水は電荷を持たず、分子として小さいので、脂質の層をそのまま抜けられます。イオンのようにはじかれることはありません。ただ、速さが足りません。
腎臓の集合管や赤血球のように、短い時間に大量の水を出し入れするところでは、この速さでは追いつきません。そこで水だけを通す孔があります。アクアポリンです。
1 チャネルあたり毎秒およそ 3 × 10⁹ 分子を通します。ATP も濃度の差も使いません。向きを決めるのは浸透圧の差だけで、高いほうへ水が引かれます。受動輸送です。
四量体ですが、水が通るのは各サブユニットの中央にある細い孔で、4 本が別々に働きます。真ん中の軸は水を通しません。
孔は砂時計の形をしていて、細胞外側の口も細胞内側の口も広く、中ほどでいちばん細くなります。その最狭部を ar/R フィルターといい、直径はおよそ 2.8 Å です。水分子 1 つぶんで、これより太いものは入れません。
イオンが入れないのはこの細さのためです。水を着たままでは太すぎるうえ、脱いでも、K⁺ チャネルにあったような受け皿がここにはありません。脱ぐ理由がないので、脱がずにとどまります。
水は 1 列に並んで通ります。追い越しも並走もできません。この一列であることが、次の場面で効いてきます。
孔の中ほどには、NPA と呼ばれるモチーフが 2 つ、向かい合って正電荷を差し向けています。
水分子には向きがあります。酸素側がマイナス寄り、水素側がプラス寄りです。正電荷に近づけば、水素は押し返されます。ですから通り抜ける水分子は、この 1 か所でちょうど向きを反転させます。
図では、上を通る水が水素を下へ、下を通る水が水素を上へ向けています。孔の中ほどを境に、列の向きが揃わなくなっているのが分かります。
水の中を H⁺ が進むとき、動いているのは粒そのものではありません。隣の水分子へ水素を渡し、渡された水がまた隣へ渡す。この付け替えが次々に伝わることで、あたかも H⁺ が速く動いたように見えます。Grotthuss 機構です。
この渡しが続くには、水分子の向きが揃っていなければなりません。向きが逆を向いたところで、水素結合の鎖は切れます。
アクアポリンの中ほどで起きているのは、まさにその切断です。NPA が向きを反転させるので、鎖が中央でつながらない。H⁺ は途中まで来て、そこで行き先を失います。
水は通し、プロトンは通さない。細胞の内と外の pH の差は、この 1 か所の仕掛けで守られています。AQP2 が働かないと腎性尿崩症になり、アストロサイトの AQP4 は視神経脊髄炎の標的抗原になります。