細胞膜を作っているのはリン脂質という分子です。頭は水になじみ、尾は水をはじきます。性質の違う 2 つを 1 本につないだ形なので、水の中に放り込むと、頭を外へ向け尾を内へ向けた層が 2 枚、尾を突き合わせて並びます。これが脂質二重層です。
図の中央の厚みが、その突き合わせた尾の部分です。ここは水になじまない、油と同じ場所です。細胞の内と外はどちらも水ですから、細胞膜とは、水と水のあいだにはさまった薄い油の層だといえます。
この形は誰かが組み立てたものではありません。水の中でいちばん落ち着く並び方がこれだというだけです。膜が破れても勝手にふさがるのは、そのためです。
水の中のイオンは、裸ではいません。電荷に引かれた水分子が周りを取り囲んでいて、これを水和殻といいます。図で Na⁺ の周りを回っているのがその水です。裸のイオンより、水を着たイオンのほうがずっと大きくなります。
この姿のままでは、油の層に入れません。水になじむものを、水をはじく場所へ押し込むことになるからです。かといって水を脱げば、電荷がむき出しのまま油の中へ入ることになり、こちらはもっと不利です。入口で脱ぐか、着たまま入るか。どちらの道もふさがっています。
ですからイオンは、脂質の部分をほとんど通れません。細胞膜の電気抵抗が高いのはこのためで、膜の内と外に電位の差を保っていられるのも、この通りにくさがあってこそです。
通れないのはイオンであって、分子すべてではありません。酸素 O₂ や二酸化炭素 CO₂ は電荷を持たず、小さく、油になじみます。だから通り道を借りずに、脂質の層をそのまま抜けていきます。呼吸で出入りする気体がこれです。
図では、同じ 1 枚の膜を、O₂ と CO₂ が通り抜け、Na⁺ だけが跳ね返されています。膜が固いから通れないのではありません。通れるかどうかを決めているのは、大きさよりも先に、電荷を持っているかどうかです。
水はその中間です。電荷を持たないので少しは通れますが、量が足りません。この話は最後の図解でもう一度扱います。
イオンが通れない膜で、細胞はイオンを出し入れしています。それができるのは、膜を貫くタンパク質が通り道になっているからです。図の 3 つは、その代表的な 3 通りです。
チャネルは開いた孔です。多いほうから少ないほうへ、坂を下る向きにしか通しません。ポンプは装置です。エネルギーを使って、少ない側から多い側へ、坂を上る向きに運びます。水の孔は水だけを通し、イオンには関わりません。
何を通すか、いつ通すか、どちら向きに通すか。そのすべてを決めているのは膜ではなく、そこに立っているタンパク質です。シミュレーターに並ぶ 6 つは、その決め方が 6 通りある、ということです。