下に凸な曲線 f(v) を考えます。ふつうは v ごとの値 f(v) で曲線を表しますが、各点で引いた接線の集まりで表すこともできます。曲線は接線の集まりの包絡線なので、すべての接線がわかれば曲線も決まります。
接線は傾きと切片で決まります。傾き p の接線が点 v で曲線に接しているとき、その切片は f(v) - pv です。符号を変えた g(p) = pv - f(v) を p の関数とみたものを、f のルジャンドル変換と呼びます。図で接線が縦軸と交わる点が -g(p) です。
図の曲線は f(v) = v^2/2 です。傾きは p = v なので g(p) = p \cdot p - p^2/2 = p^2/2 となり、この場合は f と同じ形の関数になります。接点を動かしても、切片 -p^2/2 はいつも原点より下にあります。
いつも同じ形になるわけではありません。f(v) = e^v では p = e^v なので v = \ln p となり、g(p) = p\ln p - p です。
g をもう一度ルジャンドル変換すると、もとの f に戻ります。dg/dp = v となるので、f(v) = pv - g(p) が成り立つからです。ルジャンドル変換は、情報を失わずに変数を v から傾き p に取りかえる操作です。
下に凸であることは、傾きから接点が 1 つに決まるために必要です。下に凸でない曲線では、同じ傾きの接線を 2 か所以上で引けてしまいます。
この変換は、ルジャンドルが 1787 年に偏微分方程式の研究で使ったものです。熱力学で内部エネルギーからヘルムホルツの自由エネルギーやエンタルピーを作る操作も、同じルジャンドル変換です。
ラグランジアンを、位置を固定して速度の関数として見ます。ばね振り子では L = m\dot q^2/2 - kq^2/2 なので、\dot q について下に凸な放物線です。位置 q が変わると、放物線は -kq^2/2 だけ上下に動き、形は変わりません。
この放物線の接線の傾きが p = \partial L/\partial \dot q で、一般化運動量と呼びます。図の接点がいまの速度、接線の傾きがいまの p です。図の下の数は、質量とばね定数を 1 としたときの q と p です。
ばね振り子では p = m\dot q で、質量と速度の積になります。いつもそうなるわけではなく、極座標の角では p_\theta = mr^2\dot\theta で角運動量になり、電磁場の中の荷電粒子では \vec p = m\vec v + q\vec A です。
相対論の自由な粒子では L = -mc^2\sqrt{1 - v^2/c^2} で、p = mv/\sqrt{1 - v^2/c^2} です。速さが光速 c に近づくと、p は mv よりずっと大きくなります。
L が \dot q について下に凸なら、p と \dot q は 1 対 1 に対応し、\dot q を q と p で表せます。運動エネルギーが速度の 2 次式で係数が正なら、この条件はいつも満たされます。
L を \dot q についてルジャンドル変換したもの H(q, p) = p\dot q - L を、ハミルトニアンと呼びます。図の上は速度で表したラグランジアン、下は運動量で表したハミルトニアンで、同じ状態を 2 通りに表しています。
ばね振り子では H = p^2/2m + kq^2/2 です。L で引いていた kq^2/2 が、H では足されています。運動エネルギーと位置エネルギーの和なので、H はエネルギーそのものです。
図の下の点の高さは、振り子が動いても 0.361 のまま変わりません。放物線が上下に動き、点が左右に動いても、その高さはいつもエネルギーです。上の点の高さ L のほうは、-0.361 から 0.361 までのあいだで変わります。
q を固定したとき、H は p\dot q - L を \dot q について最大にした値です。L が下に凸なので、最大になるのは L の接線の傾きが p に等しいところで、これが p = \partial L/\partial \dot q の意味です。
H がエネルギー T + U に一致するのは、T が速度の 2 次式で、U が速度を含まず、一般化座標と直交座標の関係が時刻を含まないときです。回る台の上の座標や、時刻とともに動く拘束がある場合は、H は T + U と違う量になります。
H が時刻をあらわに含まなければ、H は保存します。ネーターの定理の記事で時刻のずらしから導いた E = \dot q\,\partial L/\partial \dot q - L は、H を q と \dot q で書いたものと同じです。
手順は 3 つです。まず p = \partial L/\partial \dot q を計算し、それを \dot q について解いて、\dot q を q と p で表します。図の 1 行目です。次に H = p\dot q - L に代入し、\dot q をすべて q と p で書きかえます。図の 2 行目です。
H に \dot q を残してはいけません。H は q と p の関数で、次の記事の正準方程式は、H を q と p で偏微分して作るからです。
ばね振り子では、p = m\dot q から \dot q = p/m です。代入すると H = p^2/m - (p^2/2m - kq^2/2) となり、整理すると H = p^2/2m + kq^2/2 です。図の 3 行目と 4 行目です。
中心力の極座標 L = m(\dot r^2 + r^2\dot\theta^2)/2 - U(r) でも同じ手順で、p_r = m\dot r、p_\theta = mr^2\dot\theta から H = p_r^2/2m + p_\theta^2/(2mr^2) + U(r) が得られます。座標が 2 つあるときは、p\dot q を座標ごとに足します。
電磁場の中の荷電粒子では、\vec p = m\vec v + q\vec A から \vec v = (\vec p - q\vec A)/m となり、H = (\vec p - q\vec A)^2/2m + q\phi が得られます。相対論の自由な粒子では H = \sqrt{p^2c^2 + m^2c^4} で、止まっているときも mc^2 が残ります。