ユダヤ教とヘブライ(イスラエル)の歴史|高校倫理
ユダヤ人はもともとヘブライ人でした。紀元前 16 世紀(?)頃、ヘブライ人はカナン(現パレスチナ)に移住し、一部はエジプトにも移住しました。
エジプトに移住したヘブライ人は奴隷になり、紀元前 13 世紀頃、モーセに率いられてエジプトを脱出します。これが旧約聖書にある「出エジプト記」です。紀元前 11 世紀頃、民族対立などの苦難から、ヘブライ人はヘブライ人のための国、イスラエル王国を建国し、ダビデを王としました。
(現在のイスラエルの国旗)
イスラエル王国は紀元前 930 年頃、内乱によって南北に分裂し、北はイスラエル王国、南はユダ王国となり、イスラエル王国はアッシリア、ユダ王国は新バビロニアに滅ぼされてしまう。
ユダ王国が滅びていく中、新バビロニアのネブカドネザル二世によって、ヘブライ人の多くはバビロンという地域に連行されました(バビロン捕囚)。
その後、新バビロニアはキュロス二世率いるアケメネス朝ペルシアに滅ぼされます。キュロス二世はバビロンで奴隷となっていたヘブライ人(ユダ王国の人々という意味でユダヤ人という言葉も使われる)を解放しました。
バビロンから解放されたユダヤ人はエルサレムに帰り、ユダヤ教の原型となる思想と形式を作っていく。いわゆるユダヤ教はユダヤ人の民族宗教であり、そのユダヤ人はもともとヘブライ人であり、イスラエル人でした。
整理
Cは「世紀」、数字のみは年号
時期 | 出来事 |
---|---|
B.C.16C頃 | カナンの地とエジプトに移住 |
B.C.13C頃 | モーセによってエジプト脱出 |
B.C.11C頃 | イスラエル王国ができる |
B.C.930頃 | 南北分裂 |
B.C.722 | イスラエル王国、アッシリアに滅ぼされる |
B.C.586 | ユダ王国、新バビロニアに滅ぼされる(バビロン捕囚) |
B.C.539 | 新バビロニア滅亡、ユダヤ人解放 |
ヘブライ聖書
ユダヤ教の聖書は「旧約聖書」ですが、この「旧約」はキリスト教世界の「新約」に対する言葉で、ユダヤ教世界では「ヘブライ聖書」といいます。旧約聖書は聖書であると同時に、モーセによるエジプト脱出などを述べた歴史書でもあります。
ヘブライ聖書の構成
- 創世記
- 出エジプト記
- レビ記
- 民数記
- 申命記
- ヨシュア記
- 士師記
- サムエル記
- 列王記
特に最初の創世記と出エジプト記は有名で、「ノアの方舟」は創世記の一節にあります。
洪水(ミケランジェロ)
ヤハウェとメシア
ユダヤ教はヤハウェを神とする。ユダヤ教の神は「裁きの神」であり、律法(現代でいう法律や道徳)を守らない者は滅ぼされる。ヤハウェは唯一の神であり、他に神はいない。多くの民族が多神教を信仰していた事実と対照的である。
ユダヤ教においてユダヤ人はヤハウェから選ばれた存在である。この「自分たちの民族は神に選ばれている」という思想を選民思想という。
イスラエル王国が南北に分裂して国そのものが滅ぶと、ユダヤ人は「いつか苦難が去って、自分たちは救われる」と願うようになった。この救済はメシア(救世主)によって行われるが、「メシア」という語は本来「油を塗られた者」という意味である。メシアという概念はユダヤ教、キリスト教、イスラム教のすべてにある。
パレスチナ
(北)イスラエル王国とユダ王国に分裂する前のイスラエル王国は、パレスチナを領有していた。しかし「パレスチナ」という言葉は、当時ユダヤ人の敵となっていた民族「ペリシテ人」を由来とする。「パレスチナ」とは「ペリシテ人の土地」という意味。
ダビデとソロモン
イスラエルの王として有名なダビデは、実は二代目である。初代の王はサウルで、旧約聖書「サムエル記」に登場する。サウルとサムエルは別人で、サムエルは預言者の一人。
ダビデの時、イスラエルはパレスチナ全土を支配し、続く三代目のソロモンの時に黄金期をむかえた。しかしソロモンの死後、イスラエルは南北に分裂してしまう。
センター倫理の過去問(2016年第2問の問6)
※センター倫理の過去問(問題のみ)から引用。掲載の都合上、問題文の一部を変更。
ユダヤ教の律法の説明として適当でないものを選べ。
① イスラエル人は、律法を守れば祝福が与えられ、律法を破れば裁きの神としてのヤハウェに厳しく罰せられるとされている。
② 律法の中心をなす十戒は、神の絶対性に関わる宗教的な規定(義務)と人間のあり方に関わる道徳的な規定(義務)から成り立っている。
③ イスラエル人は、エジプトに移り住む際の心構えとして神から与えられた律法を、神と民との間に結ばれた契約の徴(しるし)とみなしている。
④ 律法に従って神の恩恵に応える限り、イスラエル人は神に選ばれた特別な民として、神から民族の繁栄を約束されている。
解答
③
①は正しい。律法を守らなければ神の裁きを受けるとされる。ユダヤ教において神は「裁きの神」である。
②は正しい。『十戒』はモーセがシナイ山で神から授かった十の掟で、神と人間の両方に関する規定がある。
④はユダヤ教の選民思想の記述であり、正しい。「律法に従っている限り」という説明に注意しよう。イスラエル人(ヘブライ人、ユダヤ人)は神に選ばれているがゆえに、神の恩恵を受けるという選民思想を持っているが、それは律法を遵守するという前提があってのこと。
この律法主義を批判し、ユダヤ教に代わる思想をつくりあげた人物がイエスである。
③は誤り。「エジプトに移住する心構え」などはない。ヘブライ人はエジプトで奴隷として虐げられていたが、モーセに率いられて脱出したときに十戒という具体的な律法が生まれた。
センター試験(2023 年・第一問・問 2)改
様々な宗教や思想とそれに基づいた生き方についての説明として最も適当なものを選びなさい。
- パリサイ(ファリサイ)派は、律法によって人々の生活を厳格に規定しようとする態度を批判し、ユダヤ教徒としてより柔軟な生き方を求めた。
- アリストテレスは、倫理的徳に基づいた政治的生活を送ることが人間にとって最も望ましい生き方であり、最高の幸福をもたらすと考えた。
- ジャイナ教の信者はその多くが、不殺生の戒めを遵守することができる農業従事者として生活していた。
- 老子は、自然に身を委ね、村落共同体のような小さな国家において素朴で質素な生活に満足する生き方を理想とした。
解答
4 の老子が正解。
1 は誤り。パリサイ派はむしろ律法を厳守します。イエスはその形式的な姿勢を批判しました。
2 は「政治的生活」でなく「観想的生活」が正しい。最高善と幸福は観想的生活によって達成される。観想(テオリア)とは真理の追求のこと。