「国は契約の上にある」とする考えを社会契約説という。
社会契約説では、国ができる前の状態を自然状態といい、自然状態で人が最初から持っている権利を自然権という。
センター試験ではホッブズ、ロック、ルソーが出題される。三人が前提とした自然状態と自然権が重要になる。
ホッブズ

リヴァイアサン
自然状態 | 万人の万人に対する闘争 |
自然権 | 生存権(自己保存のための権利) |
契約 | 自然権の放棄 |
理想国家 | 絶対王政 |
抵抗権 | 認められない |
ホッブズにとって自然状態は戦争状態であり、これは「万人の万人に対する闘争」と表現される。
人は自己保存という強い欲求を持ち、自然権を生存権とする。国のない自然状態では、人は生存権という自然権を持っているために、生きるためならなにをやっても許されると考える。そして戦争が起きる。
戦争を避けるには、人は自然権を放棄し、絶対王政の国に服従する必要がある。
ロック
自然状態 | 基本的に平和 |
自然権 | 所有権 |
契約 | 自然権の信託 |
理想国家 | 議会中心 |
抵抗権 | 認められる |
ロックにとって自然状態は基本的に平和である。生命、自由、財産などを所有する広い意味での所有権を自然権とした。
国のない社会では、財産を勝手に奪われる。すなわち自然権が侵害される。そのため人は契約によって国を作り、自然権を国に「信託」する。

「信託」という言葉はとても難しい言葉ですが、まずは「託する」とざっくり考えよう。
国が「信託」に反して人の自然権を侵害した場合、人は国に抵抗できるとした(抵抗権)。
信託と抵抗権という概念から、国には立法権を有する議会が必要である。そこでロックは国家権力の分立を主張した。これがモンテスキューの三権分立論につながる。
ロック(立法権、行政権)
モンテスキュー(立法権、行政権、司法権)
モンテスキューと違い、ロックは司法権を扱わず、立法権を行政権の上に置いた。この思想を統治二論という。
ロックがホッブズとルソーと決定的に異なる点は抵抗権にある。ホッブズとルソーが抵抗権を原則認めないのに対し、ロックは抵抗権を当然の権利とする。
自然権が歴史上初めて明文化された文書は 1776 年に制定されたバージニア権利章典である。これはアメリカ独立革命で生まれ、同年のアメリカ独立宣言に影響を与えた。アメリカ独立宣言はロックの思想の流れをくみ、抵抗権を認めている。
ルソー
自然状態 | 自由で平等な社会だったが文明化によって今は不平等な社会 |
自然権 | 自由と平等 |
契約 | 一般意志への服従 |
理想国家 | 直接民主制 |
抵抗権 | 認められない |
ルソーにとって自然状態は自由で平等な社会だった。しかし社会の文明が発展し、私有財産制が導入されると、社会は不平等になった。
人は自由と平等を再び手に入れるため、人は自然権を放棄し、公共の利益を求める一般意志に服従する。
ルソーは議会を認めず、直接民主制を説いた。
センター試験の問題(2018 年・第 4 問・問 2)
下線部bに関して、ロックの社会思想の説明として最も適当なものを、次の 1~4 のうちから一つ選べ。
- 各人は、公共の利益を目指す一般意志に服従して、すべての権利を国家に譲渡するが、国家がこの一般意志を実現することで、各人の権利は保障されることになる。
- 知識や理論は、人間が環境によりよく適応していくための道具であり、我々は、創造的知性を用いることによって社会を改善し、理想的な民主社会を実現することができる。
- 各人が利己心に従って自分の利益を自由に追求すれば、おのずから社会全体の利益は増大するが、これは、「(神の)見えざる手」の導きによるものであると考えられる。
- 国家による権力の濫用を防ぎ、権力がその役割を公正に果たすためには、立法権や行政権(執行権)などが一定の独立性をもって互いを制約する、権力の分立が必要である。
解答
正解は 4。
1 は誤り。一般意志はロックでなくルソー。
2 も誤り。ロックは「創造的知性」という概念から社会契約を唱えたといえない。創造的知性はアメリカのプラグマティズムに共通するポイント。「道具」という言葉から出てくる思想家は道具主義のデューイ。道具主義にとって知性は経済や社会を発展させる道具である。
3 も誤り。「神の見えざる手」はアダム・スミスの思想。
消去法でも 4 しか残らない。権力分立はロックの代表的な思想。