剛体の回転

軸を固定すると角 1 つで決まる

剛体とは、どの 2 点のあいだの距離も変わらない物体のことです。たくさんの質点からできていても、距離がすべて決まっているので、動かせるのは重心の位置の 3 つと、向きの 3 つの、合わせて 6 つだけです。向きの 3 つは、飛行機でいえば機首の左右の向き、上下の向き、胴体のまわりの傾きにあたります。

軸を 1 本に固定すると、残る自由度は 1 つです。軸のまわりの回転の角 \theta を決めれば、剛体のどの点の位置も決まります。振り子と同じく、一般化座標が 1 つの問題です。

図の板は、中心を通って画面に垂直な軸のまわりを、1 秒に 0.7 rad の速さで回っていて、1 周に 9.0 秒かかります。印を付けた点は、中心からの距離 r を保ったまま円を描きます。どの点も角の速さ \dot\theta は同じで、速さは r\dot\theta です。

向きの 3 つの自由度は、オイラーが 1765 年の著書で使った 3 つの角で表せます。これをオイラー角と呼びます。軸を固定した回転は、そのうちの 1 つの角だけが動く場合です。

慣性モーメント

運動エネルギーを書きます。質点 i の速さは r_i\dot\theta なので T = \sum m_i r_i^2\dot\theta^2/2 です。\dot\theta はすべての点で同じなので外へ出せて、T = I\dot\theta^2/2 になります。ここで I = \sum m_i r_i^2 を慣性モーメントと呼び、単位は kg·m² です。

慣性モーメントは、各点の質量に軸からの距離の 2 乗を掛けて足し合わせたものです。同じ質量でも、軸から遠くに分布しているほど大きくなります。

図の左と右は、質量 0.25 のおもり 4 つを、軸から 0.3 と 0.66 の距離に置いたものです。慣性モーメントは 0.09 と 0.44 で、4.84 倍違います。同じ力のモーメントを加えると、角加速度は慣性モーメントに反比例するので、左は右の 4.84 倍の角加速度で回りだします。

質量 M の物体の、重心を通る軸のまわりの慣性モーメントを I_G とすると、そこから距離 h だけ離れた平行な軸のまわりでは I = I_G + Mh^2 です。長さ \ell の一様な棒では、中心のまわりが M\ell^2/12、端のまわりが M\ell^2/3 です。

半径 R の円板と輪では、同じ質量でも慣性モーメントは MR^2/2 と MR^2 です。同じ斜面を転がすと、慣性モーメントの小さい円板のほうが速く下ります。地球の慣性モーメントは 8.0 \times 10^{37} kg·m² で、一様な球の 2MR^2/5 より小さく、中心ほど密度が高いことがわかります。

フィギュアスケートの選手が腕を縮めると速く回るのは、外から力のモーメントを受けないあいだ、角運動量 I\dot\theta が保存するからです。腕を縮めて I が小さくなると、\dot\theta が大きくなります。

質点と同じ形の運動方程式

ラグランジアン L = I\dot\theta^2/2 - U(\theta) をオイラー–ラグランジュ方程式に入れると、I\ddot\theta = -\partial U/\partial\theta が得られます。右辺は軸のまわりの力のモーメント N です。図の 1 行目から 3 行目です。

質点の m\ddot x = F と比べると、質量が慣性モーメントに、力が力のモーメントに置きかわっただけで、同じ形をしています。どの一般化座標でも、オイラー–ラグランジュ方程式が同じ形で成り立つからです。一般化運動量 \partial L/\partial \dot\theta = I\dot\theta は軸のまわりの角運動量で、U が \theta を含まなければ保存します。

支点から吊るした剛体を振らせると、重心が支点から h の距離にあるとき U = -Mgh\cos\theta で、\ddot\theta = -(Mgh/I)\sin\theta になります。図の 4 行目です。これを実体振り子と呼びます。単振り子と同じ形で、糸の長さにあたる I/(Mh) を相当単振り子の長さと呼びます。

質量がすべて重心に集まっていれば I = Mh^2 で、相当単振り子の長さは h になり、単振り子そのものです。長さ 1 m の一様な棒を端で吊るすと、I = M\ell^2/3、h = \ell/2 なので、相当単振り子の長さは 2\ell/3 = 0.667 m で、小さく振れるときの周期は 1.64 秒です。

実体振り子を上下逆さに吊り直しても周期が変わらない 2 つの支点の距離は、相当単振り子の長さに等しくなります。1817 年にケーターは、この性質を使った振り子で重力加速度を精密に測りました。

軸が自由なこまの歳差

軸を固定しないと、向きを表すのに 3 つの角が必要です。こまの運動は、鉛直からの軸の傾きの角 \theta、軸が鉛直のまわりを回る角 \varphi、こま自身の回転の角の 3 つで表します。

速く回っているこまは、傾いたまま倒れずに、軸の先が水平な円を描いて回ります。これを歳差と呼びます。図の軸は鉛直から 0.62 rad、およそ 36° 傾いています。

重力は支点のまわりに、こまを倒す向きの力のモーメントを作ります。速く回るこまの角運動量は軸の向きを向いていて、力のモーメントは角運動量に垂直なので、角運動量の大きさは変えずに、向きだけを水平に変えていきます。その結果、軸は倒れずに鉛直のまわりを回ります。

歳差の角の速さは \dot\varphi = Mgh/(I_3\omega_3) です。I_3 は軸のまわりの慣性モーメント、\omega_3 はこま自身の回転の角の速さで、こま自身の回転が十分に速いときの近似です。速く回るほど歳差はゆっくりになり、回転が遅くなると歳差が速くなって、やがてこまは倒れます。

速く回る円板の軸の向きが変わりにくいことは、ジャイロスコープとして、船や飛行機で向きを知るのに使われてきました。外から力のモーメントを受けない剛体でも、軸のまわりの慣性モーメントが向きによって違うと、回転の軸は動きます。そのようすは剛体の自由回転の記事で扱います。

地球の自転軸も、月と太陽が赤道のふくらみに及ぼす力のモーメントによって、約 2 万 6000 年で 1 周する歳差をしています。そのため天の北極の近くにある星は時代とともに変わり、約 1 万 2000 年のちには、こと座のベガが天の北極の近くに来ます。

変分原理
ラグランジュ形式
ハミルトン形式
正準変換
応用
中心力と回転座標系
非線形の運動