摩擦のない回る円盤の上を、玉が滑っていくとします。止まった座標から見ると、玉には力がはたらいていないので、玉はまっすぐ等速で進みます。ところが、円盤の上に乗って見ると、玉の通り道は曲がっています。図の左は止まった座標で、右は円盤の上の座標で見た、同じ運動です。
円盤の上の座標を (x, y) とし、円盤は角速度 \Omega で反時計回りに回っているとします。止まった座標での速度は、円盤の上での速度 \vec{v} に、円盤とともに回る速度 \vec{\Omega} \times \vec{r} を足したものです。ラグランジアンは L = \dfrac{m}{2}|\vec{v} + \vec{\Omega} \times \vec{r}|^2 - U になります。
2 乗をひらくと、L = \dfrac{m}{2}v^2 + m\vec{v} \cdot (\vec{\Omega} \times \vec{r}) + \dfrac{m}{2}|\vec{\Omega} \times \vec{r}|^2 - U です。止まった座標で書いたときにはなかった 2 つの項が加わっていて、これが見かけの力のもとになります。
一般化座標の記事で見たように、座標を取りかえてラグランジアンを書き直しても、オイラー・ラグランジュ方程式の形は変わりません。回る座標でも、同じ手順で運動方程式が出せます。ニュートンの運動方程式を回る座標へ直すより、ずっと少ない手間で計算できます。
3 つ目の項 \dfrac{m}{2}|\vec{\Omega} \times \vec{r}|^2 = \dfrac{m}{2}\Omega^2\rho^2 は、回転軸からの距離 \rho だけで決まります。符号を変えたものを位置エネルギー U_\mathrm{c} = -\dfrac{m}{2}\Omega^2\rho^2 とみなすことができ、ここから出る力は、回転軸から外向きの大きさ m\Omega^2\rho の力です。これを遠心力といいます。
回るバケツの水面は、重力と遠心力を合わせた力に、いつも垂直になります。重力の位置エネルギー mgz と U_\mathrm{c} の和が水面の上で一定になるので、水面の高さは z = z_0 + \dfrac{\Omega^2\rho^2}{2g} という放物線です。図の矢印は、水面の 1 点で重力と遠心力を足した向きで、水面に垂直になっています。
半径 10 cm のバケツを 1 秒に 1 回の速さで回すと、縁と中心の水面の高さの差は \dfrac{\Omega^2\rho^2}{2g} = 2.0 cm です。水の量は変わらないので、縁が上がると中心は下がります。
地球も 1 恒星日、23 時間 56 分で 1 回転しているので、地球の上で止まっている物体にも遠心力がはたらきます。赤道では \Omega^2R = 0.034 m/s² で、重力加速度の 0.35% です。地球の赤道半径が極半径より約 21 km 大きいのも、この遠心力のためです。
2 つ目の項 m\vec{v} \cdot (\vec{\Omega} \times \vec{r}) は、速度を含んでいます。オイラー・ラグランジュ方程式に入れると、-2m\vec{\Omega} \times \vec{v} という力が出てきます。これをコリオリ力といい、1835 年にコリオリが、回る座標での力学の式から導きました。
コリオリ力は速度に垂直で、仕事をしません。円盤が反時計回りに回っているときは、動く向きに対して右へ曲げる向きにはたらきます。図は、円盤の中心から外へ打ち出した玉を円盤の上から見たもので、2 本の矢印は速度とコリオリ力です。
この形は、電磁場中の荷電粒子の記事で見たものと同じです。ラグランジアンの q\vec{v} \cdot \vec{A} の項からは、ローレンツ力 q\vec{v} \times \vec{B} が出てきました。\vec{A} を \dfrac{m}{q}\vec{\Omega} \times \vec{r} に置きかえると \vec{B} は \dfrac{2m}{q}\vec{\Omega} になり、ローレンツ力はコリオリ力と同じ式になります。
止まった座標から見れば、玉はまっすぐ進んでいるだけです。回る座標で見たときに、座標そのものが回っていることを力として書き直したものが遠心力とコリオリ力で、見かけの力と呼ばれます。
回る座標の中で止まっている物体にはたらく見かけの力は、遠心力だけです。動きだすとコリオリ力が加わり、その大きさ 2m\Omega v は速さに比例します。
地球の自転の角速度は \Omega = 7.29 \times 10^{-5} rad/s です。緯度 \varphi の地面の上を水平に動く物体では、コリオリ力の水平な成分の大きさが 2m\Omega v\sin\varphi になります。北半球では動く向きの右へ、南半球では左へはたらきます。
緯度 35° を秒速 10 m で動く物体なら、コリオリ力による加速度は 8.4 \times 10^{-4} m/s² で、重力加速度の 1 万分の 1 ほどです。台所の流しの水が渦を巻く向きは、流しの形や水の動きで決まり、コリオリ力では決まりません。
小さな力でも、何時間も続けば大きな効果になります。北半球では、低気圧の中心へまわりから吹きこむ空気が右へ曲げられながら進むので、中心のまわりを反時計回りに回ります。南半球の低気圧は時計回りです。図は、中心へ向かう力、コリオリ力、地面との摩擦を受けて動く空気を描いたものです。
上空では摩擦が小さいので、気圧の差による力とコリオリ力が釣り合い、風は等圧線に沿って吹きます。これを地衡風といいます。
ほかから力を受けずに地面に沿って動く物体は、回る地球の上ではコリオリ力だけで向きを変え続け、円を描きます。1 周の時間は \dfrac{\pi}{\Omega\sin\varphi} で、緯度 35° では 20.9 時間です。海流の観測で、この慣性振動が見られます。
1851 年、フーコーはパリのパンテオンの天井から、長さ 67 m の針金で 28 kg のおもりをつるし、大きく振らせました。振り子の振れる面は、時間とともに少しずつ時計回りに回っていきました。天体を見ずに、地上の実験だけで地球の自転を示したものです。
北極に置いた振り子を考えるとわかりやすくなります。止まった座標から見ると、振り子は同じ面の中で振れ続け、その下で地球が 1 恒星日で 1 回転します。地球の上から見ると、振れる面が逆向き、つまり上から見て時計回りに、1 恒星日で 1 回転します。
緯度 \varphi では、地球の自転の角速度のうち鉛直な成分 \Omega\sin\varphi だけが、振れる面を回します。振れる面が 1 回転する時間は \dfrac{23.93\,\mathrm{h}}{\sin\varphi} で、パリでは 31.8 時間、東京では 41.0 時間です。赤道では回りません。
回る座標で考えると、おもりが動くたびに、コリオリ力が振れる向きに垂直にはたらき、振れる面を少しずつ回していきます。図は、振れる面が回るようすを、実際よりずっと速めて真上から描いたものです。
南半球では \sin\varphi が負になり、振れる面は上から見て反時計回りに回ります。