X を位相空間とする。X 上の前層 \mathcal{F} は、各開集合 U に集合 \mathcal{F}(U) を割り当て、開集合の包含 V \subset U ごとに写像 \operatorname{res}_{U,V} : \mathcal{F}(U) \to \mathcal{F}(V) を割り当てたものである。\mathcal{F}(U) の元を U 上の切断と呼び、\operatorname{res}_{U,V} による s の像を s|_{V} と書く。これらの写像は、\operatorname{res}_{U,U} = \operatorname{id} と、W \subset V \subset U のときの \operatorname{res}_{V,W} \circ \operatorname{res}_{U,V} = \operatorname{res}_{U,W} をみたすものとする [1]。
典型的な例は連続関数の前層 C である。C(U) は連続関数 U \to \mathbb{R} の集合で、制限は定義域を小さくすることである。滑らかな関数、\mathbb{C} の開集合の上の正則関数、有界な連続関数、定数関数も、同じ制限で前層になる。\mathcal{F}(U) が群や環で、制限写像が準同型であるとき、\mathcal{F} を群の前層、環の前層という。
制限すると情報が失われることがあり、小さい開集合の上の切断が、いつも大きい開集合の切断から来るとは限らない。図では、円板 U の上の 2 つの連続関数 f と g が縁の近くでだけ違い、小さい円板 V への制限は同じになる。V の縁に近づくと限りなく大きくなる関数 h は C(V) に入るが、U 上のどの連続関数の制限にもならない。U 上の連続関数は、V の縁の近くで有界だからである。
前層 \mathcal{F} が層であるとは、どの開集合 U と、和集合が U になるどの開集合の族 U_i についても、次の 2 つが成り立つことである [1]。局所性: s, t \in \mathcal{F}(U) がすべての i で s|_{U_i} = t|_{U_i} をみたすなら、s = t である。貼り合わせ: s_i \in \mathcal{F}(U_i) がすべての i と j で s_i|_{U_i \cap U_j} = s_j|_{U_i \cap U_j} をみたすなら、すべての i で s|_{U_i} = s_i となる s \in \mathcal{F}(U) がある。
2 つをあわせると、U 上の切断とは、重なりで一致する局所的な切断の族のことである。連続関数は両方をみたす。関数は被覆の各部分での値で決まり、重なりで一致する U_i 上の連続関数は U 上の 1 つの関数を定める。連続性は各点の近くで確かめられるので、この関数は連続である。滑らかな関数と正則関数も、同じ理由で層をなす。
有界な連続関数は、局所性はみたすが貼り合わせはみたさない。\mathbb{R} の区間 (n - 1, n + 1) の上の関数 s_n(x) = x はどれも n + 1 で抑えられ、重なりで一致するが、貼り合わせた関数は x で、有界でない。図の前半では、重なり合う 3 つの区間の上のグラフが重なりで一致し、1 本のグラフにつながる。後半では x の各部分の上限が n とともに上がり、1 つの上限ですべてを抑えることはできない。
定数関数もみたさない。U = (0, 1) \cup (2, 3) の上で、(0, 1) 上の定数 0 と (2, 3) 上の定数 1 は、空集合である重なりで一致するが、両方の制限になる U 上の定数関数はない。有界であることと定数であることは開集合全体にかかる条件で、連続であることは各点の近くの条件である。各点の近くの条件で定まる関数は、いつも層をなす。
x を X の点とする。x を含む開集合の上の切断 s \in \mathcal{F}(U) と t \in \mathcal{F}(V) は、x を含むある開集合 W \subset U \cap V の上で一致するとき、x で同じ芽を持つという。x での芽の全体が茎 \mathcal{F}_x で、s の芽を s_x と書く [2]。連続関数では、x での芽から x のどんなに小さい近傍の上の関数も決まり、それより外の値は芽にかかわらない。
芽は値より多くのことを記録する。x > 0 で \varphi(x) = e^{-1/x}、x \leq 0 で \varphi(x) = 0 とする関数 \varphi は滑らかで、0 ではどの階数の微分も消えるので、0 での値もテイラー級数も 0 関数と同じである [3]。それでも、0 での 2 つの芽は違う。0 のどの近傍にも x > 0 の点があり、そこで \varphi(x) > 0 だからである。p < 0 の点では、2 つの芽は一致する。
図では、p < 0 のまわりの区間を |p| に合わせて縮めると、区間の中で \varphi のグラフは軸の上にある。p = 0 のまわりでは、区間を縮めながら縦の目盛を大きくしていく。\varphi(r) は 10^{-3} より小さくなるが、x > 0 の側でグラフが軸に乗ることはない。
層では、切断は芽で決まる。s, t \in \mathcal{F}(U) がすべての x \in U で s_x = t_x をみたすなら、各点に s と t が一致する近傍があり、局所性から s = t となる。正則関数ならずっと少なくて済み、連結な開集合の上では、1 点での芽が一致の定理によって関数全体を決める。滑らかな関数ではこれが成り立たないことを、\varphi が示している。