探査機を惑星のそばへ通します。惑星の重力に引かれて道は曲がり、双曲線を描いて通り抜けます。
惑星の立場で見ます。遠くから来て、遠くへ去っていく。出発点も行き先も無限に遠いところなので、位置のエネルギーはどちらも です。
エネルギーは変わらないのですから、入るときと出るときの速さは同じです。 km も速くなっていません。
変わったのは向きだけです。ここまでを見るかぎり、探査機は何ももらっていません。
立場を太陽へ移します。惑星そのものが動いているので、惑星の立場で見た速度に惑星の速度を足したものが、太陽の立場での速度になります。
足す相手は、入るときも出るときも同じ惑星の速度です。ところが足される向きが違います。前の場面で向きが変わったからです。
向きの違う つに同じものを足すと、結果の長さは違ってきます。惑星の後ろ側を回れば長くなり、前側を回れば短くなります。
つまり、燃料を使わずに速さが変わりました。惑星の立場では何も起きていないのに、太陽の立場では速くなっている。どちらの見方も正しく、矛盾もありません。
同じことを、もっと身近なもので置き換えます。こちらへ走ってくるトラックに、ボールを投げつけます。
トラックの立場では、ボールは来た速さのまま跳ね返るだけです。速さは変わりません。
地面の立場では違います。跳ね返ったボールは、トラックの速さの 倍だけ速くなっています。トラックが秒速 m で走っていれば、ボールは m ぶん速くなって返ってきます。
エネルギーは湧いていません。ボールが得たぶん、トラックは遅くなっています。ただしトラックのほうが桁違いに重いので、その減り方は測りようがありません。
この方法を最も大きく使ったのが、 年に打ち上げられたボイジャー 号です。
木星、土星、天王星、海王星。 つを順に通り抜けていきます。 つ通るたびに速さをもらうので、外側まで届きました。同じところへ直接向かおうとすれば、当時のロケットでは足りません。
つが順に通れる並びになるのは、 年に 度です。 年代がちょうどその時期で、次は 世紀まで来ません。
海王星を通り抜けたあと、 号は太陽系を出ていきました。 つの惑星からもらった速さで、いまも遠ざかりつづけています。
エネルギーが湧いてこないのは、ここでも同じです。探査機が速くなったぶん、惑星は遅くなっています。
どれだけ遅くなるかは、質量の比で決まります。木星は探査機より 桁以上重いので、公転が遅れる量は の 乗分の ほど。測る手立てがありません。
逆向きにも使えます。惑星の前側を通れば、探査機は遅くなります。太陽へ近づく探査機は、金星や水星のそばを何度も通って速さを削っています。
次の記事では、燃料を使う場合に話を戻します。同じだけ噴かしても、どこで噴かすかで効き方が変わります。