1887 年、ヘルツは電磁波を確かめる実験の途中で、火花の出る隙間に紫外線が当たると、火花が飛びやすくなることに気づきました。翌年、ハルヴァックスは、負の電気を帯びた亜鉛の板に紫外線を当てると板の電気が減っていき、正の電気を帯びた板では変わらないことを確かめました。板と光源のあいだにガラスを置くと、電気は減らなくなります。ガラスは紫外線を通さないからです。
1899 年から 1900 年にかけて、トムソンとレーナルトは、光の当たった金属から出てくるものの電荷と質量の比を測り、1897 年に見つかった電子と同じであることを示しました。光を当てた金属の表面から電子が飛び出す現象を光電効果といい、飛び出した電子を光電子といいます。負の板の電気が減ったのは、電子が出ていったからです。
金属の中の電子は、金属の中では自由に動けますが、表面から外へは出られません。外へ出すには、ある大きさ以上のエネルギーを与える必要があり、その最小値を仕事関数といって W と書きます。仕事関数は金属の種類で決まり、ナトリウムで約 2.3 eV、亜鉛で約 4.3 eV、白金で約 5.6 eV です。1 eV は、電子 1 個を 1 V の電圧で加速したときに得るエネルギーで、1.6 \times 10^{-19} J です。
実験には光電管を使います。真空にしたガラス管の中に、光を当てる金属の板(陰極)と、出てきた電子を集める電極(陽極)を向かい合わせて置き、2 つのあいだに電圧をかけて、流れる電流を測ります。陽極を陰極より高い電位にすれば、出てきた電子はほとんど陽極に集まります。
陽極を陰極より低い電位にすると、電子は押し返されます。陽極に届くには、電子は押し返す電圧 V に逆らうだけの運動エネルギー eV 以上を持っていなければなりません。電圧を大きくしていくと、ある値でいちばん速い電子も届かなくなり、電流は 0 になります。この電圧を阻止電圧といって V_0 と書き、光電子の運動エネルギーの最大値は K_{\mathrm{max}} = eV_0 です。
1902 年、レーナルトは光の強さを変えて光電子を調べました。光を強くすると、電流は光の強さに比例して増えました。ところが阻止電圧は変わりませんでした。飛び出す電子の数は増えても、いちばん速い電子の運動エネルギーは同じだということです。図の左右で、いちばん速い電子の矢印の長さが同じなのはこのためです。
光を波と考えると、これは合いません。波の運ぶエネルギーは振幅の 2 乗に比例し、強い光ほど電場が大きくなります。電場が電子を揺さぶる力も大きくなるので、強い光ほど電子は大きなエネルギーを得て、速く飛び出すはずです。
弱い光でもすぐに電子が出てくることも、波では合いません。1 W/m² の光がナトリウムに当たるとして、電子 1 個が受け取れるのは原子 1 個の断面(半径 0.1 nm として約 3 \times 10^{-20} m²)に当たるエネルギーだとすると、1 秒あたり 3 \times 10^{-20} J です。仕事関数の 2.3 eV(3.7 \times 10^{-19} J)がたまるまでには、約 12 秒かかる計算になります。
実際には、光を当てるとすぐに電子が出てきます。1928 年にローレンスとビームズが測ったところ、遅れは 3 \times 10^{-9} 秒より短く、測れる限界より下でした。光を弱くしても減るのは出てくる電子の数だけで、出はじめるまでの時間は変わりません。
光の振動数を下げていくと、ある値より下では、どれだけ強くしても電子は 1 個も出てきません。この境目の振動数を限界振動数といい、\nu_0 と書きます。波長でいえば、\lambda_0 = \dfrac{c}{\nu_0} より長い光では電子が出ないということで、\lambda_0 を限界波長といいます。
限界振動数より上なら、どれだけ弱い光でも電子は出てきます。電子が出るかどうかを決めているのは、光の強さではなく振動数です。可視光では振動数の違いは色の違いなので、赤い光をいくら強くしても、ナトリウムから電子は出ません。
