DNA複製の仕組みとDNAポリメラーゼ|高校生物

細胞が分裂するとき、DNA は正確にコピーされて娘細胞へ分配される。この複製プロセスは多数の酵素が協調的にはたらく精密な分子機械であり、その中心を担うのが DNA ポリメラーゼだ。

複製の開始と複製フォーク

DNA の複製は、複製起点(origin of replication)と呼ばれる特定の塩基配列から始まる。原核生物では複製起点は 1 か所だが、真核生物のゲノムは巨大なため、1 本の染色体上に数百〜数千の複製起点が存在し、複数の地点から同時に複製が進行する。

原核生物の複製

複製起点は 1 か所。環状 DNA の 1 点から双方向に複製が進み、反対側で合流して完了する。大腸菌のゲノム(約 460 万塩基対)は約 40 分で複製される。

真核生物の複製

複製起点は染色体あたり数百〜数千か所。複数の複製フォークが同時に進行し、隣接するフォークどうしが合流することでゲノム全体が複製される。

複製起点ではまずヘリカーゼという酵素が二重らせんをほどき、Y 字型の構造が生まれる。この分岐点を複製フォークと呼ぶ。ほどかれた 1 本鎖 DNA には SSB タンパク質(一本鎖 DNA 結合タンパク質)が結合して、鎖が再び対合するのを防いでいる。

DNA ポリメラーゼのはたらき

DNA ポリメラーゼは、鋳型鎖の塩基配列を読み取りながら相補的なヌクレオチドを 3’ 末端に付加していく酵素だ。この酵素にはいくつかの重要な特性がある。

5'→3' 方向の合成

DNA ポリメラーゼは新しいヌクレオチドを既存の鎖の 3’ 末端にしか付加できない。したがって、合成は必ず 5’ から 3’ の方向に進む。

プライマーの必要性

DNA ポリメラーゼはゼロから鎖を合成することができず、短い RNA プライマー(プライマーゼが合成する)を出発点として必要とする。

校正機能(プルーフリーディング)

DNA ポリメラーゼは 3’→5’ エキソヌクレアーゼ活性を持ち、誤って取り込んだヌクレオチドを除去して正しいものに置き換える。これにより複製のエラー率は 程度にまで抑えられる。

大腸菌の主要な複製酵素は DNA ポリメラーゼ III で、毎秒約 1000 ヌクレオチドという高速で合成を行う。真核生物では DNA ポリメラーゼ δ と ε がそれぞれラギング鎖とリーディング鎖の合成を担当している。

リーディング鎖とラギング鎖

DNA の 2 本の鎖は反平行に走っているため、複製フォークの進行方向に対して、一方の鎖は連続的に合成できるが、もう一方はそうはいかない。

複製フォークが進行

リーディング鎖は連続合成

ラギング鎖は岡崎フラグメントとして断片合成

DNA リガーゼが断片を連結

リーディング鎖は複製フォークの進行方向と同じ 5’→3’ 方向に伸長するため、プライマーが 1 つあれば連続的に合成が進む。一方、ラギング鎖はフォークの進行方向と逆向きに合成しなければならないため、フォークが一定距離ほどけるたびに新たなプライマーが合成され、短い断片(岡崎フラグメント)として不連続に合成される。

岡崎フラグメントの長さは原核生物で約 1000〜2000 ヌクレオチド、真核生物では約 100〜200 ヌクレオチドとされる。これらの断片は、まず DNA ポリメラーゼ I(原核生物の場合)が RNA プライマーを除去して DNA に置き換え、最後に DNA リガーゼがニック(切れ目)を封じることで、1 本の連続した鎖に仕上げられる。

複製にかかわる主要な酵素

DNA 複製は DNA ポリメラーゼだけで完結するわけではなく、多くの酵素やタンパク質が協力して進行する。

酵素・タンパク質おもなはたらき
ヘリカーゼ二重らせんをほどく
プライマーゼRNA プライマーを合成する
DNA ポリメラーゼ相補的なヌクレオチドを付加する
SSB タンパク質一本鎖 DNA を安定化する
トポイソメラーゼねじれストレスを解消する
DNA リガーゼ岡崎フラグメントを連結する

トポイソメラーゼは複製フォークの前方に蓄積する正の超らせん(ねじれすぎた状態)を解消する役割を持つ。この酵素がなければ、ヘリカーゼが二重らせんをほどくにつれて前方の DNA がきつく巻き上がり、やがて複製が停止してしまう。

複製の正確さと修復

DNA ポリメラーゼの校正機能に加えて、細胞にはミスマッチ修復と呼ばれるシステムも備わっている。複製後に残った塩基のミスペアリングを認識し、新しく合成された鎖側の誤りを切り出して修正する仕組みだ。校正機能とミスマッチ修復を合わせることで、1 回の複製あたりの最終的なエラー率は のオーダーにまで低減される。

これほど高い正確性を持ちながらも、ゲノム全体では複製のたびにわずかな変異が生じる。ヒトゲノム(約 30 億塩基対)の場合、1 回の細胞分裂あたり約 1 個の点突然変異が蓄積すると推定されている。

1 つの塩基が別の塩基に置き換わる変異のこと。進化の原動力にもなるが、がんなどの疾患の原因にもなりうる。

DNA 複製のメカニズムは、遺伝情報を次世代に正確に伝えるための生命の根幹をなすプロセスである。酵素群の精密な連携と多重のエラー修正機構が、生命の連続性を支えているのだ。