高さのある坂を、それより低いエネルギーで転がってくるボールは、途中で止まって戻ってきます。持っているエネルギーより高いところへは行けないからです。
電子でも同じ形の状況があります。ある区間だけ位置のエネルギーが高くなっているところを障壁といい、その高さを U、電子のエネルギーを E とします。E < U なら、古典の力学では向こう側へ行けません。
向こうへ行くには、障壁の中で運動エネルギーが負になる必要があります。運動エネルギーは \dfrac{p^2}{2m} なので負にはなりません。だから「絶対に」なのです。
電子は波です。波動関数は障壁の手前で 0 になるのではなく、中へ入りこみます。
ただし、中では振動しません。E < U のところでは、波動関数は振動する形ではなく、入るほど小さくなる形になります。\psi は e^{-\kappa x} の形で減っていきます。
減り方の速さは \kappa = \dfrac{2\pi\sqrt{2m(U-E)}}{h} です。障壁が高いほど、そして粒が重いほど、速く減ります。
障壁の厚さが有限なら、減りきる前に向こう端へ届きます。届いたところで \psi が 0 でなければ、その先には再び振動する波が続きます。
向こう側に波があるということは、そこで電子が見つかることがある、ということです。越えられないはずの障壁を通り抜けたことになります。これをトンネル効果といいます。
エネルギーは変わっていません。障壁の中で足りないエネルギーを借りたわけでもありません。ただ、波が向こうまで届いていた、というだけです。
向こうへ出る割合を透過率といいます。\psi が e^{-\kappa x} で減り、確率はその 2 乗なので、透過率 T は e^{-2\kappa d} ほどになります。d は障壁の厚さです。
指数なので、厚さが少し増えただけで急に小さくなります。厚さが 2 倍になると、透過率は半分ではなく、もとの値の 2 乗になります。
日常の大きさで起きないのは、このためです。壁を通り抜けないのは禁じられているからではなく、\kappa d が桁違いに大きいからです。
\alpha 崩壊がこれです。原子核の中の \alpha 粒子は、核力の障壁に閉じこめられています。古典では出られませんが、トンネル効果で少しずつ抜け出します。半減期が核ごとに桁で違うのは、透過率が指数で効くからです。
走査型トンネル顕微鏡もこれです。探針と試料のあいだの隙間が障壁で、そこを抜ける電流を測ります。隙間が 0.1 nm 変わるだけで電流が桁で変わるので、原子 1 個の凹凸が見えます。
どちらも、透過率が厚さに指数で効くという性質そのものを使っています。厚さが増えると透過率が急に小さくなるので、顕微鏡では細かい凹凸を測れます。