変分法と汎関数の基礎(解析力学)
関数は「数を入力すると数を返す」ものですが、変分法では「関数を入力すると数を返す」対象を扱います。この「関数の関数」を汎関数と呼び、解析力学の数学的基盤を支える重要な概念です。
汎関数とは
普通の関数 は、数 を受け取って数 を返します。一方、汎関数は関数 を丸ごと受け取って、1 つの数を返します。汎関数は のように角括弧で表記するのが慣例です。
たとえば、2 点間を結ぶ曲線 の長さは次の積分で与えられます。
この は汎関数です。曲線の形 を変えると の値も変わります。直線なら短く、くねくねした曲線なら長くなるわけです。
数 を受け取って数 を返す。
関数 を受け取って数 を返す。
身近な汎関数の例
汎関数は抽象的に見えますが、物理や幾何の問題では自然に登場します。
2 点 を結ぶ曲線 の長さ。どんな経路をとるかによって値が変わり、直線のとき最短になります。
重力下で点 から点 まで滑り落ちるとき、所要時間が最短になる曲線の形を求める問題。答えはサイクロイドになることが知られています。
ラグランジアン を時間で積分した量 は、解析力学における最も重要な汎関数です。
いずれの問題でも「どの関数を選べば汎関数の値が最大または最小になるか」を求めたいという共通点があります。この問いに答えるのが変分法です。
変分とは
関数の微分では を少しずらして とします。変分法ではこれに対応して、関数 を少しずらして とします。この を変分と呼びます。
ここで重要なのは、 は のあらゆる点で独立に値をとれる「関数のずれ」だという点です。ただし端点は固定するのが通常の設定で、次の条件を課します。
汎関数 に対して、 を に置き換えたときの変化の 1 次の部分を と書きます。
普通の関数で となる点が極値を与えるのと同様に、汎関数が極値をとる条件は です。変分法の基本的な流れをまとめると次のようになります。
関数 を にずらす
汎関数の変化 を計算する
を要求して極値条件を得る
オイラー=ラグランジュ方程式の導出
具体的に計算してみましょう。次の形の汎関数を考えます。
ここで です。 を に置き換えると、被積分関数の変化は 1 次まで展開すると次のようになります。
であることに注意して、第 2 項を部分積分します。
端点条件 より境界項は消えます。したがって の条件は次の形に集約されます。
は任意の関数なので、括弧内がすべての でゼロでなければなりません。こうして得られるのがオイラー=ラグランジュ方程式です。
この方程式は「汎関数を極値にする関数 が満たすべき微分方程式」を与えてくれます。変分法の中心的な結果であり、解析力学のすべての議論がここから始まります。
具体例:最短経路問題
2 点 と を結ぶ最短曲線を求めてみましょう。曲線の長さの汎関数は次の通りです。
ここで とおきます。 は を陽に含まないため となり、オイラー=ラグランジュ方程式は次のように簡略化されます。
を計算すると なので、これが定数であることから が得られます。つまり最短経路は直線です。直感的に当然の結果ですが、変分法を使えばこれを厳密に証明できるわけです。
解析力学への接続
変分法の枠組みを力学に応用するとき、被積分関数 に当たるものがラグランジアン になります。
汎関数 に対応するのが作用と呼ばれる量で、 と定義されます。
系の運動経路全体を評価する量。実際の運動は作用を停留させる経路に一致する(最小作用の原理)。
オイラー=ラグランジュ方程式の変数を力学の記法に読み替えると、対応は明快です。
変数の名前が変わっただけで、数学的構造は完全に同じです。変分法という数学的道具が、座標の選び方によらない普遍的な運動方程式を導く力を持っています。
前回の記事で導入した一般化座標 とラグランジアン をこの方程式に入れれば、任意の力学系の運動方程式が得られます。変分法と汎関数は、解析力学の論理構造を支える数学的な柱といえるでしょう。