三体問題(保存量が足りないこと・ポアンカレの証明・オイラー解とラグランジュ解と 8 の字解)

1 つ足すだけで、道がほどける

ここまでは天体が つの世界でした。楕円は閉じ、位置は式で出て、 年先まで同じ手つきで計算できました。

つ目を足します。同じ重さのものを つ、それだけです。すると道は二度と同じところを通らなくなります。

閉じた形の答えは出てきません。 つ足しただけで、書き下せていたものが書き下せなくなります。

この落差が、天体力学のいちばん深いところにあります。ニュートンが式を出してから 年、多くの人がここで止まりました。

使える保存量が、足りない

なぜ書けないのか。数えてみると分かります。

つの天体を追うには、位置と速度で 個の数が要ります。この 個を減らせるのが保存量です。重心の運動で 個、角運動量で 個、エネルギーで 個。合わせて 個です。

個足りません。 体のときは、保存量だけで必要な数がちょうど埋まっていました。だから式に書けたのです。

ほかに使える保存量はないのか。ブルンスが 年に、ポアンカレが 年に、そういうものは存在しないことを示しました。見つかっていないのではなく、ないと証明されています。

刻んで、少しずつ進める

式に書けなくても、値は出せます。いまの位置と速度から力を出し、わずかな時間だけ進める。それをくり返します。

刻みごとに、わずかなずれが出ます。力が刻みのあいだ一定だとみなして進めるからで、実際には変わっているぶんが誤差になります。

刻みを細かくすればずれは小さくなりますが、消えはしません。そして刻みの数が増えるので、積もる回数も増えます。ここには、どこまでも細かくすればよい、という逃げ道がありません。

進め方の工夫はいろいろあります。エネルギーが長い目で保たれる進め方を使えば、 億年ぶんの計算にも耐えます。それでも、 回の式で済ませることはできません。

特別な置き方でだけ、閉じる

すべての置き方で解けないわけではありません。特別に整った置き方なら、閉じた形が書けます。

オイラーは 年、 つが一直線に並んだまま回る解を見つけました。ラグランジュは 年、正三角形を保ったまま回る解を見つけました。どちらも形を変えずに回るので、 体と同じように扱えます。

年には、 の字の解が数値で見つかりました。 つが同じ 本の道を順に追いかけていく、風変わりな解です。 年に、それがほんとうに存在することが証明されました。

こうした解はいまも見つかりつづけています。ただ、どれも特別な置き方に限られます。任意の置き方で使える式は、やはりありません。

「解けない」が指しているもの

解けない、という言葉が何を指すのかを、はっきりさせておきます。

計算できない、という意味ではありません。 体の位置は、必要な精度で、いくらでも出せます。探査機の航行も惑星の位置も、実際にそうやって出しています。

言っているのは、閉じた式に書けない、ということだけです。 体では時刻を式に入れれば位置が出ました。 体では、知りたい時刻まで刻んで進めるしかありません。

そして、この違いはただの手数の違いにとどまりません。刻んで進めるしかない、ということが、この章の残りにつながっていきます。それでも実際に航行できていること、 体の中にも動かない場所があること、そしてそのずれが開いていくことです。