中心で、後のメディナ時代には法的・社会的な規範が多く含まれるようになりました。
正統カリフ時代(632-661年)
ムハンマドの死後、イスラム共同体(ウンマ)の指導者としてカリフ(後継者)が選ばれ、急速な領土拡大が始まりました。
アブー・バクル(632-634年)
ウマル・イブン・ハッターブ(634-644年)
ウスマーン・イブン・アッファーン(644-656年)
アリー・イブン・アビー・ターリブ(656-661年)
この時期の特徴的な出来事として、リッダ戦争(背教者の乱の鎮圧)、ビザンツ帝国とサーサーン朝ペルシアへの征服活動、そしてクルアーンの公式編纂が挙げられます。
ウマイヤ朝とアッバース朝での発展
ダマスカスを首都とし、地中海沿岸からイベリア半島、中央アジアまで版図を拡大。アラブ民族中心の統治体制。
バグダードを首都とし、非アラブ系ムスリムの地位向上を図る。学問や文化が大いに発展し、「イスラムの黄金時代」と呼ばれる。
法学と神学の発展
イスラム教の教義と法体系は、クルアーンとハディース(預言者の言行録)を基盤として体系化されていきました。
8世紀から9世紀にかけて、イスラム法学(フィクフ)の四大法学派が確立されました。これらはハナフィー派、マーリキー派、シャーフィイー派、ハンバリー派として知られ、現在でもスンナ派の法的基盤となっています。
また、この時期にはカラームと呼ばれるイスラム神学も発達しました。
理性的論証を用いて信仰の諸問題を論じる学問分野。
スーフィズム(神秘主義)の登場
8世紀頃から、イスラム教内部により内面的・神秘的な信仰を求める動きが生まれました。これがスーフィズムで、神との直接的な体験や精神的な浄化を重視する思想です。
代表的なスーフィーには、ラービア・アダウィーヤ(女性神秘主義者)、アル=ガザーリー(神学者・哲学者)、ジャラール・ウッディーン・ルーミー(詩人・神秘主義者)などがいます。
シーア派とスンナ派の分裂
イスラム教最大の宗派分裂は、ムハンマドの正統な後継者を巡る見解の相違から生じました。
ムハンマドの慣行(スンナ)に従うことを重視し、カリフは共同体による選出が適切とする立場。全ムスリムの約85-90%を占める。
ムハンマドの血縁者であるアリーとその子孫のみが正統な指導者(イマーム)であるとする立場。全ムスリムの約10-15%を占める。
地理的拡大と文化的多様性
イスラム教は急速にアラビア半島を超えて拡大し、各地の既存文化と融合していきました。
ビザンツ帝国とサーサーン朝の領土を征服し、キリスト教徒やゾロアスター教徒の多くがイスラム教に改宗。
711年にウマイヤ朝軍がイベリア半島に侵入し、アンダルシア文明として知られる独特のイスラム文化が花開く。
11世紀以降、トルコ系やアフガン系の王朝によってイスラム教が伝播。ムガル帝国時代には大きく発展。
13世紀以降、商人や宣教師によって平和的に伝播。インドネシア、マレーシアなどで多数派宗教となる。
現代へ
イスラム教は創始から約1400年を経て、現在では世界人口の約25%にあたる18億人以上の信者を持つ世界第二の宗教となっています。五行(信仰告白、礼拝、喜捨、断食、巡礼)を基本とする信仰実践は現代でも維持され、多様な文化的背景を持つムスリム社会で共通の基盤となっています。