筋が縮むのは、2 種類のフィラメントがすれ違うからである。筋の中で、それ自体が短くなるものは何もない。このページはその事実を 4 つの側から動かして見せる。組織の入れ子、すれ違いそのもの、ミオシン頭部 1 個の首振り、そして、それらが起きるかどうかを決める Ca²⁺ のスイッチである。
筋は 6 段の入れ子でできている。数十 cm の骨格筋が直径 0.1 〜 1 mm の筋束に分かれ、筋束が直径 10 〜 100 µm の筋線維に、筋線維が直径 1 〜 2 µm の筋原線維に、筋原線維が長さ約 2 µm のサルコメアに、サルコメアが直径 15 nm と 7 nm のフィラメントに分かれる。筋線維はこれで細胞ひとつである。細胞が融合してできるので核を多数持ち、その核は中央ではなく細胞のふちに並ぶ。
サルコメアは Z線から次の Z線までで、収縮する最小の単位である。中央に太いミオシンフィラメントがあり、両側の Z線から細いアクチンフィラメントが伸びてきて、重なったところが暗く見える。長さを変えても、太いフィラメントの幅である A帯 は 1.60 µm のまま動かない。変わるのは I帯 と H帯 だけである。この一つの観察が「フィラメント滑走説」の根拠になった。フィラメントは縮まず、すれ違うのである。
サルコメアが出せる力は、2 つのフィラメントがどれだけ重なっているかで決まる。2.0 〜 2.25 µm のあたりでは、すべてのミオシン頭部が細いフィラメントに届き、張力は最大になる。伸ばせば重なりが減り、やがてつかむ相手そのものがいなくなる。縮めれば細いフィラメント同士がぶつかり、太いフィラメントも Z線に突き当たる。このページの長さ-張力曲線は、Gordon・Huxley・Julian の古典的な関係を単純化したものである。
ミオシン頭部 1 個は 5 つの状態を巡る。ADP と Pi を持ったままアクチンに結合し、Pi が外れると結合したまま倒れ込んで、細いフィラメントを M線側へ約 10 nm 引き込む。続いて ADP も外れ、何も結合していない状態でアクチンに固く付いたままになる。これが硬直で、死後硬直はこの状態が全身で固定されたものである。ここから離れられるのは ATP が結合したときだけで、その ATP を分解したエネルギーで頭部が起き上がり、次の結合部位を狙う。つまり ATP は縮むためではなく、まず離れるために使われる。1 本のサルコメアには数百組の頭部があり、全部がばらばらのタイミングでこれを繰り返すので、フィラメントは離さずになめらかに引かれ続ける。
ここまでのすべては、Ca²⁺ が許さなければ動かない。運動神経の活動電位が神経筋接合部でアセチルコリンを放出し、筋線維膜が脱分極すると、その信号が T管 を伝って細胞の奥まで入る。T管の電位センサーが筋小胞体の Ca²⁺ 放出チャネルを開け、細胞質の Ca²⁺ 濃度は約 0.05 µM から 10 µM へ跳ね上がる。Ca²⁺ がトロポニンに結合するとトロポミオシンがアクチンの溝へずれ、それまで覆われていた結合部位が開く。頭部が結合できるのは、そこからである。
弛緩にもエネルギーが要る。Ca²⁺ ポンプが ATP を使って Ca²⁺ を小胞体へ汲み戻し、トロポミオシンが結合部位の上へ戻って、はじめて筋は力を抜く。縮むときも緩むときも ATP が要る。ATP が尽きた体が、力なく緩むのではなく硬くなるのはそのためである。