波がこの先どう進むかは、いまの波面さえ分かれば決まります。その決め方がホイヘンスの原理です。
波面の上の点は、どれもそこから新しい波を出す波源だとみなします。これを素元波といいます。少し時間がたつと、素元波はどれも同じだけ広がります。図の細い円がそれです。
広がった素元波の外側に、共通の接線が引けます。この線が次の波面です。図の実線がその接線で、時間とともに右へ移っていきます。
平面波では、次の波面もまた平面になります。だから何も邪魔がなければ、波はまっすぐ進みます。当たり前に見えることを、わざわざこの手順で言い直しておくのは、邪魔が入ったときにそのまま使えるからです。
壁にすきまを開けて、そこへ平面波を当てます。壁にぶつかった部分は先へ進めません。通れるのは、すきまの幅ぶんの波面だけです。
ここで前の場面の手順をそのまま使います。すきまを通った波面の各点が素元波を出す。その接線が次の波面になる。ただし今度は、波面が途中で切れています。
切れた端では、外側に素元波を打ち消す相手がいません。だから端の素元波はそのまま丸く広がり、波面は端を中心に回りこみます。図の影の部分が、まっすぐ進むだけなら波が届かないはずの場所です。そこへ波面が入りこんでいます。
この回りこみを回折といいます。すきまの正面では波面は平らなまま進み、端でだけ曲がる。この 2 つが合わさった形が、すきまを抜けた波の姿です。
同じ波を、広いすきまと狭いすきまに当ててみます。上と下で違うのはすきまの幅だけです。
上の段では、すきまの幅のあいだ平らな波面がそのまま進みます。回りこみは端にしかないので、全体としてはほとんど直進に見えます。
下の段では、平らな部分がほとんど残りません。端の回りこみだけが残るので、波面は半円に近い形で大きく広がります。
つまり広がり方を決めるのは、すきまの幅そのものではありません。波長と比べてどれだけ狭いかです。すきまの幅が波長と同じくらいまで狭くなると、波はほぼ全方向へ広がります。逆に波長よりずっと広ければ、回折はほとんど目に見えません。
すきまでなくてもかまいません。片側だけをふさいだ壁でも、端があれば同じことが起こります。
図の上下は、壁も当てる向きも同じで、違うのは波長だけです。波長の長い上の段は、壁の端から陰の奥まで回りこんでいます。波長の短い下の段は、端のすぐ裏までしか届きません。
塀の向こうにいる人の姿は見えないのに、声は聞こえます。同じ塀に当たっているのに結果が違うのは、波長が違うからです。音の波長は数十センチから数メートルあり、塀の高さと同じくらいなのでよく回りこみます。光の波長は 1 ミリの千分の 1 ほどしかないので、塀の端ではまったく回りこめません。
光でも、すきまを波長に近いところまで狭めれば回折します。そのことは、このあとのヤングの実験と回折格子で確かめます。