熱力学第二法則とエントロピー

熱力学第一法則はエネルギーの保存を述べるが、それだけでは自然現象の「方向性」を説明できない。熱いコーヒーは冷め、氷は溶ける。逆の過程がエネルギー的に禁止されているわけではないのに、なぜ起こらないのか。この問いに答えるのが熱力学第二法則である。

熱力学第二法則の表現

第二法則にはいくつかの等価な表現がある。

クラウジウスの表現

熱は低温物体から高温物体へ自発的に移動することはない

ケルビンの表現

単一の熱源から熱を受け取り、それをすべて仕事に変換する熱機関は存在しない

どちらの表現も、自然界には「許されない過程」があることを主張している。エネルギー保存則だけでは禁止されない過程が、第二法則によって排除されるのだ。

エントロピーの導入

エントロピー は、系の「乱雑さ」や「無秩序の度合い」を定量化する状態量である。可逆過程において、系が温度 で微小な熱量 を受け取るとき、エントロピー変化は次のように定義される。

この定義から、エントロピーは熱の出入りと温度に依存する量であることがわかる。高温での熱移動より低温での熱移動のほうが、同じ熱量でもエントロピー変化が大きくなる。

エントロピー増大の法則

孤立系において、自発的な変化は常にエントロピーが増大する方向に進む。これがエントロピー増大則であり、第二法則の数学的表現といえる。

等号は可逆過程の場合にのみ成立し、現実の過程はすべて不可逆であるため、宇宙全体のエントロピーは常に増加し続ける。

可逆過程

無限にゆっくり進行し、途中のどの段階でも平衡状態にある理想的な過程。エントロピー生成はゼロ。

不可逆過程

有限の速度で進行する現実の過程。摩擦、熱伝導、拡散などを伴い、必ずエントロピーが生成される。

統計力学的解釈

ボルツマンはエントロピーを微視的な観点から再解釈した。系がとりうる微視的状態の数を とすると、エントロピーは次の式で表される。

ここで はボルツマン定数である。この式は、エントロピーが「場合の数」の対数に比例することを示している。気体が容器全体に広がるのは、分子が一箇所に集まった状態より、全体に散らばった状態のほうが圧倒的に多くの微視的状態に対応するからだ。

微視的状態の数 が多い

エントロピー が大きい

その状態が実現しやすい

第二法則は確率論的な法則であり、「起こりにくいことは起こらない」という素朴な原理の精密な定式化なのである。