断熱変化とポアソンの関係式〜比熱比が決めるもの
熱の出入りを止めて気体を押し縮めると、体積が減るだけでなく温度も上がります。熱を一切与えていないのに温度が動く。
この変化では圧力、体積、温度の 3 つが決まった形で結ばれる。その形を書いたものがポアソンの関係式です。
以下では 3 つの書き方と使い分けを確かめ、仕事の求め方、成り立つ条件、身のまわりでの現れ方まで進みます。
熱を通さないと自由度が 1 つ減る
ふつうの気体では、状態方程式 が 3 つの量を 1 本で結びます。2 つ決めれば残りが決まる形。
熱の出入りを止めると、もう 1 本の関係が加わります。すると 1 つ決めるだけで残りの 2 つが決まる。
気体が膨張して仕事をすれば内部エネルギーが減り、温度が下がります。押し縮められれば逆で、温度が上がる。この結びつきが式の形に出てきます。
ポアソンの関係式
断熱変化では次の 3 つが成り立つ。どれも同じ内容を別の変数の組で書いたものです。
は比熱比で、定圧モル比熱と定積モル比熱の比になる。
2 つの状態を比べる形にすると、そのまま計算に使える。
3 つは同じ変化を別の面から見たもの
3 本の式は独立ではありません。どれか 1 つと状態方程式があれば、残りの 2 つは出てくる。

左は と 、中央は と 、右は と の面です。同じ 1 本の変化が、見る面によって違う形に映る。
膨張すると圧力も温度も下がるので、左と中央では右下がりになります。右の面では圧力が下がれば温度も下がるので、右上がり。
比熱比の値
は分子の自由度で決まります。自由度を とすると になる。
| 気体の種類 | 自由度 | 比熱比 |
|---|---|---|
| 単原子分子 | 3 | 5/3 ≈ 1.67 |
| 二原子分子 | 5 | 7/5 = 1.4 |
| 多原子分子 | 6 | 4/3 ≈ 1.33 |
空気は窒素と酸素が大部分で、どちらも二原子分子です。だから として計算する。
自由度が増えるほど は に近づきます。ただし を下回ることはない。定圧のほうが必ず多くの熱を要するからです。
例:断熱圧縮で圧力を求める
の空気を、体積が半分になるまで断熱圧縮します。 とする。
等温なら で済むところです。断熱では温度も上がるぶん、圧力が余計に上がる。
例:断熱圧縮で温度を求める
同じ圧縮で、はじめの温度が だったとします。今度は と の式を使う。
ほど上がりました。状態方程式で確かめると で、たしかに合っている。
どの式を使うか
3 つの式は、与えられた量で選び分けます。 が分かれば の入った式、 しか分からなければ と の式。
上の 3 行は動き続けますが、いちばん下の だけが のまま止まっている。これが「一定」の意味です。
と が同時に動いても、 のほうを 乗してから掛ければ帳尻が合う。指数の がその釣り合いを決めています。
が大きいほど急に落ちる
同じ点から膨張させても、 の値で曲線の落ち方が変わる。

