トンネル効果 — 越えられないはずの障壁を波が抜ける

古典では絶対に越えられない

高さのある坂を、それより低いエネルギーで転がってくるボールは、途中で止まって戻ってきます。持っているエネルギーより高いところへは行けないからです。

電子でも同じ形の状況があります。ある区間だけ位置のエネルギーが高くなっているところを障壁といい、その高さを 、電子のエネルギーを とします。 なら、古典の力学では向こう側へ行けません。

向こうへ行くには、障壁の中で運動エネルギーが負になる必要があります。運動エネルギーは なので負にはなりません。だから「絶対に」なのです。

波は障壁の中へ染み出す

電子は波です。波動関数は障壁の手前で になるのではなく、中へ入りこみます。

ただし、中では振動しません。 のところでは、波動関数は振動する形ではなく、入るほど小さくなる形になります。 の形で減っていきます。

減り方の速さは です。障壁が高いほど、そして粒が重いほど、速く減ります。

薄ければ向こうへ出てくる

障壁の厚さが有限なら、減りきる前に向こう端へ届きます。届いたところで でなければ、その先には再び振動する波が続きます。

向こう側に波があるということは、そこで電子が見つかることがある、ということです。越えられないはずの障壁を通り抜けたことになります。これをトンネル効果といいます。

エネルギーは変わっていません。障壁の中で足りないぶんを借りたわけでもありません。ただ、波が向こうまで届いていた、というだけです。

厚さが指数で効く

向こうへ出る割合を透過率といいます。 で減り、確率はその 2 乗なので、透過率 ほどになります。 は障壁の厚さです。

指数なので、厚さが少し増えただけで急に小さくなります。厚さが 2 倍になると、透過率は半分ではなく、2 乗ぶん小さくなります。

日常の大きさで起きないのは、このためです。壁を通り抜けないのは禁じられているからではなく、 が桁違いに大きいからです。

どこで効いているか

崩壊がこれです。原子核の中の 粒子は、核力の障壁に閉じこめられています。古典では出られませんが、トンネル効果で少しずつ抜け出します。半減期が核ごとに桁で違うのは、透過率が指数で効くからです。

走査型トンネル顕微鏡もこれです。探針と試料のあいだの隙間が障壁で、そこを抜ける電流を測ります。隙間が nm 変わるだけで電流が桁で変わるので、原子 1 個の凹凸が見えます。

どちらも、透過率が厚さに指数で効くという性質そのものを使っています。急に効かなくなることが、そのまま道具の細かさになっています。