気体の内部エネルギーと熱力学第一法則(p-V 図の面積とモル比熱)
気体を温めると分子が速く動きます。その速さの合計を表す量が内部エネルギーです。
熱を加えれば内部エネルギーは増え、気体が仕事をすれば減る。二つを同時に受けたときの帳尻を書いたものが熱力学第一法則です。
以下では内部エネルギーの中身を確かめ、仕事を - 図の面積として読み、第一法則で 4 つの場合を仕分けます。符号の約束と、よくあるとり違えにも触れる。
内部エネルギーは分子の運動エネルギーの合計
容器の中の分子は、たがいにぶつかりながら飛びまわっています。1 個 1 個は運動エネルギーを持つ。
その合計が内部エネルギーで、記号は 、単位は です。ある分子が速く、別の分子が遅くても、足した値だけが問題になる。
箱の大きさは変えていないのに、棒は伸び縮みする。温度だけを動かして内部エネルギーが変わる、この対応が次の節の主題です。
理想気体では温度だけで決まる
理想気体の内部エネルギーは温度と分子の数だけで決まり、圧力や体積には依りません。同じ温度なら、容器を広げても は変わらない。
これは強い言明です。体積を 2 倍にして圧力を半分にしても、温度が同じなら内部エネルギーは同じ値。
理由は理想気体の約束にあります。分子どうしが引き合う力を無視するので、距離が変わっても位置のエネルギーが生じない。残るのは運動エネルギーだけで、それが温度に結びついています。
単原子分子の内部エネルギー
気体分子運動論から、分子 1 個の平均の運動エネルギーが温度で書ける。
はボルツマン定数。分子が 個あれば、合計は 倍になる。
を使うと、見慣れた形に直る。
右辺に も もありません。温度だけで決まるという先の話が、式の形に現れている。
二原子分子では自由度が増える
の は、分子が動ける向きの数です。前後、左右、上下の 3 方向。
原子が 2 つつながった分子だと、これに回転が加わる。棒を軸のまわりに回す 2 通りが増え、合計 5 になる。

向き 1 つあたり ずつたくわえるので、自由度 5 なら になります。
常温では棒の伸び縮みは効いてきません。振動が目を覚ますのは高温になってからで、高校では 3 と 5 の 2 つを押さえておけば足りる。
例:内部エネルギーを求める
単原子分子の理想気体 が にあります。
同じ気体を にすれば は 2 倍になる。絶対温度に比例するので、倍率がそのまま出ます。
セルシウス温度で を にしても 2 倍にはなりません。ここでも K に直してから比べる。
気体は外へ仕事をする
ピストンに入れた気体を温めると、ふたが押し上げられます。押しているのは中の気体で、気体はふたに仕事をしている。
断面積 のふたが 動くとします。気体がふたに加える力は なので、仕事は次のようになる。
この形が使えるのは圧力が変わらないあいだだけです。圧力が動くなら、細かく刻んで足し合わせるほかない。
薄い青の帯が広がるほど仕事は大きくなります。ふたが動かなければ帯の幅は 0 で、仕事も 0。
仕事は p-V 図の面積
横軸に体積、縦軸に圧力をとり直すと、仕事は曲線の下の面積として読めます。

左は圧力が変わらない場合で、面積が長方形なので で済みます。右は圧力が下がっていく場合。面積は長方形になりません。
高校の問題では、左のような長方形か、三角形と長方形の組み合わせが出る。図をかいて面積を数えるほうが、式を覚えるより確かです。
体積が減る向きに進めば仕事は負になる。外から押しこまれた、という意味になります。
例:定圧で膨張するときの仕事
のまま、体積が から へ増えました。
体積の増えぶんを に直す。
のまま掛けると となり、1000 倍ずれます。仕事を で出すなら体積は 。
熱力学第一法則
気体に熱 を与え、そのあいだに気体が外へ の仕事をしたとします。内部エネルギーの増えぶんは、残りの分になる。
移項した形もよく使われる。
与えた熱の行き先が 2 つある、と読める形です。
エネルギー保存則を気体について書き下したものが第一法則です。新しい原理ではなく、保存則の言いかえになる。

