チャネルは膜を貫く袋の形をしていて、細胞外側の口も細胞内側の口も広く開いています。通すイオンを選んでいるのは、その広いところではありません。袋の中ほどでいちばん細く絞れた、わずか数 Å の区間です。ここを選択フィルターといいます。
K⁺ チャネルでは、4 本のサブユニットが持ち寄った TVGYG という配列がその区間を作っています。どの生き物の K⁺ チャネルでもこの並びは変わりません。ここを変えると選ぶ働きそのものが壊れるので、変わったものが残らなかったということです。
次の場面からは、この 1 か所だけを大きくして見ます。膜ごと描くと、通る通らないの分かれ目が数ピクセルの隙間になってしまうからです。
フィルターは水和殻ごと入れるほど広くありません。ですから K⁺ は、入口で水を脱いでから通ります。ところが、水を脱いだイオンは不安定です。ふつうなら脱ぐだけ損をします。
その損を埋めているのが、フィルターの壁です。主鎖のカルボニル酸素が孔の内側へ向いていて、脱いだ水のちょうど代わりに K⁺ を受け止めます。酸素の位置と間隔が、水和殻の水の位置と間隔にそっくりになっているのです。
図の 4 段の受け皿がそれです。K⁺ は水を脱いだことに気づかないまま、受け皿から受け皿へ渡されて反対側に出ます。だから速く、かつ選んで通せます。
Na⁺ は K⁺ より小さいイオンです。半径は 0.95 Å で、K⁺ の 1.33 Å より小さい。狭いところを通るのだから、小さいほうが有利なはずです。ところが実際には逆で、K⁺ チャネルは K⁺ を Na⁺ の 1 万倍以上えり分けます。
理由は受け皿の間隔にあります。酸素の並びは K⁺ の大きさに合わせて作ってあるので、小さい Na⁺ が入っても、酸素との距離が遠すぎて受け止めてもらえません。水を脱ぐ損だけが残り、埋め合わせがない。だから Na⁺ は水を着たまま、入口の手前にとどまります。
ふるいの目のように、小さいものから順に通るのではありません。ちょうど合う大きさのものだけが通る。フィルターという言葉から思い浮かべる働きとは、まるで逆のことが起きています。
では Na⁺ チャネルはどうやって Na⁺ を選ぶのか。同じ仕掛けの裏返しではありません。こちらのフィルターは DEKA と呼ばれる 4 つのアミノ酸でできていて、孔が広く、壁にマイナスの電荷が並んでいます。
広いので、Na⁺ は水をいくつか着たまま通れます。脱ぐ必要がないので、脱いだ損を埋める仕掛けも要りません。マイナスの電荷が陽イオンを引き込み、そのまま通します。
そのぶん選び方は緩く、K⁺ を通す割合も K⁺ チャネルほど小さくなりません。選択性は 10 倍あまりです。同じ「選択フィルター」という名前でも、中でしていることは 2 つのチャネルでまったく違います。