ゴムひもを伸ばすと,元の長さに戻ろうとする復元力がはたらく。一方でゴム膜を伸ばして広げると,その面積を小さくしようとする力がはたらく。この力を膜張力と呼ぶ。十分小さい面積 だけゴム膜を広げるのに必要な仕事 は で与えられる。ここで は[力/長さ]の次元を持ち,膜張力の大きさを特徴づける正の係数である。ゴム膜でできた風船を膨らませると,膜張力により風船の内圧は外気圧よりも高くなる。外気圧は で常に一定とする。重力を無視し,風船は常に球形を保ち破裂しないものとして,以下の設問に答えよ。
I 図 3-1 のように半径 の風船とシリンダーが接続されている。シリンダーには滑らかに動くピストンがついており,はじめピストンはストッパーの位置で静止している。風船とシリンダー内は液体で満たされており,液体の圧力 は一様で,液体の体積は一定とする。ゴム膜の厚みを無視し,係数 は一定とする。
(1) ピストンをゆっくりと動かし風船を膨らませたところ,図 3-1 のように半径が長さ だけ大きくなった。ピストンを動かすのに要した仕事を , , , を用いて表せ。ただし, は十分小さく, の二次以上の項は無視してよい。
(2) 設問 I(1) で風船を膨らませたときに,風船の表面積を大きくするのに要した仕事を , , を用いて表せ。ただし, は十分小さく, の二次以上の項は無視してよい。
(3) を , , を用いて表せ。ただし,ピストンを介してなされる仕事は,全て風船の表面積を大きくするのに要する仕事に変換されるものとする。
II 図 3-2 のように,小さな弁がついた細い管の両端に係数 の風船がついており,中には同じ温度の理想気体が封入され,気体の温度は常に一定に保たれている。最初,弁は閉じており,風船の半径はそれぞれ , である。管内と弁の体積,ゴム膜の厚みを無視し,係数 は一定とする。また,風船がしぼみきった場合,風船の半径は無視できるほど小さくなるものとする。
(1) の場合に弁を開いて起こる変化について,空欄 [ア] と [イ] に入る最も適切な語句を選択肢 (1) 〜 (4) から選べ。また,下線部についての理由を簡潔に答えよ。
弁を開くと気体は管を通り,半径の [ア] 風船からもう一方の風船に移る。十分時間が経った後の風船は,片方が半径 で,[イ]。
(1) 大きい (2) 小さい (3) 他方も半径 になる (4) 他方はしぼみきっている
(2) を , , および,設問 II(1) で与えられた を用いて表せ。
III 実際の風船では,膜張力の大きさを特徴づける係数 は一定ではなく,半径 の関数として変化する。以下の設問では,風船の係数 は関係式 ()に従うと仮定する。ここで と は正の定数であり,温度によって変化しないものとする。風船の半径は常に より大きいものとする。
(1) 図 3-3 のように,理想気体が封入され,風船の半径がどちらも の場合を考える。弁を開いて片方の風船を手でわずかにしぼませた後,手を放したところ,風船の大きさは変化し,半径が異なる二つの風船となった。 が満たすべき条件を答えよ。ただし,気体の温度は一定に保たれているとする。
(2) 設問 III(1) で十分時間が経った後,弁を開いたまま,二つの風船内の気体の温度をゆっくりとわずかに上げた。風船の内圧は高くなったか,低くなったか,理由と共に答えよ。必要ならば,図を用いてよい。
(3) 設問 III(2) で十分時間が経った後,今度は風船内の気体の温度をゆっくりと下げた。二つの風船の半径を温度の関数として図示するとき,最も適切なものを図 3-4 の (1) 〜 (6) から一つ選べ。
ピストンにはたらく力は、内側から液体の 、外側から外気の です。押すのに要る力は差の に断面積を掛けたもので、動かした距離を掛けると仕事は になります。
液体の体積は変わらないので、ピストンが押しこんだ体積はそのまま風船の増えた体積です。 なので、仕事は です。これが I(1) の答えです。
表面積は なので、その増分は です。膜を広げるのに要る仕事は で、これが I(2) の答えです。
2 つが等しいとして で割ると 、つまり です。これが I(3) の答えです。
小さい風船ほど内圧が高い、という式になっています。次の設問はこれがそのまま効きます。
が一定なら、内圧は半径が小さいほど高くなります。 なら のほうが高圧なので、弁を開くと気体は半径の小さい風船から出ていきます。[ア]は「小さい」です。
ここで止まりません。 は縮むほど内圧がさらに上がり、 は膨らむほど内圧が下がります。差は開く一方です。
つり合う半径がないので、 はしぼみきるまで気体を出し続けます。[イ]は「他方はしぼみきっている」です。これが II(1) の答えです。
ふうせんを 2 つつなぐと同じ大きさで落ち着きそうに思えますが、逆になります。理由は、内圧が半径について減る関数だからです。
温度が一定で気体の量も変わらないので、 の合計は変わりません。半径 の風船は 、 です。
は となります。 の項と の項に分かれるのがこの問題の形です。
はじめの 2 つと、あとの 1 つを等しいと置くと、 です。
解いて です。これが II(2) の答えです。
とすると、内圧は になります。
では なので です。 を大きくしていくと はいったん上がり、どこかで山を越えて、また へ近づいていきます。
山の位置は が になるところで、 です。
左側の上り坂では「大きいほど高圧」、右側の下り坂では「大きいほど低圧」です。 が一定だった前半とは、ふるまいがまるで変わります。
両方が同じ半径 でつり合っているところを、少しだけ崩してみます。片方が縮み、もう片方が膨らみます。
が下り坂にいるとき、縮んだほうは内圧が上がり、膨らんだほうは内圧が下がります。差が広がるので、気体はさらに移り、もとへは戻りません。
が上り坂にいるときは逆で、縮んだほうの内圧が下がるので気体が戻ってきます。もとの状態が保たれます。
半径が異なる二つになった、というのは崩れたということなので、下り坂にいたことになります。条件は です。これが III(1) の答えです。
落ち着いた後の 2 つは、同じ内圧で半径が違います。 の山をはさんで、片方が上り坂、片方が下り坂に乗っています。
温度を上げると の合計が増えます。もし内圧が上がったとすると、上り坂の風船は膨らみますが下り坂の風船は縮み、実際に計算すると体積の合計はむしろ減って が減ってしまいます。つじつまが合いません。
内圧が下がるとすれば、下り坂の大きい風船がさらに膨らみ、上り坂の小さい風船は縮みます。体積の合計は大きく増えるので、 が下がっても は増えます。よって内圧は低くなります。これが III(2) の答えです。
続いて温度を下げると、いまの逆が起こります。内圧が上がり、上り坂の風船は膨らみ、下り坂の風船は縮んで、2 つの半径は へ近づいていきます。
山の頂上で 2 つは出会い、そこから先はどちらも同じ半径のまま縮んでいきます。半径を温度の関数として描くと、低温側では 1 本、ある温度から上で 2 本に分かれる形になります。図 3-4 では (6) がこれにあたり、これが III(3) の答えです。