X 線を物質に当てると、まっすぐ抜けるものに混じって、向きを変えて出てくるものがあります。これを散乱といいます。コンプトンは散乱された X 線の波長を測り、入射したものより長くなっていることを見つけました。
伸びる量は散乱の角度だけで決まります。角度 が大きいほど大きく伸び、真後ろへ返るときがいちばん大きくなります。当てる物質を変えても、入射の波長を変えても、同じ角度なら伸びる量は同じです。
散乱と同時に、電子が 1 個はじき出されます。X 線が失ったぶんのエネルギーを、その電子が持っていきます。
光を波と考えると、X 線の電場が電子を揺さぶり、揺さぶられた電子が同じ振動数で電磁波を出す、という筋になります。揺れの速さは入射した波が決めるので、出てくる波の振動数は入射と同じはずです。
振動数が同じなら波長も同じです。波として見るかぎり、波長が伸びる理由がありません。角度によって伸び方が変わることは、なおさら説明できません。
光電効果と同じ形の行き詰まりです。あちらでは強さと振動数が噛み合わず、ここでは角度と波長が噛み合いません。
光子 1 個のエネルギーは でした。ここへ、粒なら当然持っているはずのもう 1 つの量、運動量を与えます。
光の速さで走るもののエネルギーと運動量には の関係があります。 と を入れると、光子 1 個の運動量は になります。波長が短いほど運動量が大きい、ということです。
こうすると散乱は、光子 1 個と電子 1 個の衝突になります。玉突きと同じで、運動量とエネルギーの両方が保存します。
入射した光子の運動量を 、散乱された光子の運動量を 、はじかれた電子の運動量を とします。運動量はベクトルなので、3 本が 1 つの三角形に閉じます。
その三角形へ余弦定理を当てると です。
エネルギーの保存は です。光子が失ったぶんが、そのまま電子の運動エネルギーになります。
この 2 つから を消します。残るのは光子の波長だけの式で、電子がどこへ飛んだかは消えてしまいます。
出てくるのは です。右辺に入射の波長が入っていません。伸びる量が角度だけで決まるという測定の結果が、そのまま式に出ています。
はコンプトン波長と呼ばれる長さで、電子では m です。 では伸びが 、真後ろの で と、いちばん大きくなります。
可視光でこれが見えないのは、波長が m ほどあって、伸びが 5 桁も小さいからです。X 線の波長は m ほどなので、同じ伸びが目に見える割合になります。