ここまで扱ってきた力は、ばねの力も重力も、位置が決まれば向きと大きさが決まるものでした。磁場から受ける力は違い、同じ場所でも速度が変われば力も変わります。電荷 q の粒子が磁場 \vec B の中を速度 \vec v で動くと、力 \vec F = q\vec v \times \vec B を受けます。
図は一様な磁場の中を回る荷電粒子です。磁場は画面の奥から手前へ向いていて、丸の中に点を打った印がその向きを表します。電荷が正なので、粒子は時計回りに回ります。力の矢印は、進む向きの矢印といつも直角です。
直角なので、力と速度の内積はいつも 0 で、磁場の力は仕事をしません。図の上の数 \vec F \cdot \vec v は 0.00 のまま、速さ v は 0.50 のままです。向きだけが変わるので、粒子は同じ半径の円を回り続けます。
円の半径は r = mv/(qB)、1 周の時間は 2\pi m/(qB) で、周期は速さによりません。磁場 1 T の中の電子は 1 秒に 2.8 \times 10^{10} 回まわり、速さが 10^6 m/s なら半径は 5.7 μm です。1930 年代のはじめにローレンスが作ったサイクロトロンは、周期が速さによらないことを使って陽子を加速しました。
速さが変わらないので、エネルギーの式に磁場は入りません。それでも力は働いているので、この力をラグランジアンに入れるには、位置エネルギーが速度を含んでもよいことにする必要があります。
磁場 \vec B のかわりに、\nabla \times \vec A = \vec B を満たすベクトルポテンシャル \vec A を使います。図の細い矢印は \vec A = (-By/2, Bx/2, 0) で、原点のまわりを反時計回りに回る向きに並び、原点から離れるほど長くなっています。
ラグランジアンに加えるのは q\vec A \cdot \vec v という項です。場と速度の内積なので、粒子がどこにいるかだけでなく、どの向きに動いているかでも値が変わります。図の上の数がそれで、円を回るあいだに -0.189 から -0.061 まで変わります。
電場の電位を \phi とすると、ラグランジアンは L = mv^2/2 - q\phi + q\vec A \cdot \vec v です。U = q\phi - q\vec A \cdot \vec v とおけば L = T - U の形のままで、U が速度を含むようになっただけです。オイラー–ラグランジュ方程式は L の形によらずに導いたので、そのまま使えます。
\vec A は 1 つに決まりません。関数 \chi を使って \vec A を \vec A + \nabla\chi に、\phi を \phi - \partial\chi/\partial t に取りかえても、電場と磁場は変わりません。これをゲージ変換と呼びます。このとき L は q\,d\chi/dt だけ変わりますが、時間微分を足しても作用は両端の値しか変わらないので、運動方程式は同じです。
L を速度で微分したものが正準運動量です。ポテンシャルが速度を含むので、q\vec A \cdot \vec v からも項が加わり、\vec p = m\vec v + q\vec A になります。質量と速度の積 m\vec v は、正準運動量と区別して力学的運動量と呼びます。
図では粒子から 3 本の矢印を描いています。進む向きの m\vec v、場の向きの q\vec A、その和の \vec p です。m|\vec v| は 0.50 のままですが、|\vec p| は回るあいだ 0.12 から 0.38 まで変わり、向きも進む向きからずれています。
2 つは役割が違います。運動エネルギー mv^2/2 を決めるのは m\vec v で、座標が L に現れないときに保存するのは正準運動量です。この図の \vec A は原点のまわりの回転について対称なので、原点のまわりの正準角運動量 xp_y - yp_x が保存します。
同じ磁場を \vec A = (-By, 0, 0) で表すと、L は x を含まないので、p_x = mv_x - qBy が保存します。この値は円の中心の y 座標に -qB を掛けたもので、どこを中心に回るかを表しています。\vec A の選び方によって、どの正準運動量が保存するかも変わります。
\vec p の値はゲージの取り方で変わるので、それだけでは測れる量になりません。量子力学では運動量の演算子が \vec p に対応し、ハミルトニアンは (\vec p - q\vec A)^2/2m の形になります。1959 年にアハラノフとボームは、磁場のないところを通る電子でも、\vec A によって干渉縞がずれることを予言し、1986 年に外村彰らがこれを確かめました。
ラグランジアンを x、y、z のそれぞれについてオイラー–ラグランジュ方程式に入れると、図の 3 行目になります。左辺は正準運動量 m\vec v + q\vec A の時間微分で、右辺は L を位置で微分したものです。
\vec A は場所の関数なので、粒子が動くと、粒子のいる場所の \vec A も変わります。そのため d\vec A/dt = \partial\vec A/\partial t + (\vec v \cdot \nabla)\vec A です。右辺の \nabla(\vec A \cdot \vec v) は、ベクトルの公式で (\vec v \cdot \nabla)\vec A + \vec v \times (\nabla \times \vec A) に分けられます。
両辺の (\vec v \cdot \nabla)\vec A は打ち消し合います。残りを \vec E = -\nabla\phi - \partial\vec A/\partial t と \vec B = \nabla \times \vec A でまとめると、図の 4 行目 m\,d\vec v/dt = q(\vec E + \vec v \times \vec B) が得られます。これがローレンツ力です。
電場と磁場が時間によらないとき、ネーターの定理のエネルギー \vec v \cdot \partial L/\partial \vec v - L を計算すると mv^2/2 + q\phi となり、\vec A を含む項は残りません。磁場が仕事をしないことと合っています。T + U には -q\vec A \cdot \vec v が入るので、保存する量は T + U とは違います。
摩擦のように運動のエネルギーを熱に変える力は、このようなポテンシャルで書けません。そうした力は、ラグランジアンとは別にレイリーの散逸関数を用意して、方程式に加えて扱います。磁場の力をラグランジアンに入れられたのは、仕事をしない力で、速度を含むポテンシャルで書けたからです。