長さ l の棒の先に質量 m のおもりをつけ、その下にもう 1 組、同じ棒とおもりをつないだものを二重振り子といいます。2 本の棒が鉛直となす角 \theta_1、\theta_2 を、一般化座標にとります。
運動エネルギーは T = ml^2\left(\dot\theta_1^2 + \dfrac{1}{2}\dot\theta_2^2 + \dot\theta_1\dot\theta_2\cos(\theta_1 - \theta_2)\right)、位置エネルギーは U = -mgl(2\cos\theta_1 + \cos\theta_2) で、ラグランジアンは L = T - U です。下のおもりの速度は、上のおもりの速度に、上のおもりから見た速度を足したもので、その 2 乗から \cos(\theta_1 - \theta_2) の項が出てきます。
オイラー・ラグランジュ方程式は、2 つの角についての連立した 2 階の方程式で、三角関数を含む非線形の方程式です。二重振り子で保存する量はエネルギーだけで、可積分系ではありません。振れが大きいとき、解を式で書くことはできません。
図は、\theta_1 = 2 rad、\theta_2 = 2.4 rad から静かに離した運動を、数値で解いて描いたものです。エネルギーは 1.57mgl で、下のおもりの通った道を残しています。下のおもりは同じ動きをくり返さず、不規則に動き続けます。
振れが小さいときは、小振動と基準振動の記事と同じく、ラグランジアンを角の 2 次まで近似して解けます。\cos(\theta_1 - \theta_2) \approx 1、\cos\theta \approx 1 - \dfrac{\theta^2}{2} とすると、方程式は線形になります。
解くと、2 つの基準振動が得られます。1 つは 2 つのおもりが同じ向きに振れる \theta_2 = \sqrt{2}\,\theta_1 の振動で、角振動数は \sqrt{2 - \sqrt{2}}\sqrt{\dfrac{g}{l}} = 0.765\sqrt{\dfrac{g}{l}} です。もう 1 つは逆向きに振れる \theta_2 = -\sqrt{2}\,\theta_1 の振動で、角振動数は \sqrt{2 + \sqrt{2}}\sqrt{\dfrac{g}{l}} = 1.848\sqrt{\dfrac{g}{l}} です。
図はこの 2 つを並べたものです。どんな小さな振れも、この 2 つの基準振動の重ね合わせで書けます。2 つの振動数の比は 1 + \sqrt{2} で無理数なので、重ね合わせた運動は同じ形をくり返しませんが、規則正しく、先までいくらでも予言できます。
振れが大きくなると、この近似は成り立たなくなります。2 つの振動のあいだでエネルギーがやりとりされるようになり、次の場面のような運動が現れます。
図の 2 つの二重振り子は、\theta_2 の初めの値だけが 0.001 rad 違います。はじめは重なって見えますが、しばらくすると離れ始め、やがてまったく違う動きになります。
状態 (\theta_1, \theta_2, \dot\theta_1, \dot\theta_2) の差は、初めの 10^{-3} から、時間 6.8\sqrt{l/g} で 10^{-2}、9.3\sqrt{l/g} で 10^{-1}、17.8\sqrt{l/g} で 1 ほどになります。長さ 1 m の振り子なら \sqrt{l/g} = 0.32 秒なので、6 秒ほどで 2 つの動きは別のものになります。
運動方程式には、偶然の要素はまったくありません。初めの状態が決まれば、その後の運動は 1 通りに決まります。それでも、初めの状態をどれだけ正確に測っても、わずかな誤差がこのように育つので、ずっと先の運動は予言できません。このような性質をカオスといいます。
1963 年、ローレンツは、大気の対流を表す簡単な方程式で、同じ性質を見つけました。天気を何週間も先まで予報できないのは、大気がこの性質を持つためです。
二重振り子の状態は 4 つの数で決まり、エネルギーが一定なので、運動は 3 次元の面の上で起こります。そのようすを見るために、\theta_1 が 0 を増える向きに横切るたびに、そのときの (\theta_2, \dot\theta_2) に点を打ちます。これをポアンカレ断面といい、1890 年ごろにポアンカレが三体問題の研究で使いました。
図は、エネルギーを決めて、いくつかの出発点から解いたものです。同じ色の点は、同じ出発点から打ったものです。エネルギーが -2.2mgl と低いとき(いちばん低い状態は -3mgl)は、点が閉じた曲線の上に並びます。可積分系の記事で見たトーラスの形をした面の上を、運動が規則正しく動いていることを表しています。
エネルギーが 0.5mgl と高いときは、点は曲線にならず、広い範囲に散らばります。決まった曲線の上を動く運動ではなくなっていることを表しています。
可積分系に小さな力が加わっても、多くのトーラスは少し形を変えて残ることを、コルモゴロフ、アーノルド、モーザーが示しました(KAM 定理)。エネルギーが低いときに規則正しい運動が見られるのはこのためで、非線形の効果が強くなるほど規則正しい運動の範囲が減り、カオスの範囲が広がります。
図は、前の場面の 2 つの二重振り子について、状態の差の大きさを、縦軸を対数の目盛りにして描いたものです。途中までは、グラフはおよそ直線に沿っていて、差が指数関数的に育っていることを表しています。
差が |\Delta| \approx |\Delta_0|e^{\lambda t} と育つときの \lambda を、リャプノフ指数といいます。この二重振り子では、差はおよそ 7\sqrt{l/g} ごとに 10 倍になり、\lambda は約 0.33\sqrt{g/l} です。
差が振り子の動きの大きさに近づくと、それ以上は大きくなれず、グラフは平らになります。
初めの誤差を 10 分の 1 にしても、予言できる時間は \dfrac{\ln 10}{\lambda}、つまり約 7\sqrt{l/g} しか延びません。測る精度を上げても、予言できる時間は少ししか延びないことが、カオスの特徴です。