屈性と傾性(光屈性・重力屈性・接触傾性)|高校生物
植物は動物のように移動できないが、環境の変化に応じて成長の方向や器官の動きを調節している。刺激に対する応答のうち、成長を伴うものを屈性、成長を伴わないものを傾性と呼ぶ。
屈性と傾性の違い
屈性と傾性はどちらも外部刺激に対する反応だが、そのメカニズムは根本的に異なる。
刺激の方向に依存した成長反応。細胞の伸長成長の偏りによって起こり、不可逆的。反応には数時間〜数日かかる。
刺激の方向に依存しない運動。細胞の膨圧変化によって起こり、可逆的。反応は数秒〜数分と速い。
屈性では刺激が来る方向に向かって(正の屈性)または逆方向に(負の屈性)屈曲する。一方、傾性では刺激がどの方向から来ても同じパターンの運動が起こる。
光屈性
光屈性は光刺激に対する屈性で、茎は光に向かって屈曲し(正の光屈性)、根は光から遠ざかる方向に屈曲する(負の光屈性)。
光が片側から当たると、オーキシンは光の当たらない側(陰側)に移動する。陰側ではオーキシン濃度が高くなり、細胞伸長が促進される。
陰側の細胞が陽側より伸びるため、茎全体が光源に向かって屈曲する。これにより葉が光を効率よく受けられる。
根では高濃度のオーキシンが細胞伸長を抑制する。陰側の伸長が抑えられ、光から遠ざかる方向に屈曲する。
光屈性の研究は19世紀のダーウィン父子に始まり、その後ウェントによってオーキシンの存在が証明された。ダーウィンはカラスムギの幼葉鞘(子葉鞘)を用いた実験で、光を感受する部位が先端にあることを示した。
幼葉鞘の先端が光を感受
先端から下部へ「何らかの影響」が伝わる
先端より下の部位で屈曲が起こる
この「何らかの影響」の正体がオーキシンであることは、1926年にウェントが寒天を用いた実験で証明した。
重力屈性
重力屈性(地性)は重力刺激に対する屈性で、根は重力方向に伸び(正の重力屈性)、茎は重力と反対方向に伸びる(負の重力屈性)。
植物が重力を感受する仕組みには、アミロプラスト(デンプンを含む色素体)が関わっている。根の根冠や茎の内皮にある細胞では、アミロプラストが重力に従って沈降し、これが重力方向の情報として認識される。
| 平衡細胞 | アミロプラストを含み重力を感受する細胞 |
| 平衡石 | 重力感受に関わるアミロプラスト |
| 根冠 | 根の先端を覆う組織、重力感受の中心 |
| 内皮 | 茎の重力感受に関わる組織 |
重力を感受すると、光屈性と同様にオーキシンの再分配が起こる。水平に置かれた茎では、オーキシンが下側に移動する。茎の下側では細胞伸長が促進されて上向きに屈曲し、根の下側では細胞伸長が抑制されて下向きに屈曲する。
接触屈性
接触屈性はつる植物の巻きひげなどに見られる屈性で、接触刺激に対して屈曲する。巻きひげが支柱に触れると、触れた側の細胞伸長が抑制され、反対側が伸びることで支柱に巻きつく。
エンドウ、アサガオ、ブドウなどの巻きひげは、接触屈性によって他の植物や構造物に絡みついて体を支えている。
傾性の種類
傾性は刺激の種類によって分類される。いずれも膨圧の変化による可逆的な運動だ。
| 傾性の種類 | 刺激 | 例 |
|---|---|---|
| 光傾性 | 光 | タンポポの花の開閉 |
| 温度傾性 | 温度 | チューリップの花の開閉 |
| 接触傾性 | 接触 | オジギソウの葉の運動 |
傾性運動では、特定の細胞(運動細胞や葉枕細胞)の膨圧が急激に変化する。膨圧の変化は細胞内外へのイオンと水の移動によって起こり、数秒〜数分という短時間で完了する。
オジギソウの接触傾性
オジギソウ(ミモザ)は接触傾性の代表例だ。葉に触れると、小葉が閉じ、葉柄が下垂する。この運動は葉枕(ようちん)という特殊な構造で起こる。
接触刺激は活動電位として葉全体に伝わる。伝達速度は数 cm/s で、神経の興奮伝導に似ている。
葉柄の基部にある膨らんだ組織。上側(向軸側)と下側(背軸側)に運動細胞がある。
刺激を受けると下側の細胞から K⁺ と Cl⁻ が流出し、浸透圧低下に伴い水が出て膨圧が下がる。上側との膨圧差で葉柄が下垂する。
オジギソウの運動は数分で回復する。細胞がイオンを再吸収し、水が戻って膨圧が回復するためだ。この運動の生態学的意義については、草食動物を驚かせる、風で揺れたときに葉の損傷を防ぐなどの仮説があるが、確定していない。
就眠運動
マメ科植物などに見られる就眠運動も傾性の一種だ。昼間は葉を水平に広げ、夜間は葉を閉じたり垂らしたりする。この運動は体内時計(概日リズム)によって制御されており、一定の暗条件下でも約24時間周期で継続する。
就眠運動も葉枕の膨圧変化によって起こる。光や暗黒が直接の引き金となるのではなく、体内時計が葉枕細胞のイオン輸送を周期的に調節している。
屈性と傾性は、動けない植物が環境に適応するための重要な戦略だ。屈性は成長を通じて長期的に体の向きを最適化し、傾性は素早い運動で一時的な刺激に対応する。