ニュートンが考えた図があります。高い山の上に大砲を据えて、横へ撃つ。弱ければ手前に落ち、強くするほど遠くへ落ちます。
さらに強くすると、落ちる先が地平線の向こうへ回りこみます。ある速さを超えると、地面に届かなくなります。落ちつづけているのに、地面が同じだけ逃げていくからです。これが円軌道です。
もっと強くすると、楕円になって遠くまで行き、それでも戻ってきます。そして、ある速さを超えると二度と戻りません。
落ちることと回ることのあいだに、切れ目はありません。速さを上げていくだけで、片方からもう片方へ連続して移ります。
二度と戻らない、という条件を式にします。無限に遠いところへ、速さ でぎりぎり着く。それが分かれ目です。
そこでのエネルギーは、運動のぶんも位置のぶんも です。エネルギーは変わらないので、出発のときも和が でなければなりません。 です。
解くと 。これを脱出速度といいます。
前の記事のヴィス・ヴィヴァの式で、半長軸を無限に飛ばしても同じ答えが出ます。円を保つ速さと比べると、ちょうど 倍です。
式に入っているのは距離だけです。どちらへ投げたかは入っていません。
真上へ投げても、横へ投げても、斜めでも、要る速さは同じです。エネルギーは速さの 乗で決まり、向きを持たないからです。
進む道はまるで違います。真上なら一直線、横なら大きく曲がった双曲線です。それでも、戻ってこないかどうかの分かれ目は同じ値になります。
ただし、これは 1 度だけ加速して、あとは何もしない場合の話です。ずっと押しつづけられるなら、どれだけ遅くても離れていけます。エレベーターで宇宙へ上がるのに、秒速 km は要りません。
地球の表面で秒速 km。月では km。重力が 分の で半径も小さいので、地球よりずっと小さくなります。
太陽の表面では km。白色矮星まで詰めると km、中性子星なら 万 km で、光の速さの半分にせまります。
さらに詰めて、脱出速度が光の速さに届いたところが事象の地平面です。光でも出られなくなり、そこから先は外へ出る道がありません。ブラックホールという言葉は、この 1 行から出てきます。
この見積もりは 年、ミッチェルが逆二乗の力から素朴に計算しています。一般相対性理論が同じ半径を返すのは、 年あとのことです。
脱出速度は、天体が空気をつなぎとめられるかどうかも決めます。
気体の分子は、みな同じ速さで飛んでいるわけではありません。速いものも遅いものもいて、ばらけています。そのばらつきの裾が脱出速度を超えていると、超えた分子から順に出ていきます。
地球では裾が届きません。だから空気が残っています。月では届いてしまいます。だから空気がありません。
水素とヘリウムは軽いので、同じ温度でも速く飛びます。地球はこの つを引きとめられず、宇宙で最も多い元素であるはずのものが、地球の大気にはほとんど残っていません。