位置 q を横軸、運動量 p を縦軸にとった平面を考えます。この平面の 1 点が、ある時刻の状態を表します。位置だけ、または運動量だけでは次の瞬間の運動は決まりませんが、2 つがそろえば決まります。
ハミルトニアン H(q, p) は、この平面の各点に決まる値です。ばね振り子では H = p^2/2m + kq^2/2 で、図の円は H の値が等しい点を結んだ等高線です。質量とばね定数を 1 にとっているので円になり、太い円がいまの運動の H = 0.361 の等高線です。点はこの円を 2\pi、およそ 6.28 秒で 1 周します。
点の速度は (\dot q, \dot p) = (\partial H/\partial p, -\partial H/\partial q) です。これは H の勾配 (\partial H/\partial q, \partial H/\partial p) を 90° 回した向きで、図の矢印がその向きです。勾配と直角なので、点は等高線を横切らず、等高線に沿って時計回りに回ります。
等高線に沿って動くので、H の値は変わりません。式で書くと dH/dt = (\partial H/\partial q)\dot q + (\partial H/\partial p)\dot p = 0 で、H が時刻をあらわに含まなければエネルギーは保存します。
位置と運動量を、同じ時間軸に並べます。上のグラフが q(t)、下のグラフが p(t) で、短い線分がいまの時刻での傾きです。
上のグラフの傾きは、下のグラフのいまの値と同じです。下のグラフの傾きは、上のグラフのいまの値の符号を変えたものです。質量とばね定数を 1 にとっているので、\dot q = p/m と \dot p = -kq がそのまま見えています。
2 つの式はたがいに相手の値を使うので、片方だけでは解けません。2 つを一緒に解くと、q と p は 4 分の 1 周期ずれた三角関数になります。図で q が最大になる時刻に、p は 0 を通っています。
一般の形は \dot q = \partial H/\partial p、\dot p = -\partial H/\partial q で、これをハミルトンの正準方程式と呼びます。ハミルトンは 1834 年と 1835 年の 2 つの論文で、この形の運動方程式を示しました。H を 1 つ書けば、偏微分するだけで運動方程式が得られます。
振り子では、角 \theta と角運動量 p を使って H = p^2/(2m\ell^2) - mg\ell\cos\theta です。正準方程式は \dot\theta = p/(m\ell^2)、\dot p = -mg\ell\sin\theta で、2 つを合わせると一般化座標の記事で導いた \ddot\theta = -(g/\ell)\sin\theta になります。
導き方を示します。H = p\dot q - L の両辺の全微分をとると、図の 1 行目になります。L は q と \dot q の関数なので、dL からは dq と d\dot q の項が現れます。
p = \partial L/\partial \dot q なので、p\,d\dot q と -(\partial L/\partial \dot q)\,d\dot q は打ち消し合います。残るのは図の 2 行目で、dH は dq と dp だけで書けます。H が q と p の関数になっていることが、ここで確かめられます。
一方、H を q と p の関数とみると、全微分は図の 3 行目の形です。2 つの式の dp の係数を比べると \dot q = \partial H/\partial p が得られます。dq の係数を比べると \partial H/\partial q = -\partial L/\partial q で、オイラー–ラグランジュ方程式から \partial L/\partial q = \dot p なので、\dot p = -\partial H/\partial q です。
座標が n 個あれば、正準方程式は 2n 本の 1 階の微分方程式になります。L が時刻を含むときも同じ計算ができて、そのときは \partial H/\partial t = -\partial L/\partial t となります。
正準方程式は、作用を S = \int (p\dot q - H)\,dt と書いて、q と p を別々にずらしても導けます。p をずらすと \dot q = \partial H/\partial p が、q をずらして部分積分すると \dot p = -\partial H/\partial q が得られます。
ばね振り子で確かめます。H = p^2/2m + kq^2/2 から \dot q = p/m、\dot p = -kq です。1 つ目を時間で微分して 2 つ目を使うと m\ddot q = -kq となり、ラグランジュ形式で導いた運動方程式に戻ります。
角振動数は \omega = \sqrt{k/m} です。質量 0.5 kg のおもりをばね定数 20 N/m のばねにつなぐと、\omega = 6.32 rad/s、周期は 0.993 秒です。
正準方程式は、2 階の微分方程式 1 本を、1 階の微分方程式 2 本に書きかえたものです。変数は q だけから q と p の 2 つになり、そのかわり方程式の階数が 1 つ下がりました。運動そのものは変わっていません。
循環座標は、ハミルトン形式でいっそう扱いやすくなります。中心力では H = p_r^2/2m + p_\theta^2/(2mr^2) + U(r) が \theta を含まないので \dot p_\theta = 0 です。p_\theta を定数とみれば、残りは r と p_r だけの 1 次元の問題になります。
1 階の形には使い道があります。数値計算で惑星の運動を長い時間追うときは、正準方程式の形を保つシンプレクティック積分法を使うと、エネルギーの誤差が時間とともに増えていきません。量子力学のシュレーディンガー方程式も、このハミルトニアンを演算子にして書きます。q と p をまとめて取りかえる変換は、正準変換の記事で扱います。