アンモニアの合成は発熱反応です。右へ進むとき、熱が出ます。
そこで温度を下げます。出した熱が逃げていくぶんを補おうとして、つりあいは熱を出す向き、つまりアンモニアができる側へ寄ります。図では、冷やしたところで線が段になって動きます。
つりあいの位置だけを見れば、冷やすほど良いことになります。同じ量の窒素と水素から、より多くのアンモニアが取れるからです。
同じ冷やし方を、こんどは速さそのもので見ます。この場面では、帯の長さを測る物差しを条件をまたいで同じにしてあります。2 本の長さの比ではなく、速さの大きさそのものが読めます。
冷やすと、2 本ともまとめて短くなります。正反応も逆反応も遅くなるということです。温度は分子の動きの激しさなので、下げればぶつかる回数も、ぶつかったときに反応する割合も落ちます。
つまり冷やすと、着く先は良くなるのに、そこへ着くまでが遅くなります。工場では、何日も待って良い平衡へ着くよりも、少し悪い平衡へ早く着くほうが役に立ちます。
温度を上げると、いま言ったことがそのまま裏返ります。つりあいは熱を吸う側、つまり窒素と水素の側へ戻り、アンモニアは減ります。そのかわり 2 本の帯はどちらも長くなり、着くまでが速くなります。
これが二律背反です。温度という 1 つのつまみが、つりあいの位置と、そこへ着く速さの両方を、反対の向きに動かします。
ハーバー・ボッシュ法が高い温度を使うのは、この折り合いを付けた結果です。そして温度で損をしたぶんを、圧力で取り返します。アンモニアの合成は 4 分子から 2 分子へ減る反応なので、圧力を上げれば右へ寄るからです。
最後に触媒です。触媒を入れると 2 本の帯はどちらも伸びます。ところがグラフの線の高さは動きません。段になりません。
触媒は正反応と逆反応の速さを、同じ倍率で上げるからです。2 本の長さの比が変わらないので、つりあう場所も変わりません。
ですから触媒は、着く先を良くする道具ではなく、着くまでを短くする道具です。温度を下げてもよい平衡へ早く着けるようになる、と言い換えてもかまいません。ハーバー法が鉄を使うのは、そのためです。