窒素と水素だけを容器に入れます。アンモニアはまだ 1 個もありません。この瞬間に起きることは 1 つだけです。窒素と水素がぶつかってアンモニアになる、その向きの反応です。
図の下に 2 本の帯があります。上が正反応、下が逆反応の速さです。いまは上の帯だけが伸びていて、下の帯は長さを持ちません。アンモニアがないのですから、アンモニアが分かれて戻る反応は起こりようがないのです。
このとき正反応はいちばん速く進みます。窒素も水素もいちばん多いからです。反応の速さは、ぶつかる相手がどれだけ濃くあるかで決まります。
アンモニアができはじめると、話が変わります。できたアンモニアどうしがぶつかって、窒素と水素へ戻る反応が起きるようになるからです。
下の帯が少しずつ伸びていきます。アンモニアが増えるほど、戻る反応の速さは上がります。同時に、上の帯は縮んでいきます。窒素と水素が使われて減っていくからです。
ここが大事なところです。2 つの速さは、別々の理由でそれぞれ動いています。正反応の速さは左辺の濃度で決まり、逆反応の速さは右辺の濃度で決まります。一方が減れば他方が増える、という形で必ず近づいていきます。
やがて 2 本の帯が同じ長さになります。行きと戻りが同じ速さになったということです。この瞬間から、粒の数は動かなくなります。作られる数と壊される数が、時間あたりで釣り合うからです。
右のグラフを見てください。3 本の線が平らになりました。これがつりあったしるしです。粒だけを眺めていても、つりあったかどうかは分かりません。数が変わらなくなったことは、線が平らになって初めて目に見えます。
ここで止まった、と言いたくなります。けれども止まってはいません。止まったのは数だけで、反応そのものは両方向へ進み続けています。
容器の中の粒は入れ替わり続けています。いま窒素だった 1 個は、しばらくするとアンモニアの一部になり、また窒素に戻るかもしれません。個々の粒を追いかければ、休みなく行き来しています。
それでも数が変わらないのは、行った数と戻った数が同じだからです。これを動的平衡といいます。動的というのは、止まっていないという意味です。
反応が止まった状態、つまり本当に何も起きていない状態とは、まったく別のものです。見分けるところは 1 つで、速さの帯が 2 本とも長さを持っているかどうかです。つりあいでは、2 本とも長く、そして同じ長さです。