最小作用の原理

両端を決めても、道は 1 本に決まらない

ニュートンの運動方程式 m\ddot q = F は、ある時刻に働く力から、その時刻の加速度を決めます。初めの位置と速度を与えれば、時刻を少しずつ進めていくことで、道が 1 本に決まります。解析力学の基本になる最小作用の原理は、これとは違う問い方をします。

出発の時刻と位置、到着の時刻と位置を先に決めておき、そのあいだをどう動いたかを、道全体で比べます。図の横軸は時刻 t、縦軸は高さ q で、どの道も同じ時刻に点 \mathrm{A} を出て、同じ時刻に点 \mathrm{B} に着きます。両端が同じでも、途中の道はいくらでも引けます。

図の本当の運動は、真上へ投げた質点が、投げた高さに戻ってくるまでの動きです。本当の道は放物線ですが、図に重ねたほかの道も両端の条件を満たしているので、両端だけを見ても区別できません。この中から本当の道を選ぶために、道 1 本ごとに数を 1 つ決め、その数の性質を調べます。

ここでは q を高さとしましたが、以下の話は q が振り子の角度でも、ばねの伸びでも同じように成り立ちます。物体の配置を表す量なら何でもよく、このような座標を一般化座標と呼びます。一般化座標は次の記事で詳しく扱います。

道全体を比べる考え方は、光について先に現れました。1662 年、フェルマーは、光は 2 点のあいだを、かかる時間が最も短い道を通ると考えて、屈折の法則を導きました。力学では 1744 年に、モーペルテュイとオイラーがそれぞれ、速さと道のりの積を足し合わせた量が本当の運動で最小になると述べています。

道 1 本ごとに決まる作用

各時刻で、運動エネルギー T から位置エネルギー U を引いた L = T - U を考えます。これをラグランジアンと呼びます。質量 m の質点を真上へ投げた場合は、重力加速度を g として、T = m\dot q^2/2、U = mgq です。

道を 1 本決めると、各時刻の q と \dot q が決まるので、L の値も時刻ごとに決まります。図の上のグラフが道で、下のグラフがその道に沿った L の値です。上の道が動くと、下のグラフの形も変わります。

L を出発の時刻 t_1 から到着の時刻 t_2 まで積分した S = \int_{t_1}^{t_2} L\,dt を作用と呼びます。下のグラフで塗ってあるところの面積で、横軸より下のところは負に数えます。2 つのグラフのあいだに書いた数が、いまの道の作用です。

道を 1 本決めると S が 1 つ決まります。このように、関数に数を 1 つ対応させるものを汎関数と呼びます。図では質量と重力加速度を 1、出発から到着までの時間を 2 にとっていて、本当の道は q = t - t^2/2、作用は -1/3 です。道をどちらへずらしても、図の数は -0.333 より大きくなります。

作用の単位はエネルギーと時間の積で、J·s です。量子力学に現れるプランク定数 h = 6.63 \times 10^{-34} J·s も同じ単位を持ち、作用の量子と呼ばれることがあります。

道をずらす

本当の道を q(t) とし、そこから少しずらした道を q(t) + \varepsilon\eta(t) と書きます。\eta(t) はずらし方の形を表す関数で、\varepsilon はずらす大きさを表す数です。図の縦の線は、各時刻のずれ \varepsilon\eta(t) を表しています。

出発と到着の位置は先に決めてあるので、両端は動かせません。そこで \eta は、\eta(t_1) = \eta(t_2) = 0 を満たす関数だけを考えます。図の下の曲線は \varepsilon\eta(t) の形で、両端で 0 になっています。この図では \eta = \sin(\pi t/2) を使っています。

両端で 0 でさえあれば、\eta はどんな形でもかまいません。途中で何度も符号が変わる形でも、ある時刻のまわりだけで 0 でない形でもよく、この選び方の自由さを、最後の場面で方程式を導くときに使います。

ずらしたことによる変化は \delta で表し、\delta q = \varepsilon\eta と書きます。微分の d が時刻を進めたときの変化を表すのに対して、\delta は時刻を変えずに道を取りかえたときの変化を表します。作用の変化は \delta S と書きます。

本当の道では S が停留する

ずらす大きさ \varepsilon を横軸に、そのときの作用 S(\varepsilon) を縦軸にとったのが図です。動いている点は \varepsilon を変えたときの作用の値で、そこに引いた線分は、その点での接線です。

図の道では、作用はちょうど S(\varepsilon) = -1/3 + (\pi^2/8)\varepsilon^2 になります。\varepsilon の 1 次の項がないので、\varepsilon = 0 で接線が水平になり、\varepsilon が小さいうちは、S の変化は \varepsilon^2 に比例する大きさしかありません。1 次の項がないのは、q(t) が本当の道だからです。

本当の運動では、どんな \eta でずらしても、作用の 1 次の変化が 0 になります。これを \delta S = 0 と書き、最小作用の原理と呼びます。作用を \int L\,dt の形に書いたのは 1834 年のハミルトンで、ハミルトンの原理とも呼びます。

名前には「最小」とありますが、方程式を導くのに使うのは、1 次の変化が 0 になることだけです。ばねにつながれたおもりでは、出発から到着までの時間が振動の半周期より長いと、作用をさらに小さくするずらし方が現れ、本当の道で作用は最小にならなくなります。そのため、停留作用の原理と呼ぶほうが正確です。

投げた質点では、位置エネルギーが q の 1 次式なので、\varepsilon^2 の項は運動エネルギーからしか生じません。その係数 (m/2)\int\dot\eta^2\,dt はいつも正なので、どうずらしても作用は増え、この例では本当の道で作用が最小になります。

オイラー–ラグランジュ方程式

S(\varepsilon) を \varepsilon で微分して \varepsilon = 0 とおき、それが 0 になる条件を書きます。L の中では q と \dot q の両方がずれるので、\partial L/\partial q に \eta を掛けた項と、\partial L/\partial \dot q に \dot\eta を掛けた項が現れます。図の 1 行目です。

2 つ目の項を部分積分すると、\dot\eta が \eta に変わり、かわりに両端での値 (\partial L/\partial \dot q)\eta が残ります。\eta は両端で 0 なので、この値も 0 です。残った積分を \eta でくくったのが図の 2 行目です。

2 行目は、両端で 0 になるどんな \eta についても成り立ちます。もしある時刻でかっこの中が正なら、その時刻のまわりだけで正になる \eta を選ぶと、積分は正になってしまいます。負の場合も同じなので、かっこの中は各時刻で 0 でなければなりません。これがオイラー–ラグランジュ方程式で、図の 3 行目です。

真上へ投げた質点では \partial L/\partial \dot q = m\dot q、\partial L/\partial q = -mg なので、方程式は m\ddot q = -mg となり、ニュートンの運動方程式と一致します。図の 4 行目です。もし和 T + U を使うと m\ddot q = mg となり、質点は上へ加速していきます。L を差にとるのはこのためです。

一般に L = m\dot q^2/2 - U(q) なら、方程式は m\ddot q = -\partial U/\partial q で、右辺は力です。座標が q_1, q_2, \dots, q_n と n 個あるときは、ずらし方を座標ごとに別々に選べるので、方程式も n 本得られます。

この導き方は、19 歳のラグランジュが 1755 年にオイラーへ送った手紙に始まります。オイラーは同じ方程式を図形を使う方法で導いていましたが、ラグランジュの \delta を使う方法を取り入れ、のちにこの方法を変分法と名づけました。

変分原理
ラグランジュ形式
ハミルトン形式
正準変換
応用
中心力と回転座標系
非線形の運動