井戸型ポテンシャルと束縛状態:最も単純な量子系を解く
シュレーディンガー方程式を具体的な問題に適用してみましょう。最も単純で、かつ量子力学の本質をよく表しているのが、無限井戸型ポテンシャル中の粒子です。この系を解くことで、エネルギーの量子化や波動関数の節といった重要な概念が見えてきます。
無限井戸型ポテンシャル
粒子が幅 の箱の中に閉じ込められている状況を考えます。箱の内部ではポテンシャルが 0、外部では無限大という設定です。
ポテンシャルが無限大の領域には粒子は存在できないので、波動関数は箱の外で となります。これが境界条件です。
箱の中を自由に動き回り、壁で反射する。任意のエネルギーを持ちうる。
波動関数が箱の中に閉じ込められ、境界条件により許されるエネルギーが離散的になる。
シュレーディンガー方程式を解く
箱の内部()では なので、時間非依存シュレーディンガー方程式は次のようになります。
と置くと、これは単純な二階微分方程式になります。
一般解は三角関数で表されます。
ここで境界条件を適用しましょう。 で より、 が導かれます。次に で より、 となります。 では波動関数が恒等的に 0 になってしまうので、 でなければなりません。
境界条件
が必要
()
が離散的な値に制限される
エネルギーの量子化
を に代入すると、許されるエネルギーが得られます。
は量子数と呼ばれ、エネルギー準位を指定します。
最もエネルギーの低い状態。 で、ゼロではありません。これを零点エネルギーと呼びます。
基底状態より高いエネルギーを持つ状態。 なので、エネルギーは量子数の二乗に比例して増加します。
零点エネルギーの存在は、不確定性原理の直接的な帰結です。粒子が箱の中に閉じ込められているということは、位置の不確定性 が 程度に制限されるということです。すると不確定性関係 により、運動量の不確定性 が生じ、これが零点エネルギーとして現れるのです。
波動関数の形
規格化された波動関数は次のようになります。
の基底状態では、波動関数は箱の中央で最大値をとり、両端で 0 になります。 では中央に節(ゼロ点)が現れ、 では 2 つの節が現れます。一般に、 番目の状態は 個の節を持ちます。
| 節 0 個、中央にピーク | |
| 節 1 個、中央がゼロ | |
| 節 2 個、3 つの山 | |
| 節 個 |
節の数が多いほど波動関数の「波長」が短くなり、運動量とエネルギーが高くなるという対応があります。
有限井戸型ポテンシャル
現実の系では、ポテンシャル障壁は有限の高さ を持ちます。
この場合、波動関数は井戸の外側でも完全にはゼロにならず、指数関数的に減衰しながら染み出します。
ここで です。
この染み出しはトンネル効果の基礎となります。古典的には越えられないポテンシャル障壁を、量子力学的な粒子は有限の確率で通り抜けることができるのです。
アルファ崩壊や走査型トンネル顕微鏡など、多くの現象がこの効果で説明される。
有限井戸では束縛状態の数も有限になります。井戸が浅すぎると束縛状態が 1 つしか存在しないこともありますし、極端に浅い井戸では束縛状態が存在しないこともあります(ただし 1 次元では必ず少なくとも 1 つの束縛状態が存在することが知られています)。
物理的な応用
井戸型ポテンシャルは単純なモデルですが、多くの物理系を理解する出発点となります。
半導体の量子井戸では、異なる材料を積層することで電子を薄い層に閉じ込めます。閉じ込めによってエネルギー準位が離散化し、量子井戸レーザーなどのデバイスに応用されています。また、原子核中の核子(陽子と中性子)も、核力によるポテンシャル井戸に束縛された状態として近似的に記述できます。
量子ドットは 3 次元的に電子を閉じ込めた「人工原子」であり、量子情報処理や医療イメージングへの応用が研究されています。
このように、無限・有限井戸型ポテンシャルの解析で得られる知見は、現代のナノテクノロジーから原子核物理まで、幅広い分野で活用されています。