限界振動数は金属によって違い、仕事関数の大きい金属ほど高くなります。ナトリウムの限界波長は約 540 nm で、緑より波長の短い光なら電子が出ます。亜鉛は約 290 nm で、紫外線でなければ電子は出ません。ハルヴァックスの実験で、ガラスを置くと亜鉛の板の電気が減らなくなったのはこのためです。
1905 年、アインシュタインは、振動数 \nu の光は E = h\nu のエネルギーを持つ粒の集まりで、光の吸収はこの粒 1 個ずつ起こると考えました。h は、黒体放射でプランクが持ちこんだ定数です。アインシュタインはこの粒を光量子と呼び、いまは光子といいます。
波長 \lambda の光子のエネルギーは E = \dfrac{hc}{\lambda} で、hc = 1240 eV·nm を使うと計算が簡単です。波長 700 nm の赤い光の光子は 1.8 eV、550 nm の緑は 2.3 eV、400 nm の紫は 3.1 eV、250 nm の紫外線は 5.0 eV です。
光の強さは、1 秒間に当たる光子の数で決まります。たとえば出力 1 mW の緑の光は、1 秒間に約 3 \times 10^{15} 個の光子を運んでいます。数がこれだけ多いので、ふつうの明るさの光では、光が 1 個ずつの粒であることは目立ちません。
金属の中の電子は、光子 1 個をまるごと吸収します。受け取った h\nu のうち、少なくとも W は表面から出るのに使われ、残りが運動エネルギーになります。表面のすぐ近くにいた電子がいちばん多くのエネルギーを持って出てきて、その値が K_{\mathrm{max}} = h\nu - W です。奥にいた電子は、出てくるまでにエネルギーの一部を失うので、これより遅くなります。
これで、光の強さについての 2 つの測定が説明できます。光を強くすると光子の数が増えるので電流は増えますが、光子 1 個のエネルギーは変わらないので K_{\mathrm{max}} は変わりません。光子 1 個がエネルギーを電子 1 個に一度に渡すので、エネルギーがたまるのを待つ時間もありません。
h\nu < W なら、光子 1 個を吸収しても電子は外へ出られません。1 個の電子が 2 個の光子をまとめて吸収することはほとんど起こらないので、光をいくら強くしても電子は出ないままです。限界振動数は h\nu_0 = W で決まり、ナトリウムの W = 2.3 eV からは、限界波長 \dfrac{1240}{2.3} nm、約 540 nm が求まります。
K_{\mathrm{max}} = eV_0 と K_{\mathrm{max}} = h\nu - W を合わせると、eV_0 = h\nu - W です。振動数を横軸、eV_0 を縦軸に取ると直線になり、傾きは h、横軸との交点は限界振動数 \nu_0、縦軸との交点は -W です。V_0 を縦軸に取るなら、傾きは \dfrac{h}{e} になります。
アインシュタインの式は、この直線の傾きが金属によらず同じ h になると予言していました。しかし 1905 年の時点では、これを確かめられるほど正確な測定はありませんでした。金属の表面は空気に触れるとすぐに酸化して、仕事関数が変わってしまうからです。
ミリカンは、ナトリウム、カリウム、リチウムの表面を真空の中で刃物で削って新しくしながら、いくつもの振動数の光で阻止電圧を測りました。1916 年に発表した結果では、測った点は直線の上に並び、傾きから求めた h は 6.57 \times 10^{-34} J s でした。プランクが黒体放射から求めた 6.55 \times 10^{-34} J s との差は 0.3% です。
金属を変えると仕事関数が変わるので、直線は上下に平行に動き、傾きは変わりません。図で、もう 1 つの金属の直線が傾きを保ったまま動いているのは、このことを表しています。
ミリカンは、光が粒であるという考えを疑っていて、測定で否定できると考えていたと、のちに書いています。結果はアインシュタインの式を確かめるものでした。アインシュタインは光電効果の法則の発見で 1921 年のノーベル物理学賞を受け、ミリカンも電気素量と光電効果の測定で 1923 年に同じ賞を受けています。