符号の約束
を「気体が外へする仕事」と決めた場合が です。高校の教科書はこの向きをとる。
を「気体が外からされる仕事」と決める流儀もあり、そのときは符号が反転して になる。
式だけ覚えて の向きを忘れると、答えの符号が逆になります。
迷ったら物理で確かめられる。気体が膨張して外を押したなら、気体はエネルギーを手放しているので、 を減らす側です。
「仕事をした分だけ内部エネルギーが減る」は限られた場合だけ
気体が仕事をすれば内部エネルギーが減る、という言い方をよく見かけます。これは熱の出入りがないときだけ正しい。
を見れば分かります。 が正でも がそれより大きければ、 は正になる。
熱を受けながら膨張する気体は、仕事をしながら温度を上げていく。減るとは限りません。
気体が外へ の仕事をしたとき、内部エネルギーはどうなりますか。
- 必ず 減る
- 同時に受けとった熱の量によって決まる
- 必ず増える
- 変わらない
例:熱を受けながら膨張する
の熱を受け、そのあいだに外へ の仕事をしました。
内部エネルギーは 増えています。仕事をしたのに温度は上がった。
同じ仕事で なら で、温度は変わりません。 なら で、このときだけ「した分だけ減る」が成り立つ。
項が消える 4 つの場合
第一法則の 3 つの量のうち、どれかが 0 になる場合を並べます。問題を解くときは、まずどれが消えるかを探すと早い。
ふたが動かないので 。与えた熱はすべて内部エネルギーになり、 です。
が使えます。 は と に分かれる。
理想気体なら なので 。受けとった熱がそのまま仕事に出ていきます。
なので 。膨張すれば内部エネルギーが減り、温度が下がる。
温度が変わらないのに熱が入り続けるところが、等温変化の見どころです。入った熱はたまらず、そのまま仕事として出ていく。
例:断熱圧縮で温度が上がる
単原子分子の理想気体 を、熱を通さない容器で圧縮します。外から の仕事を加えました。
気体がした仕事は で、 です。
内部エネルギーの式から温度の変化が出る。
熱を一切与えていないのに温度が 上がりました。自転車の空気入れが温かくなるのは、この形の変化です。
太い黒線が熱を通さない壁です。外から熱をもらっていないのに、分子の色が変わっていく。
押しこむふたが分子をはね返すたびに、分子は速くなります。仕事が運動エネルギーに変わる場面が見えている。
モル比熱
の温度を 上げるのに要る熱をモル比熱といいます。体積を止めるか圧力を止めるかで値が違う。
体積を止めた場合は なので、熱がすべて内部エネルギーになる。
圧力を止めると、気体はふたを押して仕事もします。同じ温度上昇に、より多くの熱が要る。
この関係をマイヤーの関係といいます。差がちょうど になるのは、定圧で 上げるときの仕事が だからです。

単原子分子なら 、 になります。二原子分子では と 。
自由度が増えるほど、同じ温度上昇に要る熱も増えます。緑の の幅だけは、どちらの気体でも同じ。
例:定積と定圧で必要な熱量を比べる
単原子分子の理想気体 の温度を 上げます。
体積を止めた場合。
圧力を止めた場合。
差は で、これが気体のした仕事です。内部エネルギーの増えぶんはどちらも で変わりません。
温度が同じだけ上がったのだから も同じ、と読めるところが要点です。 が温度だけで決まる性質がここで働いている。
第一種永久機関はつくれない
何も与えずに仕事を出し続ける装置を第一種永久機関といいます。第一法則がこれを禁じる。
で を正のまま続けると、 が負のまま減り続けます。内部エネルギーには底があるので、いつか止まる。
熱を与えない
内部エネルギーが減り続ける
やがて仕事を出せなくなる
エネルギーをとり出すには、どこかから入れるほかありません。
よくある誤り
最後に、間違えやすいところを並べます。












ΔU=Q−W なので、Q が 300 J より大きければ増えます。300 J 減るのは Q=0 の断熱変化のときだけです。