可積分系

閉じる軌道と閉じない軌道

2 つの向きにそれぞれ独立に振動する運動を考えます。たとえば、x の向きと y の向きでばね定数の違うばねにつながれたおもりです。運動は x = \sin\omega_1 t、y = \sin\omega_2 t と書けて、平面に描いた軌道の形は、振動数の比 \omega_2/\omega_1 で決まります。

図の左は比が 3/2 の場合です。6.28 秒たつと、x の向きは 2 回、y の向きは 3 回振動して、どちらの位相も同時にもとに戻るので、軌道は閉じます。そのあとは同じ曲線を何度もたどります。図は 42 秒まで描くので、左の曲線は 6 回あまりくり返されます。

図の右は比が \sqrt{2} の場合で、有理数ではありません。2 つの位相が同時にもとに戻ることがないので、軌道は閉じず、時間がたつほど四角の中を少しずつ埋めていきます。それでも、軌道が四角の外に出ることはありません。

このように、2 つの振動を組み合わせて平面に描いた曲線をリサージュ図形と呼びます。リサージュは 1857 年に、2 つの音叉に付けた鏡で光を反射させて、この図形を映し出しました。

どちらの場合も、2 つの向きのエネルギーが別々に保存していて、運動はすでに解けています。運動が解けることと、軌道が閉じることは、別のことです。

角変数で描くと直線になる

同じ運動を、2 つの向きの角変数 \theta_1 と \theta_2 で描き直します。正準変換の記事で見たように、角変数は一定の速さで進むので、\theta_1 = \omega_1 t、\theta_2 = \omega_2 t です。2 つの角を軸にとると、運動は傾き \omega_2/\omega_1 の直線になります。

角は 2\pi 進むともとの状態に戻るので、四角の右の辺と左の辺、上の辺と下の辺は、それぞれ同じ状態を表しています。線は右の辺に着くと左の辺から、上の辺に着くと下の辺から続きます。

向かい合う辺をつなぎ合わせると、円を、その円と交わらない軸のまわりに回してできる面になります。この面をトーラスと呼びます。運動は、トーラスの上を一定の速さで進む直線の運動です。

左は傾きが 3/2 で、\theta_1 が 2 周、\theta_2 が 3 周したところで出発点に戻ります。右は傾きが \sqrt{2} で出発点には戻らず、トーラスの上のどの点にもいくらでも近づいていきます。どちらも、角変数で見れば同じ直線の運動です。

振動数の比で軌道が閉じるかどうかが決まることは、ケプラー問題の記事で見た話と同じです。距離に反比例する位置エネルギーでは、距離 r の往復と角 \theta の 1 周の振動数がちょうど等しいので、軌道が閉じます。

作用変数は軌道が囲む面積

角変数と組になる運動量を作るには、位相空間で軌道が囲む面積をとります。J = \oint p\,dq を作用変数と呼びます。図は 1 つの向きの振動の位相空間で、塗ったところの面積が J です。

ばね振り子では J = 2\pi E/\omega です。図では質量とばね定数を 1 にとっていて、エネルギーを上げ下げすると円の半径が 0.32 から 0.95 まで変わり、J は 0.322 から 2.835 まで変わります。エネルギーが決まれば円が決まり、円が決まれば J が決まります。

H を J の関数として書くと、ばね振り子では H = \omega J/(2\pi) です。J で微分した \partial H/\partial J = \omega/(2\pi) は、1 秒あたりの往復の回数です。次の場面の図の 3 行目のように、J を 2\pi で割った量を使うと、微分は角振動数 \omega そのものになります。

2 つの向きの振動を合わせた運動では、H = (\omega_1 J_1 + \omega_2 J_2)/(2\pi) と書けて、2 つの作用変数 J_1 と J_2 が別々に保存します。

運動を解かなくても、軌道が囲む面積をエネルギーの関数として計算すれば、振動数が求まります。ケプラー問題でこの計算をすると、r の往復と \theta の 1 周の振動数が等しいことがわかります。

振り子のように H が J の 1 次式でないときは、振動数が振れ幅によって変わります。振り子を大きく振ると周期が長くなるのは、\partial H/\partial J が J とともに小さくなるからです。

解けるとはどういうことか

自由度 n の系で、たがいに独立な保存量 F_1, \dots, F_n があり、どの 2 つのポアソン括弧も 0 であるとき、その系を可積分系と呼びます。図の 1 行目と 2 行目がその条件です。

保存量どうしの括弧が 0 であることが必要なのは、それらを同時に新しい運動量としてとるためです。新しい運動量どうしの括弧は、正準変換のあとも 0 でなければなりません。

条件が満たされ、運動が限られた範囲にとどまるとき、運動は n 次元のトーラスの上を動きます。作用変数 J_i と角変数 \theta_i をとると \theta_i = \omega_i t + \delta_i と書け、図の 3 行目と 4 行目になります。これをリウビル–アーノルドの定理と呼びます。リウビルが 1855 年に積分で解けることを示し、アーノルドが 1963 年にトーラスの形を明らかにしました。

可積分系では、運動は n 個の作用変数で決まるトーラスの上にあり、残りの n 個の角変数が一定の速さで進むだけです。

3 次元の中心力の運動は自由度 3 で、エネルギー、角運動量の大きさの 2 乗 L^2、その 1 つの成分 L_z の 3 つが、たがいに括弧 0 の保存量です。ポアソン括弧の記事で見た \{L^2, L_z\} = 0 が、ここで使われます。重力のもとで回るこまが可積分になるのはオイラー、ラグランジュ、コワレフスカヤの 3 つの場合だけで、コワレフスカヤは 1888 年にその 3 つ目を見つけました。

ほとんどの系はこの条件を満たしません。保存量が足りないと、軌道はトーラスの上にとどまらず、エネルギーが等しい面の上を不規則に動き回ります。3 つの天体が引き合う運動について、1887 年にブルンスは代数的な保存量がほかにないことを、1890 年にポアンカレは解の振る舞いがきわめて複雑になることを示しました。二重振り子の記事で見るカオスも、可積分でない系の運動です。

可積分系に小さなずれを加えた系については、1954 年のコルモゴロフに始まり、1960 年代にアーノルドとモーザーが証明した KAM 定理があります。ずれが小さければ、振動数の比が有理数から十分に遠いトーラスの多くは、形を少し変えて残ります。

変分原理
ラグランジュ形式
ハミルトン形式
正準変換
応用
中心力と回転座標系
非線形の運動