ルジャンドル変換とハミルトニアン(解析力学)

ラグランジュ力学では一般化座標 と一般化速度 を基本変数として運動を記述しました。しかし、独立変数の組み合わせはこれだけではありません。 の代わりに一般化運動量 を使うことで、力学はまったく異なる姿を見せます。

この変数の入れ替えを数学的に正当化するのがルジャンドル変換であり、その結果として登場する関数がハミルトニアンです。

一般化運動量

ラグランジアン に対して、一般化運動量 を次のように定義します。

たとえば自由粒子のラグランジアン に対しては となり、おなじみの運動量に一致します。しかし一般化運動量は必ずしも の形をとるわけではありません。座標の選び方やポテンシャルの形によって、もっと複雑な表式になることもあります。

自由粒子

のとき 。通常の運動量に一致する。

単振り子

のとき 。角運動量の次元を持つ。

荷電粒子(電磁場中)

のとき 。ベクトルポテンシャルの寄与が加わる。

このように、一般化運動量はラグランジアンの形に応じて自動的に決まる量であり、 と同等の情報を持っています。

ルジャンドル変換とは

ルジャンドル変換は、関数の独立変数を「その変数についての微分値」に入れ替える操作です。力学に限らず、熱力学でも頻繁に登場する数学的道具になります。

1 変数の関数 を例に考えましょう。傾き を定義し、次の新しい関数 を作ります。

ここで右辺の の関係を使って の関数として表されます。この操作がルジャンドル変換です。元の関数 の情報は一切失われず、 から を復元することもできます。

元の記述

関数 、独立変数は

ルジャンドル変換後

関数 、独立変数は

幾何学的に見ると、 が「各点での高さ」で曲線を指定するのに対し、 は「各傾きでの切片」で同じ曲線を指定しています。表現方法が変わっただけで、記述している対象は同一です。

ただし、この変換が正しく機能するには条件があります。 から を一意に逆算できなければなりません。つまり (凸性)が必要です。力学の文脈では、 について線形な場合に を一意に決められず、ルジャンドル変換が素朴には実行できなくなります。こうした状況は拘束系の理論(ディラックの拘束ハミルトニアン形式)へと発展しますが、通常の力学系では問題になりません。

ラグランジアンからハミルトニアンへ

力学のルジャンドル変換では、ラグランジアン の独立変数 を一般化運動量 に入れ替えます。こうして得られる新しい関数がハミルトニアン です。

右辺の の関係を逆に解いて の関数として表します。

ラグランジアン

一般化運動量 を定義

で書き換えてルジャンドル変換

ハミルトニアン

具体例:調和振動子のハミルトニアン

バネ定数 、質量 の調和振動子で計算してみましょう。ラグランジアンは次の通りです。

まず一般化運動量を求めます。

ハミルトニアンの定義に代入します。

これは運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの和、すなわち系の全エネルギーに一致しています。多くの力学系でハミルトニアンは全エネルギーと等しくなりますが、これは常に成り立つわけではありません。座標が時間に陽に依存する場合や、ラグランジアンが の 2 次形式でない場合には、両者は一致しなくなります。

ハミルトンの正準方程式

ハミルトニアンから得られる運動方程式は、次の対称的な形をとります。

これがハミルトンの正準方程式です。ラグランジュ方程式が についての 2 階微分方程式だったのに対し、正準方程式は についての 1 階微分方程式の組になっています。方程式の階数が下がった分、変数の数が倍になるわけです。

先ほどの調和振動子で確認してみましょう。 に対して正準方程式を書くと次のようになります。

第 1 式は という運動量の定義を再現し、第 2 式は というニュートンの運動方程式と同値です。ラグランジュ方程式とハミルトンの正準方程式は、形は異なりますが完全に同じ物理を記述しています。

位相空間という舞台

ハミルトン力学では、系の状態を の組で指定します。この を軸にとった空間を位相空間と呼びます。

ラグランジュ力学

状態は で指定。配位空間とその接束の上で力学が展開される。

ハミルトン力学

状態は で指定。位相空間の上で力学が展開される。 は対等な座標として扱われる。

位相空間では、系の状態は 1 つの点に対応します。時間が進むと状態点は位相空間内を移動し、その軌跡が運動の履歴を表す曲線になります。エネルギー保存のような保存則は位相空間の幾何学的構造として自然に表現され、多数の粒子の統計的振る舞いを論じる統計力学や、状態の重ね合わせを扱う量子力学への橋渡しが格段に見通しよくなります。

なぜ変数を入れ替えるのか

ラグランジアンで十分に力学が記述できるのに、わざわざハミルトニアンに乗り換える理由は何でしょうか。

最大の利点は、正準方程式の持つ数学的構造の豊かさにあります。1 階の連立方程式は数値計算との相性が良く、さらに正準変換と呼ばれる変数変換の自由度が加わることで、問題を劇的に簡単化できる場合があります。

位相空間上で正準方程式の形を保つ変数変換。解きにくい問題を解きやすい問題に変換する強力な手法。

ルジャンドル変換は単なる変数の書き換えではなく、力学の見方そのものを変える操作です。ラグランジュ力学が「座標と速度」の世界だとすれば、ハミルトン力学は「座標と運動量」の世界であり、同じ物理をまったく異なる数学的言語で語ることになります。