外国為替市場の仕組み:為替レートはどう決まるのか|高校経済

海外旅行の前に円をドルに両替したり、ニュースで「1 ドル=150 円」という数字を目にしたりする場面は日常的にあります。この通貨の交換比率、つまり為替レートは、外国為替市場と呼ばれる場で日々変動しています。では、この市場はどのように成り立ち、為替レートはどんな要因で動くのでしょうか。

外国為替市場とは

外国為替市場(Foreign Exchange Market、略して Forex や FX)は、異なる通貨を交換するための市場です。ただし、東京証券取引所のように特定の建物があるわけではありません。世界中の銀行、証券会社、中央銀行、機関投資家、企業などが電話やコンピューターネットワークを通じて 24 時間取引を行う、いわば「見えない市場」です。

地球上のどこかで常に取引が行われているため、外国為替市場は「眠らない市場」とも呼ばれます。取引はウェリントン(ニュージーランド)に始まり、東京、シンガポール、ロンドン、ニューヨークへとリレーのように主要市場が引き継いでいきます。

各都市の金融機関が営業時間中に参加し、時差によって取引が途切れることなく続く仕組み。

外国為替市場は、取引の性質によって 2 つの層に分かれています。

インターバンク市場(銀行間市場)

銀行同士が大口の通貨を売買する市場。1 件あたり数百万ドル単位の取引が行われ、為替レートの実質的な形成はここで行われる。

対顧客市場

銀行と企業・個人との間で行われる取引。海外送金や外貨両替などがこれにあたり、インターバンク市場のレートに手数料を上乗せした価格が適用される。

私たちが空港の両替所で目にするレートは、対顧客市場のレートです。インターバンク市場のレートに比べてやや不利な条件になっているのは、銀行が為替リスクや事務コストを上乗せしているためです。

為替レートを動かす要因

為替レートは通貨の需要と供給によって決まります。ドルを買いたい人が増えればドル高に、ドルを売りたい人が増えればドル安になるという、基本的には他の財と同じ価格メカニズムが働いています。では、通貨の需給を動かす要因にはどのようなものがあるのでしょうか。

金利差

2 国間の金利に差があると、より高い金利の通貨に資金が集まりやすくなります。たとえばアメリカの金利が日本より高ければ、ドル建て資産の利回りが魅力的になり、円を売ってドルを買う動きが生じます。近年の円安の主要因のひとつがこの日米金利差です。

物価水準(インフレ率)

物価が上昇している国の通貨は、購買力が低下するため長期的に下落する傾向があります。これを「購買力平価説」と呼び、同じ商品がどの国でも同じ価格になるように為替レートが調整されるという考え方に基づいています。

経常収支

輸出が多い国は外国から代金を受け取るため、自国通貨への需要が高まります。日本の経常収支が黒字であれば、外貨を円に換える需要が生まれ、円高の圧力がかかります。

政治・経済の安定性

政情不安や経済危機が起きると、その国の通貨は売られやすくなります。逆に経済が安定している国の通貨は「安全資産」として買われることがあり、日本円やスイスフランがその代表例です。

購買力平価説と金利平価説

為替レートがどの水準に落ち着くかを説明する理論として、代表的なものが 2 つあります。

購買力平価説は、スウェーデンの経済学者グスタフ・カッセルが 1920 年代に提唱した理論です。同じ商品は世界中で同じ価格になるはずだという「一物一価の法則」を通貨に適用したもので、長期的な為替レートの趨勢を説明するのに使われます。たとえば日本で 500 円のハンバーガーがアメリカで 5 ドルなら、購買力平価は 1 ドル=100 円ということになります。

この考え方をユニークに応用したのが、イギリスの経済誌エコノミストが 1986 年から発表しているビッグマック指数です。

世界各国のマクドナルドのビッグマック価格を比較し、為替レートの割高・割安を簡易的に判定する指標。

一方、金利平価説は短期的な為替レートの動きを説明する理論です。2 国間の金利差は、将来の為替レートの変動によって相殺されるという考え方で、高金利通貨は将来的に減価し、低金利通貨は増価するとされます。高い金利で得した分は、為替レートの変動で帳消しになるという論理です。

購買力平価説

物価水準に基づく長期的な均衡レートの理論。実際のレートは短期的に大きく乖離するが、長期では収束する傾向がある。

金利平価説

金利差に基づく短期的なレート決定の理論。国際的な資金移動が活発な現代では、短期の為替変動をよく説明する。

現実の為替レートは、これら複数の要因が絡み合って形成されます。短期的には金利差や投機的な資金の動きが大きな影響力を持ち、長期的には物価水準や経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)が為替レートの方向性を決める傾向があります。

為替市場の参加者

外国為替市場では、さまざまな目的を持った参加者が取引を行っています。

商業銀行

外国為替市場の中核的な参加者です。顧客からの両替や送金の注文を処理するとともに、自己勘定でも取引を行います。大手銀行がインターバンク市場でレートを提示し、他の銀行と売買することで為替レートが形成されていきます。

中央銀行

為替レートの急激な変動を抑えるために「為替介入」を行うことがあります。日本では日本銀行が財務省の指示のもとで介入を実施します。2022 年には約 24 年ぶりとなる大規模な円買い・ドル売り介入が行われ、大きな注目を集めました。

企業(実需筋)

輸出企業は受け取った外貨を円に換える必要があり、輸入企業は代金を支払うために外貨を購入します。こうした実際の取引に基づく売買を「実需取引」と呼び、為替市場の根底にある需給を形成します。

機関投資家・ヘッジファンド

年金基金や保険会社は海外資産に投資する際に外貨を購入し、ヘッジファンドは為替レートの変動から利益を得ることを目的に大規模な投機的取引を行います。短期的な為替変動に大きな影響を与えることがあります。

為替介入の仕組み

中央銀行による為替介入は、為替市場の安定を目的とした政策手段です。自国通貨が急激に下落している場合は外貨準備を使って自国通貨を買い支え、逆に自国通貨が急騰している場合は自国通貨を売って外貨を買います。

急激な円安が進行

財務省が円買い・ドル売り介入を決定

日本銀行が保有するドル(外貨準備)を売って円を購入

市場で円の需要が増加し、円安に歯止めがかかる

ただし、為替介入には限界もあります。外国為替市場の 1 日の取引高は約 7.5 兆ドル(国際決済銀行の 2022 年調査)にのぼり、一国の中央銀行が持つ外貨準備だけで市場の大きな流れを変えることは容易ではありません。介入はあくまで急激な変動を緩和する「時間稼ぎ」であり、為替レートの長期的な方向性を変えるには金融政策や経済構造の変化が必要です。

また、主要国の間では、為替介入は「過度な変動」を抑制する場合にのみ正当化されるという暗黙の了解があります。自国通貨を意図的に安く誘導して輸出を有利にしようとする介入は「通貨操作」として国際的に批判の対象となりえます。為替市場への介入は、経済政策としてだけでなく、国際関係の観点からも慎重な判断が求められるのです。