つり合いの位置は、ポテンシャル U(q) の傾きが 0 になるところです。その位置を q = 0 にとって 2 次まで展開すると、U(q) \fallingdotseq U(0) + U''(0)q^2/2 になります。傾きが 0 なので、1 次の項はありません。
残る 2 次の項は放物線で、U''(0) > 0 なら、つり合いの位置のまわりで小さく揺れる運動は単振動になります。角振動数は \omega = \sqrt{U''(0)/m} で、底の曲がり具合だけで決まります。U''(0) < 0 なら、少しずれただけで離れていく不安定なつり合いです。
一般化座標で運動エネルギーが a\dot q^2/2 と書けるときは、m のかわりに a を使います。振り子では U = mg\ell(1 - \cos\theta)、a = m\ell^2 なので、\omega = \sqrt{g/\ell} です。
図の 2 本の線は、振り子のポテンシャル 1 - \cos q と、その 2 次の近似 q^2/2 です。振れ幅 0.35 では 0.0606 と 0.0612 で 1% しか違いませんが、振れ幅 2.3 では 1.666 と 2.645 で大きく離れます。図の点は振れ幅を大きくしたり小さくしたりしながら揺れていて、縦の線が 2 本の線の差です。
一般化座標の記事で振り子の \sin\theta を \theta に置きかえたのも、これと同じ近似です。U''(0) = 0 で 4 次の項から始まるポテンシャルでは、小さい振れでも単振動にならず、周期は振れ幅によって変わります。
分子の振動も、原子のあいだの位置エネルギーの底のまわりの小振動です。水素分子では、底の曲がり具合から振動数がおよそ 1.3 \times 10^{14} Hz と決まります。
2 つのおもりを、壁とのあいだと、おもりどうしのあいだの 3 本のばねでつなぎます。ばね定数はどれも k、おもりの質量はどちらも m です。自由度は 2 で、一般化座標は 2 つのおもりのつり合いの位置からのずれ x_1 と x_2 です。
運動エネルギーは T = m(\dot x_1^2 + \dot x_2^2)/2、位置エネルギーは U = k[x_1^2 + (x_2 - x_1)^2 + x_2^2]/2 です。オイラー–ラグランジュ方程式は m\ddot x_1 = -2kx_1 + kx_2 と m\ddot x_2 = kx_1 - 2kx_2 で、それぞれの式にもう一方のずれが入っています。
x_1 の加速度に x_2 が、x_2 の加速度に x_1 が入るので、2 つの式は連立させないと解けません。このような振動を連成振動と呼びます。
図の下の線は、2 つのおもりのずれです。片方の揺れがもう片方へ移り、また戻ってくるので、x_1 も x_2 も単純な三角関数には見えません。図では、そろう動きと逆向きの動きを、0.26 と 0.22 の大きさで混ぜています。
それでも、運動方程式は x_1 と x_2 について線形です。線形の式は、変数の組み合わせを取りかえれば、たがいに関係しない式に分けられることがあります。
2 つの運動方程式を足すと m(\ddot x_1 + \ddot x_2) = -k(x_1 + x_2)、引くと m(\ddot x_1 - \ddot x_2) = -3k(x_1 - x_2) になります。和と差は、それぞれ単振動の式にしたがいます。このように運動方程式を分ける座標を基準座標、それぞれの揺れを基準振動と呼びます。
図の上は和だけが揺れる、そろって動く基準振動です。2 つのおもりが同じ向きに同じだけ動くので、真ん中のばねは伸び縮みせず、おもりを戻すのは外側のばねの力だけです。角振動数は \sqrt{k/m} です。
図の下は差だけが揺れる、逆向きに動く基準振動です。おもりが x ずれると、外側のばねから kx、真ん中のばねから 2kx の力を受けるので、合わせて 3kx になり、角振動数は \sqrt{3k/m} です。前の場面の複雑な揺れは、この 2 つを重ね合わせたものです。
基準振動に分けると、エネルギーも 2 つの基準振動のエネルギーの和に分かれ、それぞれが別々に保存します。
片方のおもりだけを引いて放すと、2 つの基準振動が同じ大きさで混ざります。すると揺れは 2 つのおもりのあいだを行き来し、k = m = 1 では、揺れがもとのおもりに戻るまでの時間は 2\pi/(\sqrt{3} - 1) = 8.58 秒です。
自由度がいくつあっても手順は同じです。T と U をつり合いの位置のまわりで 2 次まで展開すると、L は質量の行列 M とばねの行列 K を使った 2 つの 2 次形式の差になります。図の 1 行目です。
すべての座標が同じ角振動数で揺れる解 x_i = a_i e^{i\omega t} を探すと、(K - \omega^2 M)a = 0 が得られます。a が 0 でない解を持つのは行列式が 0 のときなので、\det(K - \omega^2 M) = 0 を解けば、基準振動の角振動数がすべて求まります。
ばね 3 本の例では、M は対角に m が並ぶ行列、K は対角が 2k、それ以外が -k の行列で、\omega^2 = k/m と 3k/m が得られます。対応する a は (1, 1) と (1, -1) で、図の 2 つの動きの形そのものです。
行列式の式は \omega^2 についての n 次の方程式です。M と K が対称な行列で、M が正であれば \omega^2 はすべて実数になり、K も正であれば、どの基準振動も単振動です。
平面の上で振れる二重振り子も、振れが小さいうちは 2 つの基準振動に分かれ、長さと質量が等しければ角振動数は \sqrt{(2 \pm \sqrt{2})g/\ell} です。振れが大きくなるとこの分け方が成り立たなくなるようすは、二重振り子の記事で扱います。
N 個の原子からなる分子では、自由度 3N から重心の移動の 3 と回転の 3 を除いた 3N - 6 個の基準振動があり、直線の分子では 3N - 5 個です。二酸化炭素は直線の分子で 4 個の基準振動を持ち、そのうち曲がる振動は波長 15 μm の赤外線を吸収して、地球の大気の温室効果の大きな原因になっています。
橋や建物の揺れも、同じ方法で基準振動に分けて調べます。地震のときは、地面の揺れの周期が建物の基準振動の周期に近いほど、建物は大きく揺れます。