クロム酸と二クロム酸の反応式のいちばん右に、H₂O があります。ところが容器の絵に、水の粒は描かれていません。平衡定数の分数にも、[H₂O] は出てきません。
書き忘れたのではありません。出さないほうが正しいのです。理由は 1 つで、水が桁違いに多いからです。
1 L の水は、およそ 55.5 mol あります。そこに溶けているイオンは、濃い溶液でも 0.1 mol くらいのものです。その差は 500 倍以上あります。
図では、同じ物差しで 2 本の帯を並べました。イオンの帯は、目を凝らさないと見えません。
溶媒というのは、こういうものを指す言葉です。反応式に出てくることはあっても、量が多すぎて、増えたか減ったかが読み取れません。
反応が進んで水ができます。それでも水の量はほとんど変わりません。図の 2 本の帯を見比べてください。反応の前と後で、変わったのは小数の下のほうだけです。
変わらない値は、定数として扱ってかまいません。本来の分数には [H₂O] が入っているのですが、それがほぼ一定なら、左辺へ移して平衡定数のほうへ吸わせてしまえます。
そうしてできた新しい定数を、あらためて K と呼びます。教科書の式に [H₂O] が出てこないのは、この操作がすでに済んでいるからです。固体が反応に出てくるときも、まったく同じ理由で式から外します。
同じ理由が、もう 1 つのことを説明します。水溶液では、容器の大きさが濃度を決めないということです。
気体は容器いっぱいに広がるので、ピストンを押せばそのぶん濃くなります。水溶液はそうではありません。押し込むピストンがなく、濃さを決めているのは水の量のほうです。
図では、気体の容器と水溶液の容器を並べました。気体にはピストンがあり、水溶液にはありません。シミュレーターで水溶液の反応を選ぶと容器のつまみが効かなくなるのは、これが理由です。
水溶液のつりあいを動かしたければ、濃度を変えるか、温度を変えるかの 2 つだけです。