ネーターの定理

ラグランジアンに現れない座標

中心からの距離だけで決まる力を中心力と呼びます。太陽が惑星を引く力や、原子核が電子を引く力がその例です。中心力を受ける質点の運動を、中心を原点とする極座標 r、\theta で書きます。

速さの 2 乗は \dot r^2 + r^2\dot\theta^2 で、位置エネルギーは距離だけの関数 U(r) なので、ラグランジアンは図の式 L = m(\dot r^2 + r^2\dot\theta^2)/2 - U(r) になります。

この式には \dot\theta は現れますが、\theta そのものは現れません。力が距離だけで決まり、質点がどの向きにいても式が同じだからです。L に現れない座標を循環座標と呼びます。

\theta が現れないことは、\theta を一定の角 a だけずらして \theta + a にしても L が変わらない、と言いかえられます。この系は、原点のまわりの回転について対称です。

図の軌道は離心率 0.55 の楕円で、原点はその焦点にあります。位置エネルギーが距離に反比例する場合の軌道で、この形になることはケプラー問題の記事で導きます。

角運動量が保存する

\theta についてのオイラー–ラグランジュ方程式は \dfrac{d}{dt}\dfrac{\partial L}{\partial \dot\theta} = \dfrac{\partial L}{\partial \theta} です。L に \theta が現れないので右辺は 0 で、p_\theta = \partial L/\partial \dot\theta = mr^2\dot\theta は時間によらず一定です。これが原点のまわりの角運動量です。

一般に、L に現れない座標 q があれば、それに対応する一般化運動量 p = \partial L/\partial \dot q が保存します。運動方程式を解かなくても、L の形を見るだけでわかります。

r^2\dot\theta/2 は、原点から質点へ引いた線分が単位時間に掃く面積です。p_\theta が一定なので、この面積速度も一定で、同じ時間に掃く面積はどこでも同じです。これは、ケプラーが 1609 年に『新天文学』で発表した第 2 法則です。

図の 2 つの塗りは、どちらも 1 周の 8 分の 1 の時間に掃いたところです。原点に近いところでは質点が速く、塗りは 110° に広がっています。遠いところでは 16° の細長い形ですが、面積はどちらも楕円の 8 分の 1 です。

質量を 1 とした図の軌道では、原点に最も近い点で速さが 2.5、最も遠い点で 0.73 で、距離の比と同じ 3.4 倍違います。地球では、太陽に最も近づく 1 月はじめに秒速 30.3 km、最も遠ざかる 7 月はじめに秒速 29.3 km です。

この結果は U(r) の形によらず、中心力であれば成り立ちます。地球の扁平さによる位置エネルギーのように、地軸のまわりの回転についてだけ対称な場合は、人工衛星の角運動量のうち地軸の向きの成分だけが保存し、軌道面は少しずつ回っていきます。

時刻についての対称性とエネルギー

同じことが時刻についても言えます。L が時刻 t をあらわに含まず、t を t + a にずらしても形が変わらないとき、E = \dot q\,\partial L/\partial \dot q - L が保存します。座標がいくつもあるときは、\dot q\,\partial L/\partial \dot q を座標ごとに足し合わせます。

確かめます。L の時間微分は、q を通した変化 (\partial L/\partial q)\dot q と、\dot q を通した変化 (\partial L/\partial \dot q)\ddot q の和です。前者の \partial L/\partial q をオイラー–ラグランジュ方程式で \dfrac{d}{dt}\dfrac{\partial L}{\partial \dot q} に置きかえると、和は \dot q\,\partial L/\partial \dot q の時間微分になり、E の時間微分は 0 です。

図の 3 つの数は、質量を 1 とした T、U と、その和です。原点に最も近いところでは T = 3.125、U = -4.032、最も遠いところでは T = 0.263、U = -1.171 で、和はどちらも -0.907 です。

この例では E は T + U に一致します。一致するのは、T が速度の 2 次式で、U が速度を含まないときです。回る台の上に座標をとった場合や、次の記事のように U が速度を含む場合は、保存する E が T + U と違う形になります。

対称性 1 つに保存量 1 つ

ここまでの 2 つは同じ形をしています。座標や時刻をずらす変換で L が変わらないなら、それに対応する量が保存します。これがネーターの定理です。図の 1 行目は、座標が L に現れないときの最も簡単な形です。

場所を x \to x + a とずらしても変わらなければ運動量 p = m\dot x が、向きを \theta \to \theta + a と回しても変わらなければ角運動量が、時刻を t \to t + a とずらしても変わらなければエネルギーが保存します。図の 2 行目から 4 行目です。

座標を q_i \to q_i + aK_i(q) とずらす一般の変換では、保存する量は Q = \sum_i (\partial L/\partial \dot q_i)K_i です。平面の回転では K_x = -y、K_y = x なので Q = xp_y - yp_x となり、直交座標で書いた角運動量が得られます。

対称性の一部だけが残ることもあります。地面の近くで投げた物体では、L は水平な座標 x を含まないので水平の運動量は保存しますが、高さ y は含むので鉛直の運動量は保存しません。

この定理は、エミー・ネーターが 1918 年の論文『不変な変分問題』で示しました。ヒルベルトとクラインから、一般相対性理論でのエネルギーの保存について相談を受けたことがきっかけでした。

保存量を見つけるのに、運動方程式を解く必要はありません。L がどの変換で変わらないかを調べれば済みます。方程式が解けない運動でも、保存量から、運動できる範囲がわかることがよくあります。

変分原理
ラグランジュ形式
ハミルトン形式
正準変換
応用
中心力と回転座標系
非線形の運動