いちばん上の青が の場合で、等温変化にあたります。断熱の 3 本はどれもその下を通る。
単原子分子がいちばん急に落ちる。自由度が少ないぶん、膨張で失ったエネルギーが温度に直接効くからです。
導出の筋道
断熱では なので、第一法則は 2 項だけになる。
ここに状態方程式を入れ、マイヤーの関係 を使って整理すると、指数に が現れる。
整理の途中で の形の和をとる操作が要るので、きちんとした導出には微積分が必要です。高校では結果の式を使う。
が出てくる筋道だけ押さえておけば足りる。 を で割った が顔を出す、という流れです。
断熱変化で気体がする仕事
なので、仕事は内部エネルギーの減りぶんそのものになる。
温度が下がれば が負になり、 は正です。膨張して外へ仕事をしたことになる。
状態方程式を使えば、両端の と で書き直せる。
どちらの形でも同じ値になる。温度が分かっていれば上、圧力と体積が分かっていれば下を使います。
例:断熱膨張の仕事
単原子分子の理想気体 が断熱膨張し、温度が から へ下がりました。
の仕事を外へしています。そのぶんだけ内部エネルギーが減り、温度が 下がった。
ゆっくり進むときだけ成り立つ
ポアソンの関係式には条件があります。熱を通さないだけでは足りず、変化がゆっくり進んで、途中のどの瞬間もつり合いが保たれている必要がある。
条件を外れる例が、真空へ向かう膨張です。仕切りで区切った容器の片側に気体を入れ、もう片側を真空にして、仕切りを一気に開ける。
分子の色も速さも変わりません。押し返してくるふたがないので、分子は運動エネルギーを手放さずに広がる。
例:真空へ広がっても温度は変わらない
熱を通さない容器で、気体が真空へ広がったとします。 で、押す相手がないので 。
内部エネルギーが変わらないので、理想気体なら温度も変わりません。
ポアソンの式に体積が 2 倍と入れると温度が下がる答えが出ます。実際には下がらない。式のほうが使える場面を外れています。
一気に開けた瞬間、容器のなかは場所ごとに圧力が違う状態になります。「そのときの圧力」が定まらないので、つり合いを前提にした式が成り立たない。
例:ディーゼルエンジンの圧縮
ディーゼルエンジンは空気を 15 分の 1 から 23 分の 1 まで圧縮し、点火プラグを使わずに燃料を着火させます。圧縮だけで温度を上げているからです。
16 分の 1 まで圧縮する場合を計算します。、はじめの温度を とする。
を超え、セルシウス温度なら 台です。軽油が自然に燃え出す温度をはるかに上まわる。
自転車の空気入れが温かくなるのも同じ理屈です。押し縮める速さが熱の逃げる速さより速いので、断熱変化に近くなる。
フェーン現象
山を越えた風が、風上より高温で乾いた風になる現象があります。断熱変化が 2 回はたらいている。
登りでは空気が膨張して冷えます。乾いた空気は 1 km あたり約 、雲ができはじめてからは約 に鈍る。水蒸気が水になるときに熱を出すからです。
下りでは水分を落としたあとなので、最後まで乾いた空気の割合で温まります。登りより下りのほうが 1 km あたりの変化が大きい。
同じ高さに戻ってきたとき、出発点より温度が高くなる。これがフェーン現象です。
例:山を越えた空気の温度
で の空気が、 の山を越えて反対側の へ下ります。 で雲ができはじめるとする。
計算しやすいよう、乾いた割合を 、雲ができてからを に丸めます。
から までは乾いた割合で 下がり、 になる。
から までは雲ができているので 下がり、山頂で 。
下りは ぶんを乾いた割合で温まるので 上がる。
出発点より 高くなりました。上りと下りで割合が違うことが、そのまま差になっている。
フェーン現象で風下の空気が風上より高温になる理由はどれですか。
- 山頂で太陽に近づいて温められるから
- 登りの一部で冷え方が鈍り、下りは最後まで同じ割合で温まるから
- 山を越えるあいだに空気が圧縮され続けるから
- 風下では気圧が高くなるから
音の伝わりも断熱変化
空気を伝わる音は、圧力の高いところと低いところが交互に並んだ波です。圧縮と膨張がくり返されている。
この変化が速すぎて、熱が隣へ逃げる暇がありません。だから等温ではなく断熱として扱う。
音速には が入ります。等温として計算すると実測より 1 割以上小さく出てしまい、断熱として計算すると合う。
は 1 mol あたりの質量です。空気なら 、 で、 のとき約 になる。
高校では実験式を使いますが、 が顔を出す場面として知っておくと見通しがよくなります。
よくある誤り
最後に、間違えやすいところを並べます。












登りでは雲ができてから冷え方が鈍ります。下りは水分を落としたあとなので、乾いた空気の割合のまま温まる。この差が温度差になります。