チャネルは開いた孔です。開いていれば通りますが、通る向きを決める力は持っていません。多いほうから少ないほうへ、電位の高いほうから低いほうへ。すでにある差に従って流れるだけです。
ですから、膜の内と外で濃度が同じになってしまえば、開いたままでも正味では何も動きません。図の後半がその状態です。孔は何も変わっていないのに、流れだけが止まります。
活動電位も、静止膜電位も、この差があることを前提にしています。差がなければチャネルは何もできません。では、その差は誰が作っているのか。ここからがこの図解の本題です。
差を作っているのは Na⁺/K⁺-ATPase、いわゆるナトリウムポンプです。ATP 1 分子あたり、Na⁺ を 3 個細胞外へ汲み出し、K⁺ を 2 個細胞内へ取り込みます。
どちらも、少ない側から多い側へ運んでいます。放っておけば逆向きに流れる相手を、逆らって運ぶわけですから、ここにはエネルギーが要ります。ATP がリン酸をタンパク質のアスパラギン酸残基に渡し、その付け外しで形が切り替わります。
回転そのものは 1 秒あたり数百回と、チャネルに比べればひどく遅い。それでも数が多いので、まとめると大きな仕事になります。ニューロンが使う ATP のおよそ半分、安静時の全身の基礎代謝の 20 から 30 % がここに消えています。
静止しているとき、細胞は休んでいるように見えます。実際には、その状態を保つためにいちばん多くのエネルギーを使っています。
ここで数に注目します。出ていくのが 3 個、入ってくるのが 2 個。差し引きで、正電荷 1 個ぶんが細胞の外へ運び出されています。
つまりこのポンプは、濃度の差を作るだけでなく、それ自体が電流を流しています。これを起電性といいます。静止膜電位のうち -5 から -10 mV ほどは、この 1 個ぶんが直に作っています。
形は 2 つの姿を行き来します。細胞内向きで Na⁺ に強く結合する E1 と、細胞外向きになって Na⁺ を放し K⁺ を受け取る E2 です。図で口の向きが入れ替わるのがそれで、開いている側の口だけが広がります。
ウアバインとジギタリスは、このポンプを E2 の姿で固定して止めます。シミュレーターの阻害薬の中で、ウアバインだけが効き方が違うのはこのためです。ほかの 3 つはチャネルを直接止めますが、これは前提のほうを止めます。
止めた瞬間には何も起きません。差はまだ残っているので、活動電位も出ます。ただ、汲み出しが止まったぶん、Na⁺ は少しずつ細胞内にたまり、K⁺ は外へ抜けていきます。差が浅くなるにつれて静止膜電位も浅くなり、やがて Na⁺ チャネルが不活性化したまま戻らなくなります。
そうなると、チャネルはどこも壊れていないのに興奮できません。シミュレーターでウアバインを投与し、しばらく待ってから刺激を打つと、そのとおりになります。
細胞内 Na⁺ が上がると Na⁺/Ca²⁺ 交換体の駆動力が落ち、細胞内 Ca²⁺ が増えます。心筋ではこれが収縮力を上げます。強心配糖体がポンプを止める薬なのは、そのためです。