ローレンツ力と仕事:磁場が粒子の速さを変えない理由
磁場のなかを飛ぶ荷電粒子は曲がります。ただし速さは変わりません。
は速度と磁場のなす角です[1]。この力の向きが、いつでも速度に垂直になっている。垂直な力は仕事をしないので、運動エネルギーが動きません[2]。
進む向きだけが変わり、速さはそのまま。電場による力とは、ここが決定的に違います。
電場の向きに平行にはたらく。速さを変える(加速や減速をする)
速度に垂直にはたらく。速さは変えず、向きだけを変える
速度に垂直なら円になる
速度と磁場が直交しているとき、力の大きさは で一定です。向きはつねに進行方向の真横。
大きさが一定で向きが真横の力は、向心力そのものです。粒子は等速円運動をします[2]。
これを について解きます。
質量が大きいほど、速いほど大きく回る。磁場が強いほど、電荷が大きいほど小さく回ります[3]。
一周にかかる時間は速さによらない
周期は円周を速さで割った値です。 に を入れます。
が消えました[2]。速い粒子は大きな円を描きますが、そのぶん長い道のりを速く回るので、一周の時間は同じになります[3]。
サイクロトロンはこの性質を使う装置です。粒子が速くなっても戻ってくる時刻が変わらないので、電場の切りかえを一定の周期で続けられる。
周期が速さによらない、という性質は 粒子の種類と磁場だけで決まる ことを意味します。 が同じなら、どんな速さでも同じ周期。
陽子と重水素の原子核では が 2 倍違うので、周期も 2 倍違う。この差を使って粒子を選別できる。
斜めに入るとらせんになる
速度が磁場と斜めをなすときは、成分に分けます。磁場に平行な成分は力を受けないのでそのまま等速で進み、垂直な成分だけが円を描く。
2 つを合わせるとらせん運動になります[2]。1 周のあいだに軸方向へ進む距離をピッチと呼び、 で出ます。

速度が磁場と完全に平行なら で、力は です。粒子はまっすぐ進みます。
符号で向きが逆になる
力の向きは、正電荷ではフレミングの左手の法則で決まります。負電荷では逆向き。
電子は電流と反対に動くので、電流の向きで考えるときは向きが 2 回ひっくり返ります。どちらで考えるかを決めてから当てると、混乱しません。
例 1:電子の回る半径
の電子が の磁場に垂直に入ります。
です。ミリテスラという弱い磁場でも、手のひらに収まる大きさまで曲げられます。
例 2:周期を出す
例 1 の電子の周期を出します。
速さを 2 倍にしても、この値は変わりません。半径だけが へ広がります。
例 3:アルファ粒子を曲げる
質量 、電荷 のアルファ粒子を、 の磁場で 度曲げます[2]。
度は 4 分の 1 周なので、かかる時間は です。
例 4:質量で分ける
同じ電荷で同じ速さの 2 種類のイオンを、同じ磁場へ入れます。半径は から質量に比例する。
質量数 と の炭素なら、半径の比も です。 の円なら ほどの差になり、検出器で十分に見分けられます。
質量分析器はこの差を読む装置です。同位体の比率を高い精度で測れます。
例 5:らせんのピッチ
例 1 の電子が、磁場と 度をなす向きで入ったとします。平行な成分は 。
進むあいだに 1 回転します。垂直な成分は なので、半径は ほど。
例 6:オーロラができるところ
地球の磁場につかまった荷電粒子は、磁力線に沿ってらせんを描きます。極に近づくほど磁場が強くなり、半径が小さくなる。
やがて進む向きが反転し、南北の極のあいだを往復します。極の上空で大気とぶつかった粒子が、酸素や窒素を光らせる。これがオーロラです。
磁場のなかを円運動している荷電粒子の速さを 2 倍にしました。1 周にかかる時間はどうなりますか。
- 2 倍になる
- 変わらない
- 半分になる
押さえどころ
磁場は荷電粒子の進路を決める道具で、エネルギーは与えません。速さを変えたいときは電場を使う。加速器がこの 2 つを組み合わせているのは、役割が分かれているためです。
















周期は T=2πm/(qB) で、速さが入っていません。速いぶん半径も 2 倍になり、道のりと速さが同じ割合で増えるので時間は変わらない。この性質がサイクロトロンを成り立たせています。