パラメトリック共振

ブランコをこぐ

ブランコに乗った人は、地面をけらなくても、立ったりしゃがんだりするだけで振れを大きくできます。立ったりしゃがんだりすると重心の高さが変わり、振り子の長さが変わります。

糸の長さ l が時間で変わる振り子の運動方程式は、\ddot\theta = -\dfrac{g}{l}\sin\theta - \dfrac{2\dot l}{l}\dot\theta です。右辺の 2 つ目の項は、支点のまわりの角運動量 ml^2\dot\theta の変化が、重力の力のモーメントだけで決まることから出てきます。

おもりが真下を通るときに糸を短くすると、糸を引く力に逆らって仕事をすることになり、運動エネルギーが増えます。両端で止まっているときに糸を伸ばしても、そのときの張力は小さいので、失うエネルギーは少なくてすみます。1 往復のあいだにこれを 2 回くり返すと、振れはしだいに大きくなります。

図は l = l_0(1 + \varepsilon\cos 2\omega_0 t)、\varepsilon = 0.08 として長さを変えた振り子で、はじめ 0.06 rad だった振れが大きくなっていきます。長さを変える周期は、振り子の周期の半分です。振れが大きくなると振り子の周期が長くなり、長さを変える時刻とずれてくるので、振れはいつまでも大きくなるわけではありません。

外から振動する力を加えるのではなく、振動のしかたを決める量を周期的に変えて振動を起こすことを、パラメトリック励振といいます。それによって振れが大きくなることを、パラメトリック共振といいます。

マシューの方程式

振れが小さいとき、振動数を周期的に変えた振動は \ddot x + \omega_0^2(1 + h\cos\gamma t)x = 0 と書けます。この形の方程式をマシューの方程式といい、1868 年にマシューが楕円形の膜の振動を調べるなかで扱いました。

\gamma が 2\omega_0 に近いとき、解は振動しながら指数関数的に大きくなります。h が小さければ、\gamma = 2\omega_0 での振れの大きさは、およそ e^{h\omega_0t/4} の割合で大きくなります。図は \gamma = 2\omega_0 と \gamma = 1.6\omega_0 の場合を交互に見せていて、h = 0.2 です。\gamma = 2\omega_0 のときの点線が、この式です。

\gamma = 1.6\omega_0 のように 2 倍から離れると、解は大きくならず、少しうなりながら振動を続けます。外から力を加える共振では、力の振動数が \omega_0 に近いときに振れが大きくなりますが、パラメトリック共振は 2\omega_0 の近くで起こります。

外から力を加える共振では、減衰がなければ、振れは時間に比例して大きくなります。パラメトリック共振では、振れが大きいほど育ち方も速くなるので、指数関数的に大きくなります。また、はじめに少しも振れていなければ、振れは生まれません。x = 0 も、方程式の解だからです。

振れが育つ範囲

時間を \gamma t で測りなおすと、方程式は \ddot x + (\delta + \varepsilon\cos t)x = 0 の形になります。\delta = \left(\dfrac{\omega_0}{\gamma}\right)^2、\varepsilon = h\delta です。

係数が周期 2\pi で変わる方程式の解は、1 周期ごとに、決まった行列を掛けた形で進みます(フロケの定理)。この行列の対角和の絶対値が 2 を超えると、解は 1 周期ごとに一定の倍率で大きくなり、2 以下なら大きくなりません。図は、(\delta, \varepsilon) の 1 点ごとにこれを計算して、解が大きくなる範囲を塗ったものです。

塗った範囲は、横軸の \delta = \dfrac{n^2}{4}(n = 1, 2, 3, \dots)の点から、\varepsilon が大きくなるほど幅が広がっていく形をしています。n = 1 は \gamma = 2\omega_0、n = 2 は \gamma = \omega_0、n = 3 は \gamma = \dfrac{2}{3}\omega_0 にあたり、変える周期が、振動の半周期の整数倍になるところです。

\varepsilon が小さいとき、いちばん広い n = 1 の範囲は、およそ \dfrac{1}{4} - \dfrac{\varepsilon}{2} < \delta < \dfrac{1}{4} + \dfrac{\varepsilon}{2} です。n が大きいほど範囲は細く、\varepsilon を大きくしないと解は大きくなりません。図の点は \varepsilon = 0.45 の線の上を動き、塗った範囲に入ると不安定になります。

摩擦があると、範囲の下の端が持ち上がり、\varepsilon がある大きさを超えないと振れは育たなくなります。

逆さに立つ振り子

逆さに立てた振り子は、少しでも傾くと倒れます。ところが、支点を上下に速く振ると、逆さのまま立ち続けるようになります。1908 年にスティーブンソンが見つけ、1951 年にカピッツァがくわしく調べたので、カピッツァの振り子と呼ばれます。

支点を a\cos\omega t だけ上下に動かすと、支点とともに動く座標では、重力に a\omega^2\cos\omega t の見かけの力が加わります。真上から測った角を \varphi とすると、\ddot\varphi = \dfrac{g - a\omega^2\cos\omega t}{l}\sin\varphi です。マシューの方程式と同じく、係数が周期的に変わる方程式です。

速い動きを 1 周期について平均すると、振り子は有効ポテンシャル U_\mathrm{eff} = mgl\cos\varphi + \dfrac{ma^2\omega^2}{4}\sin^2\varphi の中を動くことになります。2 つ目の項は速い振動の運動エネルギーの平均から来ていて、真上の \varphi = 0 を谷にします。

真上が谷になる条件は a^2\omega^2 > 2gl です。図の右は、長さ l の 10 分の 1 の振れ幅で支点を振り、a^2\omega^2 を 2gl の 4.5 倍にしたものです。左の支点が止まった振り子は倒れますが、右は真上のまわりをゆっくり揺れ続けます。

振動数の半分で応える

パラメトリック共振で育つ振動の振動数は、変える量の振動数の半分です。図の上は振動のしかたを決める量 \omega^2(t)、下は育つ振動 x(t) で、点線の時刻ごとに、x は山と谷を交互にとります。

1831 年、ファラデーは、液体を入れた容器を上下に振ると、振る振動数の半分の振動数で表面に波が立つことを見つけました。この波はファラデー波と呼ばれ、パラメトリック共振の例です。

電荷を持つ粒子を、速く向きの変わる電場で閉じこめる装置を、パウルトラップといいます。粒子の運動はマシューの方程式にしたがい、解が大きくならない範囲に入るように、電場の大きさと振動数を選びます。パウルは、この装置の開発で 1989 年にノーベル物理学賞を受けました。

船が波を受けるとき、出会う波の周期が横揺れの周期の半分に近いと、横揺れを戻す力の大きさが周期的に変わり、横揺れが急に大きくなることがあります。パラメトリック横揺れと呼ばれ、コンテナ船の事故の原因になったことがあります。

スペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂の大きな香炉は、つるした綱を周期的に引いて長さを変え、天井近くまで大きく振られます。ブランコをこぐのと同じ仕組みです。

変分原理
ラグランジュ形式
ハミルトン形式
正準変換
応用
中心力と回転座標系
非線形の運動